日本繁殖生物学会 講演要旨集
第104回日本繁殖生物学会大会
セッションID: OR1-3
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生殖工学
G9a阻害剤によるマウスクローン出生率の改善
*寺下 愉加里山縣 一夫李 羽中若山 清香野老 美紀子佐藤 英明若山 照彦
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抄録

【目的】体細胞核移植技術は、絶滅危惧種の保存、有用家畜の増産などへの応用が期待されている。しかしクローン出生率は極めて低く、実用化には至っていない。クローン胚の異常はエピジェネティック制御不全に起因すると考えられ、ヒストン脱アセチル化に関しては多くの研究が行われてきたが、ヒストンメチル化については未だ報告がない。本研究ではヒストンメチル化に注目し、クローン出生率の改善を試みた。 【方法】クロマチン構造に関わるH3K9のメチル化を制御するため、H3K9ジメチル化酵素G9aの阻害剤(BIX-01294)を用いた。はじめにBIX処理したIVF胚の出生率を求め、BIXの毒性を調べた。次にクローン胚を異なる濃度のBIX及びTSAで処理し、一部の胚は前核期及び2細胞期に免疫染色を行いH3K9me2及びacH3K9レベルを確認し、残りは胚盤胞及び産仔への発生率を調べた。またBIXが作用する時期を特定するため、ドナー細胞への前処理やPVPへの添加も試みた。 【結果および考察】IVF胚を用いた毒性実験によりBIXの試験濃度を3, 30, 300nMに決定し、クローン胚の活性化から10時間後まで、各濃度のBIXをTSAと同時に処理した。その結果、300 nMでは胚盤胞形成率が低下したが、3 nMでは84% に達し、未処理区(63%)より高い発生率が得られた。偽妊娠マウスへ移植後、3 nM BIXで処理したクローン胚の産仔率(13.3%)は未処理区(7%)と比較し有意に増加した。一方、BIXをドナー細胞へ前処理しても効果は見られなかったが、PVPに添加すると効果が見られたことから、BIXは核移植直後から効果を及ぼすと考えられた。免疫染色の結果、3-300 nM BIX処理によりクローン胚前核期のH3K9me2レベルは未処理区に比べ低下したが、acH3K9レベルは変化しなかった。現在、H3K9me2が発現調整に関わるMagea遺伝子の発現レベルを解析するとともに、他の阻害剤も用いて初期化におけるヒストンメチル化の重要性を調べている。

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