日本繁殖生物学会 講演要旨集
第106回日本繁殖生物学会大会
セッションID: P-61
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卵巣
N-アセチル-L-システインが加齢ウシ初期胞状卵胞由来卵子の体外発育能力に及ぼす影響
*矢口 沙耶川名 宏典松本 美保細川 貴代美松井 望門司 恭典桑山 岳人岩田 尚孝
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抄録

【目的】加齢ウシから採取した初期胞状卵胞由来卵子のGSH含量が若齢ウシに比べて少なくなること,初期胞状卵胞の顆粒層細胞では,抗酸化関連の遺伝子発現が低調になっていることを我々は示している。そこで抗酸化作用のあるN-アセチル-L-システイン(NAC)が加齢ウシ初期胞状卵胞由来卵子の体外発育能力に及ぼす影響を検討した。【方法】食肉センター由来の老齢ウシ(120か月以上)卵巣の表面を薄く剥離し,初期胞状卵胞(卵子直径90–99 μm)を採取した。そこから卵子顆粒層細胞複合体を30個採取した。これらをTCM-199基礎培地でNAC 1.2 mMを添加したNAC添加区および非添加区で16日間個別培養を行った。実験1では体外発育した卵子の体外成熟を行いNACが成熟率に及ぼす影響を観察した。実験2では体外発育卵子に対して体外受精処理を行いNACが受精率に及ぼす影響を観察した。実験3では体外発育した卵子を用いて胚盤胞期胚までの発生率を対象に観察を行った。【結果】NAC添加は初期胞状卵胞由来卵子のROS含量を培養2日目及び4日目ともに低下させる傾向が観察された。実験1:体外発育卵子の核成熟率はNAC添加区で63.9 %,非添加区で68.0 %となり,NAC添加は核成熟率に影響を及ぼさなかった。実験2:体外発育卵子の受精率については,正常受精がNAC添加区39.2 %,非添加区40.5 %となり,多精子受精はNAC添加区が 35.1 % 非添加区が 28.4 %となり,NACの効果は観察されなかった。ただしこの多精子受精率は,前実験として若齢のウシを用いた場合の多精子受精率に比べても非常に高い値であった。実験3:体外発育した卵子の受精後の分割率は,NAC添加区67.2 %,非添加区45.3 %であり,より分割の進んだ胚が添加区に多い傾向が認められたが,有意な効果は観察されず,胚盤胞期胚は非添加区においてのみ観察された。本実験ではNAC添加により,加齢個体から採取した初期胞状卵胞卵子の胚盤胞期胚までの発生率を改善することができなかった。本研究はJSPS科研費 25450400の助成を受けたものです。

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© 2013 日本繁殖生物学会
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