日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第7回大会
セッションID: P-23
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ポスターセッション
新規p53ターゲットANX4は卵巣明細胞腺癌のp53活性を低下させる
*増石 有佑荒川 憲昭川崎 博史宮城 悦子平原 史樹平野 久
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抄録

卵巣明細胞腺癌(CCA)は、高い薬剤耐性と血行転移性を示し、早期発見されても再発率の高い、予後不良な卵巣癌組織型である。このような性質をCCAが獲得するための分子メカニズムについては不明な点が多い。先にわれわれは、プロテオミクス的アプローチから、アネキシンIV(ANX4)の発現量がCCA特異的に増加していることを見いだした。これはmRNAレベルにおいても同様の結果が得られたことから、CCAにおけるANX4の発現は転写レベルで起きていることが示唆された。そこで、まずCCAの分子生物学的特徴を明らかにするために、ルシフェラーゼレポーター遺伝子を用いて、ANX4遺伝子の発現調節機構を解析したところ、CCAにおけるANX4遺伝子の発現に重要なp53結合領域が見つかった。さらに、siRNAを用いてp53を発現抑制すると、CCA細胞におけるANX4の転写活性およびmRNAが低下した。しかしながら、p53タンパク質の発現量においては、CCA細胞では非CCA細胞と比較して著しく低いという、ANX4発現とは相反する関係が見られたが、p53遺伝子の変異は全く検出されなかった。これは様々な卵巣癌の症例においてp53の変異はCCAでは認められないという、これまでの報告と一致している。したがってANX4は、野生型p53により発現調節を受けるp53の新しい標的遺伝子であることが明らかになった。p53標的遺伝子は、主に細胞の増殖抑制やアポトーシス誘導に関連することがよく知られているが、これとは逆に負のフィードバックによりp53の細胞内寿命を低下させる癌遺伝子も存在する。そこでCCAにおけるANX4の生理的役割を明らかにするために、siRNAを用いてANX4の発現抑制を行った。その結果、ANX4 siRNAを導入したCCA細胞では、p53およびp21のタンパク質の増加と細胞増殖の阻害が引き起こされることがわかった。これらの結果から、CCAにおいてp53により発現上昇している ANX4が、負のフィードバックを介してp53の細胞内存在量を低下させるという、本疾患の発症・進展に関わる複雑な機構が存在することが示唆された。

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© 2009 日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
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