【目的】マウス胚では,OCT-4およびCDX2が組織分化に重要な役割を担うことが明らかとなっている。これら因子が互いの発現を抑制することで初期胚内での発現局在性が生じ,内部細胞塊および栄養膜細胞への分化を制御する。一方,ブタ初期胚では,組織分化制御機構にOCT-4およびCDX2がどのように関与するのか等不明な点が多い。そこで本研究では,RNA干渉法を用いてOCT-4遺伝子の発現抑制を行い,ブタ初期胚の組織分化におけるOCT-4の役割と,OCT-4がCDX2遺伝子発現におよぼす影響を検討した。【方法】体外受精由来ブタ1細胞期胚の細胞質に,OCT-4遺伝子発現抑制用siRNA(P-OCT-1, P-OCT-2)もしくはControl siRNAを注入する区,さらにsiRNAを注入しない区(無処理区)を設け,それぞれの処理後の胚発生と桑実期におけるOCT-4,CDX2およびFGF4遺伝子のmRNA発現量について検討を行った。【結果】P-OCT-2区のOCT-4発現量は,Control siRNA区および無処理区と比較して有意(P<0.05)に低い値を示した。CDX2およびFGF4発現量に関しては,異なる処理区間で有意な差は認められなかった。各処理を行った胚の発生においては,桑実期までの発生率に有意な差は認められなかったが,胚盤胞(BC)期胚への発生率において,Control siRNA区および無処理区と比較してP-OCT-2区で有意(P<0.05)に低い値を示した。OCT-4発現抑制が桑実期までの発生に影響をおよぼさなかったこと,OCT-4発現量の減少に伴いBC期胚への発生率が低下したことから,ブタ初期胚において桑実胚からBC期胚の時期に起こる組織分化に,OCT-4が重要な役割を担っていることが明らかとなった。また,OCT-4発現抑制によるCDX2発現量への影響が認められなかったことから,ブタ初期胚ではOCT-4がCDX2の発現を制御しないことが示唆された。