抄録
【目的】ウシ黄体は血管新生を伴いプロジェステロン(P)産生・分泌機能を獲得しながら成長する。妊娠不成立の場合は,PGF2α (PGF)がP減少・血管退縮を引き起こし,黄体退行を誘導する。黄体が迅速に退行するには,黄体機能抑制因子だけではなく,血管新生・黄体形成促進因子も厳密な調節を受けると考えられる。本研究では特にウシ黄体退行の開始直後に着目し,血管新生・黄体形成促進関連因子群の発現変動を経時的に調べた。【方法】発情周期(発情=Day0)の中期黄体(Days10-12)を持つウシにPGFを筋肉内投与し,5分,15分,30分,2時間および12時間後に卵巣を除去した(n=4-5/区,対照区=生理食塩水)。黄体を採取し,大型血管が存在する黄体周辺部と毛細血管が密集する黄体中心部に分類した。血管新生関連因子として,血管内皮増殖因子(VEGF)120とVEGF164,アンギオポエチン(Ang)-1とAng-2を,黄体形成関連因子としてIGF-1とIGF-IIのmRNA発現をReal-time PCRを用いて定量した。また,黄体組織中のVEGF,Ang-2,IGF-1含量をRIAで測定した。【結果】VEGF120とVEGF164 mRNA発現は,黄体中心部ではPGF投与後15分で減少したのに対し,黄体周辺部では12時間で減少した。VEGF含量はPGF投与後30分で減少し,低い値で推移した。Ang-1 mRNA発現は,黄体中心部でのみPGF投与15分以降で低い値を維持した。黄体中心部のAng-2 mRNA発現は,PGF投与後5-15分および12時間で減少したが,黄体周辺部では12時間で減少した。Ang-2含量はPGF投与後30分と2時間で増加した。IGF-1 mRNA発現は変動が見られなかったが,IGF-1含量は投与後30分から減少した。IGF-II mRNA発現は黄体中心部でのみPGF投与5分で減少傾向,15分で有意に減少した。結論として,PGF投与後5-15分で血管新生や黄体形成関連因子群のmRNA発現を減少させ,これは黄体周辺部ではなく黄体中心部で起きる局所的な現象であることが示唆された。以上から,黄体退行開始早期のPGFによる血管新生・黄体形成促進因子群の抑制機構が,迅速な黄体退行の一要因である可能性が考えられた。