日本繁殖生物学会 講演要旨集
第100回日本繁殖生物学会大会
セッションID: P-57
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精巣・精子
マウス精子の走温性におけるTransient Receptor Potential Vanilloid (TRPV) 4の関与
*河西 多恵鈴木 誠水野 敦子高橋 大甲木 潤橋本 聡Quzi Sharmin Akter盧 尚建佐々木 晋一辻井 弘忠濱野 光市
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抄録

【目的】最近,ウサギ精子が排卵に伴う卵管狭部と膨大部間の約2℃の温度差を認識し,高温域へと移動する走温性が報告されたが,その調節および作用機構はまだ解明されていない。TRPV4は温度受容に寄与するTRPチャンネルの一員であり,35℃以上の温度域で活性化することが知られている。本実験ではマウス精子における走温性とTRPV4の関与を調べることを目的に,TRPV4欠損(KO)マウスの精巣および精子の機能を分子生物学的および免疫組織化学的に解析した。【方法】精子はC57BL/6成熟雄(WT)マウスおよびKOマウスの精巣上体尾部から採取した。精子は、TYH培地内で1-4時間インキュベート後60 mmのペトリデッシュに15μlのTYH培地で作製したT字型のカラム(縦0.5cm, 横3.5cm)の縦カラム先端に導入し,約2℃の温度勾配を設けた横カラム両端に到達した精子数を測定して走温性を評価した。TRPV4遺伝子の発現はマウス精巣細胞の全RNAのRT-PCRにより検索した。TRPV4蛋白質の局在はTRPV4抗体による免疫染色により調べた。また,精子の受精能獲得前後の運動性と運動型の変化(ハイパーアクチベーション:HA誘起)を調べた。【結果】受精能獲得前のWTマウス精子は横カラムに設定した温度勾配の高温域に高率に移動し,走温性を示すと思われた。RT-PCRによりWTマウス精巣細胞におけるTRPV4遺伝子の発現を確認した。TRPV4蛋白質はWTマウス精子頭部において強い局在性を示した。KOマウスの精子はT字型カラムの低温域に比べ高温域に移動した。受精能獲得前の精子の運動性はWTとKOマウスで差はなく,受精能獲得後低下した。WTおよびKOマウスの精子のHA誘起率は,TYH培地内でのインキュベーションに伴い上昇したが,KOマウス精子の上昇率は低かった。WT に比べ,KOマウス精子のHA誘起が遅延したことから,TRPV4が受精能獲得やHAなどの精子の生理学的変化に関与していることが推察された。以上のことからマウス精子における走温性が推察され,TRPV4の関与の可能性が示唆された。

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© 2007 日本繁殖生物学会
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