抄録
【目的】受精・初期胚発生は、高度に分化した配偶子が最も未分化な細胞へと転換し、その後徐々に個々の細胞系譜へと分化してゆく過程である。その間、ゲノムワイドにエピジェネティック修飾やクロマチン構造の変動が起きることが最近の研究により明らかとなってきた。しかし哺乳動物の場合、これら一連のイベントは細胞の質的量的問題から生化学的解析が困難であり、また時系列的に原因と結果という関係で結ばれていることも多いため、細胞固定を必要とする抗体染色などでは事実を掴みきれないことがある。そこで、われわれは初期胚を用いた蛍光ライブセルイメージングシステムの開発を行った。【方法・結果】卵子、初期胚内において手軽にすばやく蛍光タンパク質のシグナルを得るために、mRNAマイクロインジェクション法を用いた。また、効率良くmRNAをタンパク質に翻訳させるために、in vitro mRNA合成に用いるプラスミドの3’UTR後域にあらかじめ83個のアデニンから成るpoly(A)配列を付加したものを作製した。実際にこのプラスミドを用いて合成したEGFPのmRNAを未受精卵にインジェクションしたところ、3時間後には十分な蛍光シグナルを観察することができた。そのシグナル強度はインジェクションに用いたmRNAの濃度に依存していた。検出のための顕微鏡システムとして、通常の倒立型顕微鏡にZ軸モーター、ニポウディスク式共焦点ユニット、超高感度EM-CCDカメラを付属させ、ステージ上に小型のCO2インキュベーターを設置したものを構築した。完成したシステムは検体に対して極めて低侵襲性であることが最大の特徴であり、着床前初期発生における核・紡錘体形成について70時間におよぶ3次元タイムラプス蛍光観察を可能にした。【考察】本イメージングシステムでは胚の蛍光観察後も引き続き培養・移植を行うことで個体発生が可能であり、加えて産仔はトランスジェニック動物にはなっていないことから、着床前診断法や胚の選別技術として応用できる可能性を示している。