抄録
[目的] 内分泌系の要である下垂体の発生と分化には、多種の転写因子が関与している。その一つであるProp-1は、下垂体で特異的に発現し、その形成やホルモン産生細胞の分化に大きな影響を与える。マウスでは、Prop-1は下垂体発生初期にのみ発現し、生後では発現していないとされてきた。一方、我々はRT-PCRとin situ hybridization で、Prop-1 が生後のラット下垂体に発現していることを確認した。そこで、抗Prop-1抗体を作製し、免疫組織化学による解析を行った。
[方法]ラットProp-1 アミノ酸No.126 / 223-TrxA-His tag融合タンパク質を抗原として抗体を作製し、特異性を吸収実験により確認した。免疫染色には、ラット胎齢12.5日から性成熟後までの下垂体を用いた。同時に、種々の抗体により二重免疫染色を行い、Prop-1陽性細胞の同定を試みた。
[結果]ラットでは既報の下垂体発生初期だけではなく、成熟後もProp-1が存在することを確認した。成熟ラット下垂体の二重免疫染色では、Prop-1はホルモンおよびPit-1陽性細胞とは異なる細胞に存在することが確認された。さらに、S100β-GFP トランスジェニックラットを用いて調べたところ、Prop-1陽性細胞の約78%がS100β陽性である事がわかった。残りの22%のProp-1陽性細胞は、ホルモンもS100βも発現していない未同定と判断される細胞であった。そこで、Progenitor細胞のマーカーとして知られるSox2抗体との二重免疫染色を行ったところ、Prop-1陽性細胞はすべてSox2陽性であった。したがって、Prop-1陽性細胞はSox2陽性/S100β陽性とSox2陽性/S100β陰性の少なくとも二種類の細胞に分類された。
以上のことから、下垂体特異的に発現するProp-1は、Progenitor細胞であるSox2陽性細胞に存在して、その未分化能の維持や修飾への関与が予想される。