抄録
【目的】Kiss1遺伝子にコードされるキスペプチンは繁殖制御に重要な役割を果たしている神経ペプチドである。我々はこれまでに発情周期をもたない交尾排卵動物であるスンクスにおいても、キスペプチンが排卵誘起に関与していることを明らかにしているが、その詳細なメカニズムは未だ不明である。本研究では、スンクスの視床下部におけるキスペプチンニューロンの局在を明らかにし、さらに様々なキスペプチンならびにGPR54アゴニストの投与による排卵誘起効果を比較検討した。【方法】KAT系統卵巣除去雌スンクスを4%パラホルムアルデヒドにて灌流固定し、脳の凍結切片を作製した。免疫組織化学およびin situ hybridizationにより、キスペプチンペプチドおよびKiss1 mRNAの局在を検討した。未経産雌スンクスを用い、suncus、rat、humanキスペプチンならびにC末端10個のアミノ酸からなるKp-10、GPR54アゴニストを単回皮下投与し、投与72時間後に実体顕微鏡下にて黄体数を確認した。【結果および考察】キスペプチン陽性線維は主に終板器官、分界条床核、室周囲核、視索前野や弓状核において観察され、視索前野や弓状核では特に多くの陽性線維が観察された。またKiss1mRNA発現細胞は弓状核で観察された。suncus、rat、humanキスペプチンは0.5 nmolで、GPR54アゴニストは5nmolで排卵が誘起されたが、Kp-10はhuman Kp-10のみ50nmolで排卵が誘起された。またキスペプチンによる排卵誘起はGnRHアンタゴニストで阻害された。これらのことよりスンクスにおいては、少なくとも視床下部弓状核においてキスペプチンニューロン細胞体が局在し、脳内に広く投射していること、キスペプチンの末梢投与はGnRHを介して排卵を誘起することが示唆された。キスペプチンとKp-10の排卵誘起効果の違いは、ペプチドの代謝速度によるものであることが考えられた。本研究は生研センター「新技術・新分野創出のための基盤研究推進事業」の一部として実施した。