抄録
【目的】卵巣の皮質には胎生期に形成された数十万の原始卵胞があり、ゴナドトロピンによってその一部が発育・成熟を開始し、排卵にいたる。排卵後黄体が形成され、妊娠した場合は妊娠黄体として妊娠の維持につとめ、やがて退行する。妊娠しなかった場合は速やかに退行する。黄体の退行を制御する分子機構には未解明な点が多い。先に演者らは卵胞閉鎖が顆粒層細胞のアポト-シスによって支配されており、細胞内抗アポト-シス因子(cellular FLICE like inhibitory protein:cFLIP)が顆粒層細胞の健常性を保つ役割をはたしていることを報告してきた。黄体細胞は顆粒層細胞と卵胞膜細胞に由来するが、今回これらの健常性を保つ機構に顆粒層細胞と同様にcFLIPが関わっているか否か調べた。【方法】食肉処理場にて採取した卵巣から初期黄体、中期黄体、後期黄体、排卵直前白体、黄体共存白体、妊娠黄体に分類した黄体および白体を切り出し、各々を細切した。一部を常法に従ってパラフィン切片としてTUNEL染色および免疫染色(proliferating cell nuclear antigen:PCNAとcFLIP)に供した。各々の残りからmRNAとタンパクを調製し、cFLIPsとcFLIPlのmRNAとタンパクの発現をRT-PCR法とwestern blot法で調べた【結果】PCNA陽性細胞の多い黄体ではcFLIP陽性細胞が多く、逆にTUNEL陽性細胞の多い黄体では少なかった。cFLIPs mRNAの発現は初期と中期黄体より後期黄体が有意に低く、cFLIPl mRNAは黄体中期で有意に高かかった。cFLIPs mRNAの発現は2種類の白体間で有意差がなかったが、cFLIPl mRNAの発現は黄体共存白体より排卵直前白体で高かった。妊娠黄体でもcFLIPsとcFLIPl mRNAが発現していた。cFLIPsとcFLIPlタンパクの発現量は黄体中期で高く、その後退行に伴って減少した。cFLIPは健常黄体の黄体細胞に高発現してそれの生存維持に役立っていると考えられた。