日本繁殖生物学会 講演要旨集
第103回日本繁殖生物学会大会
セッションID: OR1-26
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卵巣
超急速凍結法により凍結したカニクイザル卵巣組織からの卵母細胞の回収
*橋本 周鈴木 直五十嵐 豪山中 昌哉松本 寛史大田 聖竹之下 誠矢持 隆之細井 美彦石塚 文平森本 義晴
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抄録

[目的]卵巣組織内に存在する前胞状卵胞を凍結保存することは生殖細胞に影響する治療を受ける若い女性あるいは絶滅危惧種の雌性生殖細胞の保存につながる。しかし、卵巣組織の凍結方法は十分に確立されていない。本研究では超急速法 (UV)、急速法 (CV)、緩慢凍結法 (Slow)により凍結したカニクイザル卵巣皮質の融解後の卵胞形態、異所性自家移植後のホルモン動態、そして移植組織からの卵母細胞の回収とICSI後の受精能を検討した。[方法]9頭の成熟雌カニクイザルより両側卵巣を卵管とともに切除し、胞状卵胞を除去後、卵巣皮質部分を細切し、各区に配分した。UV区では1 x 0.5 x 0.1 cmのサイズで、UVを除く凍結区と対照は皮質切片を1-2 mm角に細切し、凍結した。CVとUV区ではガラス化溶液として5.6 M ethyleneglycol + 5% PVP + 0.5 M sucrose (Hashimoto ら2010)を使用した。ガラス化溶液に浸漬した切片をCV区はストローに充填し、UV区は直接、液体窒素に浸漬した。Slow区は1.5 M propanediol と0.1 M sucroseを凍結溶液とし、緩慢に冷却した。卵胞の形態評価は原始~一次卵胞の形態をHE染色あるいは電顕画像により比較した。卵巣皮質の移植は対照区1頭、Slow区1頭、CV区4頭、UV区3頭に実施した。各区1頭の移植後のE2値とP4値の変動を測定した。卵母細胞の回収は対照1頭とUV区3頭から行った。[結果]形態正常な卵胞の割合はUV区で93%とCV区の63%ならびにSlow区の59%に比べ有意に高かった (P<0.05)。卵母細胞にリソソームが占める面積割合はSlow区で2.6%とUV区 (1.3%)に比べ有意に高かった (P<0.05)。凍結組織を移植後、すべての区において3ヵ月程度でE2とP4値の上昇が認められたが、Slow区は対照に比べ低く、間もなくホルモン値の周期的な上昇が消失した。移植卵巣組織から卵母細胞の回収を試みたところ、対照から12個、UV区3頭から9個が回収され、ICSI後、それぞれ9個、7個の受精卵が得られた。[結論]UV法は卵巣組織のダメージが少なく、受精能力のある卵母細胞が回収されることが示された。

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© 2010 日本繁殖生物学会
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