【目的】哺乳類の受精には様々なステップがあり,それらは巧妙なメカニズムによって成り立っている。しかし,受精の分子メカニズムについてはほとんど明らかになっていない。また,これまで精子上に存在するGPIアンカータンパク質が受精に関与すると言われているが,その詳細についてもよく分かっていない。本研究では,ヒト及びマウス精子において精子上に存在し抗体により受精阻害が起こると報告されている精巣内生殖細胞特異的GPIアンカータンパク質TEX101(testis expressed gene 101)に着目し,受精におけるTEX101の生理的機能を明らかにするために遺伝子欠損(KO)マウスを作製し,その機能解析を行った。【方法】TEX101の生理的機能を明らかにするために,ES細胞を用いた相同組換え法によりTex101遺伝子KOマウスを作製した。交配より得られたホモKOマウスを用いて目的遺伝子の欠損を確認後,表現型解析を行った。【結果】作製したヘテロKOマウス同士の交配からメンデルの法則に従って,正常に発育するホモKOマウスが得られた。交配実験の結果,KO雌マウスの妊孕性は正常だったが,KO雄マウスは不妊であることが分かった。その原因を探るためin vitro解析を行ったところ,Tex101KO雄マウスが産生するKO精子の形態及び運動性は正常であったが,卵透明帯への結合不全であることが明らかとなった。また,KO雄マウスの不妊の直接の原因は,KO精子が子宮から輸卵管へと移行できないことが分かった。これらの結果から,TEX101は精子の受精能において必須の因子であることが明らかとなった。本会では,TEX101の受精における機能とKOマウス解析から見えてきた受精の分子メカニズムについて報告したい。