抄録
[目的] クローン胚の多くは胚盤胞へ発生するが,個体への発生率は数%と低い。原因として,不完全な初期化による遺伝子発現異常や核移植操作による染色体へのダメージが報告されている。しかしながらそれらの異常は胚の外見では識別できず,従来の免疫染色法では固定により胚の発生能力が失われるため,直接個体発生と結びついた解析ができていない。我々はすでに長期間蛍光観察しても個体発生可能なライブセルイメージングシステムの開発に成功している。今回我々はマウスクローン胚の染色体動態をライブセルイメージングすることで,外見では識別不可能な異常を生きたまま検出し,クローン胚の初期発生における異常と個体発生をダイレクトに結びつける試みを行った。 [方法] MII期卵子にEGFP- tubulinとhistone H2B-mRFP1をコードしたmRNAを注入後除核し,卵丘細胞の核を移植した。活性化後に前核が確認された胚を様々な条件でイメージングし発生能を検討した。イメージング後,各クローン胚を取得画像をもとにグループ分けして偽妊娠雌マウスに移植し,19.5日目に帝王切開して個体への発生を確認した。[結果と考察] mRNAを注入し,3万枚近い蛍光画像を取得してもクローン胚の発生率は低下しなかった。画像解析の結果,約30%のクローン胚が2細胞期に分裂する過程で染色体分配異常(abnormal chromosome segregation, ACS)を起こしていた。またクローン胚間の発生速度にもばらつきがみられ,桑実胚期における核の数にも差があることがわかった。胚移植後,ACSの胚や発生速度が遅い胚からは個体は得られなかったが,正常に近い発生速度を示す胚からはクローン個体を得ることに成功した。本研究により,2細胞期までにACSを起こさず,かつ桑実胚期に8個以上の核を持つことが個体へ発生する最低条件であることが明らかとなった。今後より多くのマーカーを指標として,確実に個体発生するクローン胚を早期に特定したいと考えている。