抄録
【背景】ブタ卵母細胞(以下,卵)において,体外受精(IVF)時の多精子侵入は他の哺乳類の卵に比較して頻発し,受精卵の発生率が低い原因の一つである。我々はこれまでに,体外成熟培養後,第一極体を放出し透明帯を有する成熟卵(ZP+卵)と,ZP+卵から透明帯を除去した卵(ZP-卵)においてIVF時の精子侵入状況を比較し,透明帯が存在すると精子の侵入を促進することを示した(本学会第104回大会)。その要因として透明帯による先体反応の誘起によるものと考えられた。本研究では卵表面の精子および囲卵腔内に存在する精子を観察し透明帯の機能を検討した。  【方法】ZP+卵と,ZP+卵を0.5%プロナーゼ処理後に機械的に透明帯を除去したZP-卵を用い,凍結融解精巣上体精子にてIVFを行った。媒精時間は3時間,精子濃度は1×104/mlとした。Binding AssayによりIVF開始後1,3および5時間での卵表面に存在する精子数(ZP+卵では頭部が透明帯表面へ付着あるいは透明帯内部へ侵入した精子数,ZP-卵では頭部が卵細胞膜へ付着した精子数)を測定した。同時に0.1%プロナーゼ処理によりZP+卵の囲卵腔を拡張させ,囲卵腔に存在する精子数を調べた。また,各々FITC-PNA染色を行い先体の有無を観察した。加えて一部の卵をIVF開始後1,3,5および10時間で固定,染色し精子の侵入状況を調べた。 【結果】これまでの実験同様,ZP-卵と比較しZP+卵において精子侵入率および侵入精子数は有意に高く(P<0.05,ANOVA/Tukey検定による),侵入精子数はZP+卵,ZP-卵共にIVF開始後5時間で最大となった(それぞれ3.23ならびに2.13個)。卵表面の精子数もZP+卵において有意に多かった(P<0.01)。囲卵腔内の精子数は各経過時間において平均0.45個/卵前後で推移し,すべて先体を失っていた。  【結論】透明帯を突破した精子は先体反応が誘起され,効率よく卵細胞膜と融合していることが示された。また,卵細胞膜による多精子拒否は起きていないことが示唆された。