抄録
【目的】我々は第 99 回本大会において,ウシ子宮内膜に vascular endothelial growth factor (VEGF) mRNA が発情周期を通じて発現することを示した。本研究では,ウシ子宮内膜における VEGF の生理的役割を明らかにする目的で,ウシ子宮内膜における発情周期を通じた VEGF レセプター (Flt-1 および Flk-1) mRNA 発現量の変化を調べるとともに,子宮内膜間質細胞の prostaglandin (PG) F2α, および PGE2 合成におよぼす VEGF の影響について検討した。
【方法】1) 発情周期各期 (排卵日 [Day 0], 黄体期初期 [Days 2-3], 黄体形成期 [Days 5-6], 黄体期中期 [Days 8-12], 黄体期後期 [Days 15-17], 卵胞期 [Days 19-21]) のウシ子宮内膜組織における Flt-1 および Flk-1 mRNA 発現量の変化を半定量的 RT-PCR により調べた。2) 排卵後 0-5 日の子宮内膜組織から単離した間質細胞に VEGF (5, 50, 200 ng/ml) を添加し,6 時間または 24 時間培養した。その後,培養上清中の PGF2α および PGE2 濃度を EIA により測定するとともに,細胞数を DNA 量から算定し,PG濃度を細胞あたりに換算した。
【結果】1) 子宮内膜組織の Flt-1 および Flk-1 mRNA 発現は発情周期を通じて認められた。また,Flt-1 mRNA 発現は,排卵日,黄体期初期および黄体形成期と比較して黄体期中期から卵胞期にかけて高く (P<0.05),Flk-1 mRNA 発現量は黄体期初期および黄体形成期と比較して黄体期中期に高かった (P<0.05)。 2) VEGF (200 ng/ml) は 24 時間の培養において,子宮内膜間質細胞の PGF2α分泌を刺激したが (P<0.05),PGE2 分泌におよぼす VEGF の影響は認められなかった。以上より,VEGF は発情周期を通じてウシ子宮内膜の機能調節に関与し,その作用はレセプター発現の高い黄体期中期および後期において強い可能性が示された。また,VEGF はウシ子宮内膜間質細胞の PGF2α 合成を刺激することにより,黄体退行を促進する可能性が示唆された。