抄録
【目的】Gonocyteは幼若期の精巣中に存在する生殖細胞であり、精原幹細胞と同様に多能性幹細胞としての性質をもつ。本実験では、幼若期から性成熟後までの精巣内の生殖幹細胞について、その特異的マーカーによって発現動態を観察するとともに、Gonocyteの体外培養の可能性について検討した。
【方法】生後1週齢、性成熟期、性成熟後のウシ精巣組織の一部を固定し、生殖細胞マーカーであるDBA、UCHL1、DDX4、また、幹細胞マーカーであるNANOG、POU5F1について免疫染色を行った。一方、体外培養のために、1~2週齢の精巣からGonocyteを単離した。その後、10%FBSを含むDMEM/F12培地で培養し、培養4日から7日目に継代を行うとともに、生殖細胞マーカーと幹細胞マーカーの発現を検討した。
【結果と考察】Gonocyteは生後1週齢から3か月齢まで精細管内中央に位置し、大きな核をもっていた。生殖細胞マーカーで免疫染色した結果、DBA、UCHL1、DDX4に陽性、幹細胞マーカーであるNANOGにも陽性であった。5か月齢以降になると、これらの発現を保持したまま基底部へ移動し、精細管内の細胞数は増加した。性成熟後には、基底膜上の幹細胞は幼若期と同様のマーカーを継続的に発現するが、分化細胞ではDBAとUCHL1の発現は低下した。
1~2週齢の精巣由来のGonocyteを体外培養したところ、3日目には不定形の細胞塊を形成し、DBA、UCHL1、DDX4に陽性、NANOGやPOU5F1にも陽性であることが確認された。これらの細胞を継代すると、上記と同じマーカーに陽性を示すコロニーが現れた。これらのコロニーは少なくとも継代6回目まで観察され、BrdU染色によって細胞増殖を確認し、POU5F1遺伝子の発現も維持されていた。
以上のことから、幼若期ウシ精巣中のGonocyteはDBAやUCHL1と同様にDDX4にも陽性であり、成長因子を添加することなく、少なくとも継代6回目までは幹細胞の性質を維持したまま培養が可能であった。また、免疫染色の結果から、5か月齢以降の精巣では、精細管基底部に定着した生殖細胞はGonocyteと同様の生殖細胞マーカーを維持していることが観察された。