抄録
【目的】実験用シリアンハムスターの胚・精子凍結保存はマウスに比べ困難である。そこで我々は卵巣凍結保存によるシリアンハムスター系統保存技術の確立を目的として卵巣移植法の検討を行ってきた。既に第99回本大会にて異なる系統間の免疫拒絶が少なく,毛色の異なる系統間で新鮮卵巣移植によりシリアンハムスター産仔が作出できることを報告した。この経験を踏まえて,本研究では液体窒素内でガラス化保存したシリアンハムスター卵巣から卵巣移植による産仔の作出を試みた。【方法】2~3週齢のHAW系雌シリアンハムスター(自家繁殖,毛色は白)より卵巣を採取した。卵巣を四分割したのち,マウス卵巣凍結保存法(Migishima et al., Biol Reprod 68:881-887, 2003)に準じてDAP213によるガラス化凍結保存法を用いて液体窒素内で保存した。まず新鮮卵巣および凍結融解卵巣を組織学的に比較した。卵巣移植時には手術直前に凍結保存卵巣を解凍し,移植まで氷上にて保冷した。卵巣を移植する系統として毛色の異なる3週齢の野生色シリアンハムスター(Slc:Syrian)を用い,イソフルランによるガス麻酔下(ナルコビット,夏目製作所)にて背部より開腹し,卵巣嚢を切開して卵巣を半分から三分の二切除した後,卵巣嚢内へ凍結保存卵巣2個(四分割したものを二つ)挿入した。卵巣移植を受けた個体が術後回復し,成熟日齢に達した時点でHAW雄と交配し,得られた産仔の毛色を調べることにより,移植卵巣の正着を判定した。【結果】光学顕微鏡による観察では新鮮卵巣と凍結融解卵巣の組織像に顕著な差は見られなかった。そこで卵巣移植手術を6例行ったところ,2例が出産に至り,そのうち1例で毛色が白色の産仔が得られ(4産仔中1匹),凍結融解卵巣由来の産仔作出が確認できた。【考察】非常に低率ではあるが,シリアンハムスターにおいて卵巣移植による凍結保存卵巣由来産仔生産が可能であることが確認できた。このことは,条件の最適化が必須ではあるものの卵巣凍結保存によるシリアンハムスター系統保存が有望であることを示している。