抄録
【目的】骨髄細胞(BM)は大動脈生殖隆起中腎(AGM)領域に由来し,その起源が生殖細胞と同じであり,それらの中にES細胞に匹敵する特性を示す,極めて高い多能性を持った成体前駆細胞(MAPC)の存在が報告されている。そこで本研究では,ラットにBMを移植し,生殖細胞を含めた卵巣組織への寄与について詳細な解析を行った。【方法】Wistar Imamichi 系成熟雌ラット(WIラット)にBusulfan (Bu) 0~18 mg/kg体重とCyclophosphamide (Cy) 0~180 mg/kg体重を複合投与した。投与後,GFP遺伝子導入ラット(GFPラット)より採取したBMをWIラットの尾静脈より移植した(BMTラット)。移植後2ヵ月で卵巣および体細胞組織を採取し,4% palaformaldehydeで固定後,凍結切片を作製した。作製した切片のGFP陽性細胞をUV照射下で観察した。さらにGFP陽性細胞を抗GFP抗体により免疫組織化学的に染色し,局在を調べた。また,末梢血中の全細胞に対するGFP陽性細胞数を算出した。【結果】Bu 18 mg/kg体重とCy 180 mg/kg体重の投与区で,4.9%の個体で移植した骨髄細胞の定着が認められた。末梢血中のGFP陽性細胞の割合はGFPラットで51.5%であったのに対し,BMTラットでは38.1%であった。移植後2ヵ月のBMTラット卵巣において,間質細胞,黄体細胞,卵胞内顆粒層細胞および卵丘細胞で多数のGFP陽性細胞が観察され,免疫組織化学的染色の結果でも同様の局在が認められた。一方,GFP発現を示す卵母細胞は観察されなかった。また,卵管や子宮の生殖器官,肝臓,脾臓,筋肉や消化器官などの臓器でもGFP陽性細胞が観察された。【考察】BuとCyの複合処理により免疫機能を抑制することで移植した骨髄細胞が定着することが示された。組織学的解析の結果,骨髄細胞は体組織だけでなく,卵母細胞を除く卵巣組織や生殖器官にも寄与する知見が初めて明らかにされた。