抄録
[目的]Prop-1は矮小化を示すAmes mouseの原因遺伝子として同定された、下垂体特異的転写因子である。我々はラット下垂体において免疫組織化学による検討を行い、Prop-1は胎仔期および生後においても下垂体のどのホルモン産生細胞にも存在しないが、Prop-1はprogenitor細胞のマーカーであるSOX2や、濾胞星状細胞のマーカーであるS100βタンパク質と共存することを見出した(本大会、吉田ら)。これらのことから、Prop-1は下垂体細胞の発生・分化の過程において組織特異的細胞の維持という点からも重要な因子であることが示唆された。しかし、Prop-1の詳しい発現調節機序は不明であることから、レポーターアッセイ系を用いてProp-1遺伝子のプロモーター解析を行った。
[方法]マウスProp-1遺伝子の転写開始点上流の-2994/+30領域と、第1イントロンを含む-2994/+1384領域を連結したレポーターベクターを作製し、卵巣由来のCHO細胞、下垂体ゴナドトロフ系譜のLβT2細胞、下垂体濾胞星状細胞系譜のTpit-F1細胞を用いてレポーターアッセイを行った。
[結果]全ての細胞で、Prop-1遺伝子のbasalな発現レベルは第1イントロンの存在によって8~40倍に高まり、第1イントロンがプロモーター活性に強い影響を与えることが判った。一方、Prop-1遺伝子に対するSOX2の作用は細胞ごとに異なり、CHO細胞では認められず、LβT2細胞において抑制し、Tpit-F1細胞において促進した。この事から、SOX2は他の因子と共役することでProp-1のプロモーター活性に異なる作用を及ぼすことが考えられる。下垂体の発生分化の過程で、胎仔期初期にはSOX2のみが発現し、その後SOX2とProp-1が共存し、さらにホルモン産生細胞に分化すると両者は消失する。本研究の結果は、このProp-1遺伝子発現にSOX2が関わっていることを示唆したものと考えられる。