【背景】再生医療において、ES/iPS細胞を移植に用いる際、目的とする組織幹細胞への分化誘導が必要であるが、造血幹細胞のように発生後期に「場」誘導的に出現する組織幹細胞は、体外での分化誘導が困難である。これに対し我々は、サルES細胞をヒツジ胎子に移植することで、生後のヒツジ骨髄内にサル造血組織をもつヒツジの作出に成功した。本研究では、サルES細胞のヒツジ胎子内における生着および分化制御のメカニズムを解析することを目的に、移植細胞の分化状態、ヒツジ胎子の日齢および部位の影響について検討した。【方法】サルES細胞個を未分化のまま、または初期中胚葉系へ分化させた後、妊娠43-73日齢のヒツジ胎子29頭の肝臓または皮下に移植した。得られた産子におけるサルES細胞の生着および分化状態について、免疫染色およびPCRにより解析した。【結果】50日齢未満のヒツジ胎子の皮下に、サルES細胞を初期中胚葉系に分化させた後に移植した5頭中1頭、ならびに未分化サルES細胞を移植した5頭中3頭で、サルES細胞由来のテラトーマが形成された。いずれの産子においても、サル造血系細胞は検出されなかった。一方、50日齢以上における移植においては、ES細胞を初期中胚葉系に分化させた後に胎子肝臓に移植した8頭中5頭において、ヒツジ骨髄内にサル造血系細胞が検出された(1.1-1.6%)。テラトーマはいずれの産子においても認められなかった。未分化サルES細胞を移植した9頭中全頭において、テラトーマおよびサル造血系細胞は検出されなかった。【まとめ】体外で初期中胚葉系に分化の方向付けを行なったサルES細胞を、胎齢50〜73日のヒツジ胎子肝臓へ移植することで、サルES細胞の造血系分化が支持された。一方、未分化なサルES細胞をヒツジ胎子の皮下に移植した場合に、テラトーマが形成された。以上より、サルES細胞の分化状態、ならびにヒツジ胎子の日齢および部位が、ヒツジ胎子体内におけるサルES細胞の生着および造血系分化に重要な要因であることが示された。