抄録
【目的】アスコルビン酸(VC)は、デヒドロアスコルビン酸(DHA)の酸化還元反応により、活性酸素種を除去することで、内因性の酸化的損傷から細胞を保護する水溶性抗酸化物質である。哺乳類卵の培養系では酸化ストレスに起因する分裂初期での発生停止や退行が報告されているが、卵発生過程におけるVCの抗酸化作用の詳細は明らかになっていない。本研究では、マウス卵におけるVC合成系およびVC輸送系に関連する遺伝子の発現を調べるとともに、アルデヒド代謝酵素遺伝子欠損(ALRKO)によりVCを合成できないマウス由来受精卵の発生能を評価した。
【方法】未成熟ICR系マウスへ過排卵処理を行い、体内成熟(Vivo)あるいは体外成熟(IVM)させた第二減数分裂中期(MII)卵および卵丘細胞を得た。一部の卵はIVM後、体外受精させ、2細胞期から胚盤胞期までの受精卵を得た。それらから、リアルタイムRT-PCRによりALR、SMP30、GLO、Glut1、Glut4の発現量を評価した。また2細胞期から胚盤胞期までの受精卵について、ALR抗体を用いた蛍光免疫染色を行い、局在を調べた。さらに、ICR系の野生型(WT)およびALRKOマウス由来卵とそれぞれ同遺伝子の精子を用い、体外受精-培養(IVFC)あるいは体外成熟-体外受精-培養(IVMFC)を行い、発生能を評価した。
【結果】MII期卵におけるALR、SMP30およびGLOのmRNA発現量は、Vivo卵で高く、特にSMP30およびGLOの発現は有意に高かった。一方、卵丘細胞では、ALRの発現はみられたものの、SMP30およびGLOの発現は微量であった。ALRタンパク質は、2細胞期から胚盤胞期までの卵の細胞質に局在し、発生の進行とともに減少する傾向がみられた。IVFC後の受精率およびIVMFC後の成熟率に、WTおよびALRKO間で差はみられなかったが、胚盤胞への発生率はIVFC、IVMFCともにALRKO卵で低い傾向にあった。以上からマウス卵では、ALRがRNAレベル、タンパク質レベルで発現しているほか、VC合成系のmRNAも発現しており、マウス卵の初期発生過程ではVCによる抗酸化作用が機能している可能性が示唆された。