日本繁殖生物学会 講演要旨集
第103回日本繁殖生物学会大会
セッションID: OR2-10
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内分泌
マウス脳におけるKiss1遺伝子のエピジェネティック制御
*冨川 順子小澤 真貴子吉田 佳絵上野山 賀久前多 敬一郎束村 博子
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抄録
キスペプチンは強力なゴナドトロピン放出能を有する神経ペプチドであり、生殖機能制御において重要な役割を果たす因子として注目されている。げっ歯類脳でのKiss1遺伝子の発現は、前腹側室周囲核(AVPV)ではエストロジェンにより亢進され、弓状核(ARC)では抑制される。Kiss1遺伝子の転写調節因子はERαの他にSp1やSp3が報告されているが、これらは一様な発現を示すため、Kiss1の発現特異性を説明することはできない。そこで、Kiss1遺伝子の発現がDNAメチル化を含むエピジェネティック機構により制御されている可能性を検証した。マウス脳で機能するKiss1遺伝子の転写開始点を同定するとともに、レポーターアッセイによりプロモーター活性が認められた領域のメチル化状態を解析した。マイクロダイセクション法を用いて採取したKiss1陽性細胞および視索前野のKiss1非発現細胞群を用い解析した結果、Kiss1遺伝子上流域はその発現状態に関わらずメチル化されていた。Kiss1発現が抑制されているマウス胎仔視床下部由来細胞株N-6においても同領域のメチル化が認められたが、N-6細胞にDNAメチル化阻害剤(5-aza-dC)およびヒストン脱アセチル化阻害剤 (TSA) を添加することによりその抑制が解除された。Kiss1遺伝子は複数の転写開始点を有することから、各variantの転写状態を詳細に解析した結果、5-aza-dCのみによっては主に胎盤、卵巣での発現が報告されているvariantの発現が増大し、TSAのみによっては脳において発現するvariantの発現が増大することが示された。以上の結果から、Kiss1遺伝子がDNAメチル化およびヒストン修飾によるエピジェネティック制御を受けること、各転写開始点からの発現制御に異なる機構が寄与し、脳ではヒストンのアセチル化状態が抑制機構の主体となっていることが示唆された。本研究は生研センター「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」の一部として実施した。
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© 2010 日本繁殖生物学会
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