日本繁殖生物学会 講演要旨集
第100回日本繁殖生物学会大会
セッションID: P-56
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精巣・精子
ブタ精子の部位特異的な細胞内cAMPシグナリング:ハイパーアクチベーション誘起に伴う鞭毛主部でのPKAおよびPDK1のcAMP依存的な変化
*原山 洋田手 俊輔中村 和美設楽 修三宅 正史
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抄録

【目的】私達は哺乳類精子の頭部,頚部および鞭毛の各部位でそれぞれ受精関連現象に機能するcAMPシグナリングの究明を進めている。本研究では,cAMPアナログ(cBiMPS: cBi)処理によるハイパーアクチベーション(HA)誘起時に鞭毛主部で起こるPKAとPDK1のリン酸化状態の変化を観察した。【方法】ブタ洗浄精子をcBi添加mKRH-PVA液中でインキュベートし,HAを誘起した。cBi処理の前および後に試料の一部を光学顕微鏡下での鞭毛運動の観察に使用した。残りの試料は各種抗体[抗PKA触媒サブユニット,抗リン酸化PKA触媒サブユニット(pThr-197),抗pSer/pThr,抗PDK1,抗リン酸化PDK1(pSer-241),抗pTyr]を用いたウエスタンブロット法と間接蛍光抗体法に供した。【結果と考察】HA精子の割合はcBi処理180分後に著しく上昇した。鞭毛主部のPKA触媒サブユニットはcBi処理30分後に超活性化に必要なThr-197での自己リン酸化を示した。また同時にPKA基質タンパク質での強いSer/Thrリン酸化反応も主部で認められた。従って主部のPKAはcBi処理30分後にすでに超活性化していたと考えられる。しかし,PKAシグナリングの下流域に位置し,その制御下にあるタンパク質Tyrリン酸化状態に上昇が見られたのはcBi処理90分以降で,180分後での上昇はとくに顕著であった。他方,鞭毛主部では54/55 kDa型と59 kDa型のPDK1が検出された。またPDK1の活性化に必要なSer-241でのリン酸化状態を調べたところ,cBi処理90分以前では少なくとも54/55 kDa型または59 kDa型のいずれか一方がリン酸化されていたが,処理180分後には両型とも脱リン酸化され不活性型となった。最近,PI3K-PDK1-Aktシグナリングが哺乳類精子でのタンパク質Tyrリン酸化を抑制することでHAの発現のタイミングを調節していると報告されたが,cBi処理されたブタ精子において,タンパク質Tyrリン酸化状態の顕著な上昇およびHAの発現と同時にPDK1が不活性化した点はHAの発現機構を解明するうえで興味深い。

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© 2007 日本繁殖生物学会
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