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川崎 友里絵, 眞方 文絵, 青木 祐歌, 宮本 明夫, 白砂 孔明, 法上 拓生, 奥田 潔, 清水 隆
セッションID: OR1-1
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
会議録・要旨集
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【目的】我々は,多様な病原体の認識に関与し免疫機能において重要な役割を果たすToll-like receptor 4(TLR4)の一塩基多型(SNP)が,乳牛の空胎日数及び人工授精の回数に関連することを報告した(第104回本学会大会)。さらに,繁殖性の低下は免疫機能の低下やそれに伴う疾病の発生によって引き起こされることから,TLR4-SNPが免疫応答に与える影響を調べ,TLR4-SNPが末梢血顆粒球のアポトーシス出現率に関連することを報告した(第105回本学会大会)。本研究ではさらにTLR4-SNPが免疫細胞の遊走性やサイトカイン発現に与える影響を検証した。 【方法】TLR4-SNPのCC型とCT型の乳牛(泌乳後期,分娩後170~230日,妊娠牛)の頚静脈から採血し,末梢血顆粒球を単離するとともに,白血球数を測定し,白血球数が正常範囲内にある乳牛のみを解析に用いた。1)単離した顆粒球にリポポリサッカライド(LPS)を処理し,炎症時に白血球や種々の細胞から産生され,免疫細胞の走化性因子であるインターロイキン8(IL-8)に対する遊走性を検証した。2)顆粒球にLPSを処理し,4時間培養した後,採取した細胞からRNAを抽出し,cDNA合成後,IL-8 mRNA発現をリアルタイムPCR法にて定量解析を行った。さらに採取した培地はELISA法によるIL-8 濃度の測定に用いた。 【結果および考察】1)顆粒球の遊走率は,CC型に比べCT型で有意に高かった。2)4時間培養後の対照区及びLPS処理区の顆粒球においてIL-8 mRNA発現及び培地中のIL-8濃度は,多型間で差が認められなかった。以上の結果から,顆粒球における低アポトーシス出現率及び高い遊走能が,これまで報告してきたTLR4-SNPのCT型乳牛の良好な繁殖性に関与している可能性が示唆された。一方,IL-8の産生分泌はCT型乳牛の良好な繁殖性に関与していない可能性が示唆された。
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真方 文絵, 堀内 まや, 越前谷 陸, 三浦 亮太朗, 松井 基純, 宮本 明夫, 清水 隆
セッションID: OR1-2
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
会議録・要旨集
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【目的】乳牛の子宮内膜炎は分娩後の細菌感染によって引き起こされ,繁殖障害の主要な要因となっている。起因菌であるグラム陰性細菌の細胞壁構成成分であるLPSは,卵胞発育を制御するゴナドトロピンの分泌を阻害し,卵巣機能を障害することが報告されている。さらに,子宮内膜炎罹患牛ではその卵胞液中から高濃度のLPSが検出されており,LPSが卵巣機能に直接影響を及ぼす可能性が示唆されている。本研究では,卵胞液中のLPSが卵胞のE2産生に与える影響を検証した。【方法】食肉処理場よりウシ卵巣を採取し,直径8 mm以上の大卵胞を解析に用いた。[実験1]卵胞液中のLPS濃度を測定し,高LPS卵胞(0.5 EU/ml以上)と低LPS卵胞(0.5 EU/ml未満)に分類した。それぞれの卵胞において卵胞液中のE2濃度を測定,さらに卵胞膜細胞および顆粒層細胞でのステロイドホルモン産生関連遺伝子の発現を解析した。[実験2]LPSが卵胞のE2産生に与える影響を細胞レベルで調べるために,E2産生の基質となるアンドロステンジオン(A4)を産生する卵胞膜細胞に着目した。卵胞膜細胞をLPSで処理し,A4産生量およびA4産生関連遺伝子の発現解析を行った。【結果】[実験1]高LPS卵胞の卵胞液中E2濃度は,低LPS卵胞に比べ有意に低かった。また,顆粒層細胞のP450arom遺伝子および卵胞膜細胞のCYP17遺伝子の発現は,高LPS卵胞で有意に低かった。さらに,LH受容体(LHr)遺伝子の発現低下も認められた。[実験2]培養96時において,LPSは卵胞膜細胞でのA4産生を抑制した。また,LPS処理によりCYP17遺伝子およびLHr遺伝子の発現が有意に減少した。【考察】高LPS卵胞のE2産生抑制は,顆粒層細胞のE2産生阻害に加え,LPSによる卵胞膜細胞のA4産生の阻害によって引き起こされることが明らかとなった。本研究より,卵胞液中のLPSによる局所的な卵胞機能の抑制が,乳牛の子宮内膜炎における卵巣機能障害の一因となっている可能性が示された。
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熊澤 真琴, 陳 華濤, 山内 伸彦, 服部 眞彰
セッションID: OR1-3
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
会議録・要旨集
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【目的】LHのサージ的分泌や排卵はほぼ決まった時間帯に起こることから,生殖活動においても概日時計との関係が示唆されている。概日リズムの中枢は視交叉上核であるが,卵巣でも独自の時計遺伝子の発現が報告されている。排卵に必要なLHサージはP4の生成を促すが,P4分解酵素の発現も上げる。PRLはP4分解酵素の発現を抑制するために,黄体機能の維持に必須のホルモンである一方,ストレス応答などによって慢性的に過剰分泌されると不妊になる。そこで本研究では,PRLによる生殖活動への影響を解明するために,顆粒膜細胞におけるPRLによる細胞時計への制御について解析した。【方法】Per2-dLucTGラット(23–25日齢)にeCG処理を行い,72 h後に卵巣から顆粒膜細胞を分離,FSH・FBS含有培地で1日培養後,FSH含有無血清培地(0.1%BSA,ITS含有)で2日間培養して顆粒膜細胞を成熟させた。細胞をLH及びLH+PRLで処理して,ルシフェラーゼによる生物発光をクロノスDioで測定した。比較のためLHの代わりにDXMでも細胞を同期化させた。さらに,LH処理の9.5 h後から6 h間隔の5点でmRNAを抽出し,RT-qPCRによって遺伝子発現を定量した。また,培養上清中のP4レベルをEIAにより測定した。 【結果】LH刺激による黄体細胞への分化誘導に伴ってPer2のプロモーター活性の振動が認められたが,その振動はほぼ2回の発生のあと停止した。この細胞分化の過程でPRLの添加は用量依存的(10~1000 ng/ml)に有意な振動の減少をもたらした。時計遺伝子の発現では,PRLの添加によりBmal1,Rev-erbaとDbpの発現には有意な変化は認められなかったが,Per2にのみ発現リズムの減退が認められた。DXMによる同期化でもPRLは同様の作用を示した。また,培地中のP4の濃度は,PRL添加によって有意に減少した。以上の結果から,PRLは細胞時計Per2のリズムを減退させて,P4生成を低下させることが示唆された。
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眞鍋 昇, 東福 望, 小野山 一郎, 福本 善乃助, 後藤 康文, 李 俊佑
セッションID: OR1-4
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
会議録・要旨集
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【目的】グレリンは,絶食時に産生が亢進して下垂体からの成長ホルモンの分泌を促進したり視床下部にはたらいて食欲を増進させる働きを持つ胃のX/A-like細胞が産生するペプチドホルモンとして1999年国立循環器病センターの児島らによって発見された。演者らは,グレリンとその受容体growth hormone secretagogue receptor (GHSR)-1aのmRNAとタンパクがブタ卵巣顆粒層細胞に発現していることを見いだしたので生殖系にあたえる影響を調べている。これまで本学会でグレリンが卵胞閉鎖に支配的に関わっている顆粒層細胞におけるアポトーシスを抑制することを報告してきた。今回顆粒層細胞アポトーシスを調節している囮受容体,可溶受容体,細胞内アポトーシス阻害因子のうち細胞内アポトーシス阻害因子の発現亢進を介して顆粒層細胞アポトーシスを抑制することで卵胞閉鎖に影響していることを見いだしたので報告する。【材料と方法】成ブタ卵巣から卵胞発達ステージ別に顆粒層細胞を調製し,グレリンと受容体およびアポトーシス関連因子のmRNAあるいはタンパクの発現を調べた。卵胞の連続切片を作製し,卵胞発達ステージ依存的に推移を認めた因子の局在の推移を調べた。次に顆粒層細胞の培養液に末梢血中グレリン濃度を挟むように添加濃度を設定してグレリンを添加し,アポトーシス関連因子のmRNA発現におよぼす影響を調べた。【結果と考察】グレリンと受容体およびアポトーシス調節因子は健常卵胞の顆粒層細胞において高発現していた。免疫染色の知見からもこれらが健常卵胞の顆粒層細胞に発現していることが確認でき,閉鎖卵胞ではほとんど検出できなくなることが分かった。加えて培養顆粒層細胞においてグレリンは細胞内アポトーシス阻害因子の発現を亢進することが分かった。これらの知見から,顆粒層細胞においてグレリンが細胞内アポトーシス阻害因子の発現を亢進させてアポトーシスを抑制することで卵胞閉鎖の調節に関わっていると考えられた。
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小野山 一郎, 後藤 康文, 福本 善乃助, 李 俊佑, 眞鍋 昇
セッションID: OR1-5
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
会議録・要旨集
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【目的】近年細胞レベルでの代謝・分解メカニズムとしてオートファジーが注目されている。細胞におけるオートファジーの機能は多岐にわたり,栄養源の確保や増殖・分化,細胞死などに関与していることが報告されてきた。卵巣の顆粒層細胞においても存在が確認されているが生理的機能には不明な点が多い。今回,顆粒層細胞におけるオートファジー分子機構の解析のためのツールとしてオートファゴソームマーカーを安定発現する細胞株を作製し,その有用性と特性について評価を行った。【方法】ヒト顆粒層細胞由来KGN細胞のcDNAを用いてヒトLC3B遺伝子のクローニングを行ってAcGFP融合タンパク質発現用ベクターに組み込んだ。次にこのベクターをKGN細胞へトランスフェクションし,G418による薬剤選択を行って顆粒層細胞由来安定発現株(GFP-LC3・KGN細胞)を得た。得られた細胞を用いて栄養飢餓,mTOR阻害剤ラパマイシン,ゴナドトロピンなどによるオートファゴソーム形成を観察し,特性を明らかとした。【結果】GFP-LC3・KGN細胞において,栄養飢餓やmTOR阻害剤添加によってオートファゴソームの形成が促進された。またRNA干渉によりオートファジー関連因子であるAtg5をノックダウンすることでこの効果が抑制された。さらにhCGやPKA阻害剤によるオートファジーの促進が観察された。これらの結果から,安定発現株はオートファジーの解析に有用であること,そしてゴナドトロピンとその下流のシグナルにより顆粒層細胞のオートファジーが調節されている可能性が示された。
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佐野 栄宏, 羽柴 一久, 奥田 潔
セッションID: OR1-6
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
会議録・要旨集
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(目的) 黄体は,その内外で産生される黄体刺激および黄体退行因子によって機能を調節し,妊娠の成立に必須のprogesterone (P4) を産生する一過性の内分泌器官である。Galectin-1 (GAL1) は,細胞表面の糖鎖を介して様々な細胞機能の調節に関与することが知られている。しかし,黄体におけるGAL1の機能および作用機序は明らかにされていない。本研究では,ウシ黄体におけるGAL1の役割を明らかにするために,発情周期を通じた黄体のGAL1発現量の変化を調べるとともに黄体におけるGAL1の機能を調べた。(方法) 1. 黄体の発情周期を通じたGAL1タンパク質発現を調べた。2. 細胞表面上でGAL1が糖鎖と結合しているかどうかを調べるために,培養黄体細胞にLactoseまたはSucroseを添加し,GAL1の細胞表面での発現量を調べた。3. 培養黄体細胞にGAL1を添加し,細胞生存率およびP4 分泌への影響を調べた。4. 糖たんぱく質であるVEGFR-2は黄体細胞で発現し,細胞の生存に関与することからGAL1の標的分子となることが考えられるため,黄体の発情周期を通じたVEGFR-2のmRNAおよびタンパク質発現の変化を調べた。5. VEGFR-2の発情周期を通じた糖鎖修飾についてレクチンブロットにより検討した。(結果) 1. GAL1発現は中期の黄体組織で高かった。2. GAL1はLactose処理により細胞表面における発現が減少した。3. 中期黄体細胞の生存率およびP4分泌はGAL1添加により増加した。4. 黄体における
VEGFR-2 mRNA発現は退行期を除いて高かったがタンパク質発現は中期で高かった。5. VEGFR-2はDSAレクチンと反応した。(まとめ) VEGFR-2タンパク質はGAL1と同様に中期黄体で発現が高く,GAL1結合性の多分岐型糖鎖で修飾されていた。また,GAL1はLactoseにより発現が減少したことから,細胞表面上のタンパク質と糖鎖を介して結合していることがわかった。これらのことより,GAL1がVEGFR-2を含む膜タンパク質糖鎖を介して結合し,P4分泌および生存シグナルを調節することによって黄体細胞の生存率を上昇させ,黄体機能を維持する役割を担っている可能性が示された。
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小林 純子, Trendell Jennifer E., 岩永 敏彦, Duncan W. Colin
セッションID: OR1-7
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
会議録・要旨集
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【目的】ヒト黄体の退行メカニズムは未だ不明な点が多い。我々はTumor growth factor β(TGFβ)superfamilyに属するActivin Aが,ヒト黄体の退行に関与することをこれまで報告してきた。本研究では,別のTGFβ superfamilyメンバーであるBone morphogenetic proteins(BMPs)のヒト黄体における発現動態と発現制御機構を明らかにすることを目的とした。【方法】英国エジンバラ大学にて同意のもと採取されたヒト黄体組織および体外受精のためにRoyal Infirmary of Edinburghに来院した患者より同意のもと提供された卵胞液を実験に用いた。黄体周期は,尿中黄体形成ホルモンの濃度を測定することにより同定した。一部の患者には,同意のもと黄体中期にヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)を5−8日間持続投与して初期妊娠を模倣し,黄体を採取した。黄体組織および分離培養した黄体化顆粒層細胞(LGCs)を用いて,real-time PCR法と免疫組織化学により遺伝子および蛋白質の発現変化を解析した。【結果】ヒト黄体ではBMP-2, -4, -6が発現しており,黄体後期で顕著に発現増強した。すべてのBMPsはLHCGRおよびStARの発現を顕著に抑制し,hCGは
in vivo,
in vitroいずれにおいてもすべてのBMPsの発現を抑制した。これらの結果はBMPsがヒト黄体の退行に関与することを示唆する。LGCsを用いて,BMPsの発現に関与するシグナル伝達経路を調べたところ,PKA経路の活性化はBMP-2およびBMP-4の発現を抑制するが,BMP-6の発現を増強した。一方,PI3 kinase経路の活性化はBMP-6の発現を強く誘導し,BMP-2の発現にも関与することがわかった。PKC経路の活性化はBMP-2の発現を著しく増強したが,BMP-4とBMP-6は発現が抑制された。本研究により,各BMPは異なったシグナル伝達経路により発現制御をうけることが明らかとなった。
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名古 満, 藤井 順逸, 木村 直子
セッションID: OR1-8
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
会議録・要旨集
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【目的】減数分裂過程で起こる卵の異数性は,動原体-微小管結合の異常や動原体の早期分離の結果として起こり,この原因として,紡錘体形成チェックポイント(SAC)機構の異常やコヒーシンタンパク質の発現異常などが挙げられている。我々は,成熟培養(IVM)系で高頻度に異数性を引き起こす抗酸化酵素SOD1遺伝子欠損マウス(KO)卵をモデルに,酸化ストレスによる異数性発生機序の解明を行っている。本研究では,特にSOD1KO卵におけるSAC構成因子であるBubR1の発現量および局在の解析を行った。【方法】若齢(3–4週齢)または老齢(12ケ月齢)のICR系野生型(WT),SOD1KOマウスから卵核胞期卵を採取し,20% O
2下でIVMを行った。続いて,BubR1抗体を用いてIVM 0–18時間の卵で,ウエスタンブロット解析,第一および第二減数分裂中期(MIおよびMII期)卵で,蛍光免疫染色による発現局在解析および動原体間距離の測定を行った。一方,それぞれの卵のMII期異数性パターンを分類した。【結果および考察】BubR1の発現量は,減数分裂の進行に伴って増加し,WT卵ではIVM 8時間で,SOD1KO卵ではIVM 6時間でピークを迎え,その後減少した。また,BubR1の局在はMIおよびMII期の動原体上にみられ,このシグナルを基に測定したMII期の動原体間距離は,WT卵と比較し,SOD1KO卵で有意に増加していた。SOD1KO卵の異数性頻度は,若齢-排卵卵子(6%),若齢-IVM卵(35%),老齢-IVM卵(67%)の順に増加傾向がみられた。これらの卵では,19対+2染色分体の異数性パターンが多くみられたが,老齢-IVM-SOD1KO卵では,21対の異数性パターンが増加していた。以上より,IVM系でのSOD1欠損による酸化ストレスは,BubR1の発現量および局在に大きな異常を及ぼさないものの,動原体間距離の増加がみられることから,動原体間接着に関わるコヒーシンタンパク質の減少を誘導する可能性が考えられた。
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羽賀 萌実, 名取 友来, 名古 満, 木村 直子
セッションID: OR1-9
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
会議録・要旨集
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【目的】タンパク質チロシンホスファターゼであるPhosphatase and tensin homolog deleted from Chromosome 10(PTEN)は,ホスファチジルイノシトール3リン酸を脱リン酸化することで,PDK1やAktの活性化を抑制している。新生仔マウス卵巣をPTEN阻害剤とPI3K活性化ペプチドに暴露した場合,原始卵胞発育が促され,成熟卵が得られることが報告されている( Li
et al.,
PNAS, 2010)。本研究では,卵成熟過程における直接的なPTEN不活化の影響を調べるため,PTENタンパク質の発現動態を明らかにし,成熟培地へのPTEN阻害剤添加の影響を調べた。【方法】過排卵処理したICR系野生型マウスから卵核胞(GV)期卵を採取し,20%O
2下で18時間培養(IVM)し,経時的に回収した卵を用いてPTENあるいはpPTEN抗体による蛍光免疫染色,ウエスタンブロット解析を行った。また,IVM培地へ0.1~10 μMのPTEN阻害剤bpV(HOpic)を添加し,IVM 10時間まで2時間毎の核相を観察した。さらにこれらの卵を体外受精させ,胚発生能を調べた。【結果】PTENおよびpPTENの局在は,全ステージで細胞質全体にみられ,特に卵核胞崩壊期(GVBD)と第一減数分裂前中期では染色体付近,第一および第二減数分裂中期(MI,MII期)ではPTENは紡錘体上に,pPTENは紡錘体極付近にみられた。pPTENタンパク質発現量は,IVM 4~8時間で高くなり,IVM 18時間で著しく減少した。PTEN阻害剤の添加培養では,1.0 μMと10 μM区でGVBDとMI期の早期化がみられ,MII期への到達は1.0 μM区で最も早かった。胚発生能は1.0 μM区で高い傾向があった。以上の結果から,マウスIVM系卵におけるPTENの不活化は,卵成熟の進行を早め,受精後の胚発生能に影響を与える可能性が考えられた。
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谷原 史倫, 中井 美智子, NGUYEN Thi Men, 加藤 徳子, 野口 純子, 金子 浩之, 菊地 和弘
セッションID: OR1-10
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
会議録・要旨集
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【目的】ブタ卵母細胞(以下,卵)の体外受精(IVF)時において,卵への精子侵入に関する透明帯(ZP)の機能については不明な点が多い。我々はこれまでに,体外成熟培養後,ZPを有する成熟卵(ZP+卵)と,ZP+卵からZPを除去したZP-卵との精子侵入状況の比較により,IVF時にZPが存在すると卵への精子侵入は促進され,ZPを通過した精子は全て先体を失い,効率よく卵細胞膜と融合することを示した(本学会第104,105回大会)。Izumoはマウス,ヒトおよびブタ精子において精子-卵子融合因子として報告されている。本研究ではブタのIVF時におけるZPの存在がIzumoの発現と卵への精子侵入に及ぼす影響を検討した。【方法】ZP-卵に対し抗Izumo抗体(0(対照区),0.25ならびに0.5 μg/ml)を添加した体外受精培地と凍結融解精巣上体精子を用いてIVFを行い,開始後10時間での精子侵入状況を調べた。また,IVF開始後1,3および5時間での卵表面に付着した精子数を測定することでBinding Assayを行った。媒精時間は3時間,精子濃度は1×10
4 sperm/mlとした。次にZP+卵とZP-卵を用いてIVFを行い,開始後3時間でFITC-PNA染色,Hoechst染色および免疫蛍光染色を行い,ZP+卵においてはZP内部もしくは囲卵腔に存在しかつ先体を失った精子について,ZP-卵においては卵細胞膜へ付着しかつ先体を失った精子についてIzumoの発現状況を調べた。【結果】ZP-卵において抗体濃度を高くすると精子侵入率ならびに侵入精子数は減少し,0.5 μg/ml添加区では対照区と比較し有意に低かった(90.4%ならびに2.1個 vs 68.6%ならびに1.6個)(P<0.01,ANOVA/Tukey検定による)が,卵表面に付着した精子数に差は無かった。ZP内部もしくは囲卵腔に存在する精子はすべて先体を失い,ZP-卵に付着した先体を失った精子と比較してIzumoの発現率は有意に高かった(64.6% vs 5.2%)(P<0.01,カイ二乗検定による)。【結論】精子がZPを通過することでIzumoの発現が促進されることが明らかとなった。それにより,精子と卵の膜融合が促され,卵への精子侵入が高まることが示唆された。
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京極 博久, Fulka Josef, 若山 照彦, 宮野 隆
セッションID: OR1-11
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
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【目的】最近の研究から,核小体を除去(脱核小体)した卵核胞期(GV期)の卵母細胞は,正常に成熟するが,受精後の前核期の核中に核小体は形成されず,胚は2~4細胞期で発生を停止することが示された。正常な前核期胚の核中に形成される核小体は,卵核胞期(GV期)の核小体と同様に緊密な形態をしている。2細胞期以降,この緊密な卵母細胞型の核小体の周囲から,体細胞型の核小体が形成され始め,胚盤胞では完全に体細胞型の核小体となる。本研究では,前核中の核小体が,それ以降の胚発生に必須であるかを前核から核小体を除去することによって調べた。また,脱核小体した前核期胚から発生した胚に核小体が再形成される可能性を探った。【方法】前核の形成時期をそろえるために,顕微授精(ICSI)によって作出したマウス前核期胚を実験に用いた。顕微操作により雌雄両前核から核小体を除去した後,体外で発生させ,胚盤胞への発生率を調べた。また,2細胞期へと発生した胚を移植することによって産仔への発生を調べた。対象としては,雌雄両前核から少量の核質を抜き取った前核期胚およびGV期に脱核小体した卵母細胞を成熟培養後,ICSIによって作出した前核期胚を用いた。核小体の形成を確認するために,GFPタグのついた卵母細胞の核小体に特異的な蛋白質NPM2のmRNAを用いたライブセルイメージングと体細胞の核小体に特異的な蛋白質(B23, UBFなど)に対する抗体を用いた免疫蛍光染色を行った。【結果】GV期で脱核小体した胚は発生しなかったが,前核期で脱核小体した胚は正常に胚盤胞へ発生し,胚移植により正常な産仔となった。ライブセルイメージングと免疫蛍光染色により,前核期で脱核小体した胚は,卵母細胞型の核小体なしに,発生過程で体細胞型の核小体を形成した。以上の結果から,卵母細胞型の核小体は前核期以降の胚発生に必須ではないこと,卵母細胞型の核小体がなくとも胚は体細胞型の核小体を形成することが明らかとなった。
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浜崎 伸彦, 阿形 清和, 中島 欽一, 今村 拓也
セッションID: OR1-12
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
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【目的】哺乳類初期胚では,受精後のゲノム全体DNA脱メチル化がゲノムリプログラミングの主徴の一つとされてきた。一方で,遺伝子プロモーター領域は異なる制御下にあり,配列特異的にDNAメチル化/脱メチル化の両方が起こる。本研究では,配列特異的プロモーターDNA脱メチル化関連因子としてpromoter-associated noncoding RNA (pancRNA)に着目した。pancRNAは遺伝子プロモーター領域のアンチセンス鎖から転写され,一本鎖RNAとして機能し,該当領域のDNA脱メチル化に関わる。
【方法】8週齢の雌マウスから未受精卵,1細胞期,2細胞期初期,2細胞期後期の受精胚あるいはSrCl
2活性化胚を採取し,RNA-seq ,RT-PCR,バイサルファイトシーケンシングを行った。pancRNA機能同定のため,siRNAをマイクロインジェクションした受精胚について,胚盤胞期までの発生能を評価した。
【結果】マウス初期胚においてpancRNAは千以上存在しており,特に高発現を示した
Il17d遺伝子座のpancRNA (
panc-Il17d)を機能解析モデルとして進めた。受精後,二細胞期初期に
panc-Il17d発現と
Il17dプロモーター領域のDNA脱メチル化が同時に観察され,
panc-Il17dノックダウン胚では,このDNA脱メチル化が起こらなかった。このようなpancRNA発現とDNAメチル化の乱れは,SrCl
2によって人為活性化された胚でもみられたことから,pancRNA発現/エピジェネティック変換状況が卵の品質評価マーカーとなると考えられた。また,
panc-Il17dノックダウン胚では胚盤胞期までに84.7%の胚が死亡したことから,
panc-Il17dは受精後のプロモーターDNA脱メチル化を介し,マウス初期発生に必須であることが分かった。
【結論】pancRNAはエピジェネティックマーカーとしてだけでなく機能的に重要であり,卵の品質改善の分子ターゲットとなりうることが分かった。
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佐々木 恵亮, 高橋 昌志, 川原 学
セッションID: OR1-13
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
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【目的】脊椎動物はウイルスに対して複雑な自然免疫機構を保持する。免疫細胞においてはウイルスレセプターが種々の病原体構成分子を認識し,インターフェロンや炎症性サイトカインによる炎症反応を引き起こす。しかしながら,哺乳動物の初期胚における抗ウイルス応答機構は不明である。本研究では,マウス初期胚における抗ウイルス応答の有無を検証することを目的とし,RNAウイルス感染を認識するレセプターRetinoic acid-inducible gene-I(RIG-I)を介する抗ウイルス応答を解析した。【方法】過剰排卵を誘起したC57BL/6N系統の雌マウスの卵管膨大部より卵丘細胞卵子複合体を回収し,体外受精および体外培養に供した。得られたMII期卵母細胞,1細胞期胚,2細胞期胚,4細胞期胚,8細胞期胚,桑実胚および胚盤胞期胚について,qRT-PCRおよび免疫染色法によりRIG-Iの発現を検出した。採取したMII期卵母細胞にGFP発現組換え水疱性口内炎ウイルス(VSV)を感染させ,体外受精および体外培養に供した。VSV感染胚は1細胞期および2細胞期の時点で回収し,qRT-PCRによりRIG-Iおよび炎症性サイトカインであるInterleukin 1β(IL1B)の発現レベルを調べた。【結果】qRT-PCRおよび免疫染色法の結果,MII期卵母細胞から胚盤胞期胚においてRIG-Iの発現が確認され,とくに2細胞期胚までに強い発現が認められた。MII期卵母細胞へのVSV感染の結果,感染胚の胚盤胞期胚までの発生率は有意に低下した(P<0.05)。VSV感染によりRIG-Iの発現レベルは一過性に増加したが,IL1Bは感染の有無に関わらず検出限界以下であった。以上のことから,VSV感染胚においてRIG-I発現は上昇するものの,炎症反応による抗ウイルス応答は示さないと考えられた。現在,感染による他のサイトカイン類への影響,さらにRIG-IのリガンドであるPoly(I:C)のマイクロインジェクションによる解析を進めている。
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鈴木 伸之介, 野澤 佑介, 塚本 智史, 金子 武人, 今井 裕, 南 直治郎
セッションID: OR1-14
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
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【目的】Chd1 (Chromodomain helicase DNA binding protein1)はトリメチル化したH3K4に結合し,RNAスプライシングに関与することや,ES細胞では多能性の維持に関与することが明らかにされている。しかし,これまでのChd1の研究は培養細胞やES細胞における役割を解析したものが主であり,ほ乳類の生殖細胞における役割を解析した報告はない。そこで本実験は初期胚におけるChd1の役割について検討を行った。【方法】マウス1細胞期胚にChd1を標的とするsiRNAを顕微注入し,Chd1の抑制効果および胚の形態,発生率,脱出胚盤胞率について経時的に検討を行った。次に,免疫蛍光染色によって胚盤胞期胚におけるOct4,Cdx2のタンパク質の量と局在について比較解析を行い,その正常性を確認するためにoutgrowth実験によるコロニー形成能について検討した。これらの実験結果を踏まえて,桑実期胚以降にOct4,Cdx2の転写制御をすることが知られているHmgpiの発現量を定量PCRによって解析した。さらに,Hmgpi mRNAをChd1抑制胚に顕微注入し,胚盤胞期胚におけるOct4とCdx2のタンパク質の量を免疫蛍光染色によって確認した。【結果】Chd1抑制胚では受精後から5.5日後まで形態的な異常は見られず,胚盤胞期胚までの発生率,脱出胚盤胞率にも影響はなかった。しかしながら,Chd1抑制胚においては前期2細胞期から胚盤胞期胚までChd1の発現が有意に抑制されていた。また,胚盤胞期胚を用いて免疫染色を行ったところ,Oct4,Cdx2タンパク質の局在に変化はなかったもののタンパク質量は有意に減少していた。さらに,Chd1抑制胚ではICM由来のコロニー形成能が対照区と比較して著しく低いことが示された。また,Chd1抑制胚においてはHmgpiの発現が有意に抑制されていたことから,Chd1抑制胚にHmgpi mRNAを顕微注入したところOct4,Cdx2のタンパク質量が胚盤胞期胚において対照区と同程度まで回復した。以上の結果から,マウス初期胚においてChd1は,着床前のOct4とCdx2の発現をHmgpiの転写を調節することで制御していることが示された。
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渡邉 剛広, 島 麗香, 坂原 聖士, 高倉 啓, 黒谷 玲子, 阿部 宏之
セッションID: OR1-15
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
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【目的】ミトコンドリア内膜に存在する呼吸鎖複合体IV(シトクロムcオキシダーゼ:COX)は電子伝達系の終末酵素である。COXは機能分化した体細胞において詳しい機能解析は行われているが,卵子や初期胚における研究はほとんど進んでいない。本研究では,マウスの初期発生におけるCOXの役割を調べるために,未受精卵子から器官形成期までの初期発生におけるCOX mRNA発現とミトコンドリア呼吸機能を解析した。【方法】ICR系雌マウスからMII期卵母細胞,1細胞期〜8細胞期胚,桑実胚,胚盤胞および胎生8.5日胚(E8.5)を回収した。各発生ステージにおいて,COXを構成する全13サブユニットのmRNAをRT-PCRにより解析した。また,卵母細胞および胚において(1)酸素消費量,(2)活性型ミトコンドリアの局在と相対膜電位,(3)ATP含量を解析した。【結果】ミトコンドリアゲノム由来のCOX1,COX2およびCOX3のmRNAは,全ての発生ステージの卵母細胞および胚において検出された。一方,核ゲノム由来COXの mRNAは,MII期の卵母細胞ではCOX6a,COX7bおよびCOX7cを除く7サブユニットのmRNAが検出されたが,1細胞期から8細胞期の胚においてこれら7サブユニットのmRNAは著しく発現量が低下した。桑実胚および胚盤胞ではCOX7cを除く9サブユニットのmRNAが検出され,E8.5では核ゲノムにコードされる全サブユニットのmRNAが検出された。この核ゲノムCOX mRNAの増加は,酸素消費量の増加とミトコンドリア膜電位活性の上昇と一致した。本研究では,未受精卵子から器官形成期胚に至るマウス初期発生におけるCOX mRNAの発現パターンの解析に初めて成功した。ミトコンドリアゲノムと核ゲノムのCOX mRNAはそれぞれ異なる発現パターンを示し,ミトコンドリア呼吸機能の亢進に核ゲノムCOXサブユニットが重要な役割を果たしていることが示唆された。
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木村 隼己, 坂原 聖士, 高倉 啓, 黒谷 玲子, 阿部 宏之
セッションID: OR1-16
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
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【目的】マウスは系統によって産子数や胚発生能に大きな違いがあるが,この理由は明らかになっていない。これまで我々は,ミトコンドリアが胚の品質を決める上で重要であることを明らかにしてきた。本研究では,胚の発生とミトコンドリア機能との関係に着目し,系統間での胚発生能とミトコンドリア呼吸機能の違いを詳細に解析した。 【方法】過排卵処理したB6C3F1,ICR,C57BL/6NおよびBALB/cA系統の雌マウスから1細胞期胚を回収し,mWM培地を用いて37℃,5% CO₂ in airの条件で培養した。リアルタイム培養細胞観察システムの高感度カメラを用いて5分毎に160時間以上タイムラプス撮影を行い,胚の発生率および発生速度を解析した。ミトコンドリア呼吸機能を解析するために,受精卵呼吸測定装置(HV-405)を用いて胚の酸素消費量,BacTiter-Glo microbial Cell Viability Assay kitを用いてATP含量,JC-1染色によりミトコンドリア膜電位活性を調べた。 【結果】B6C3F1,ICR,C57BL/6NおよびBALB/cAの胚盤胞発生率は,それぞれ83.8%,67.2%,64.0%,39.2%,胚盤胞ハッチング率はそれぞれ66.2%,74.8%,17.2%および32.1%と,いずれも系統間に顕著な違いが認められた。胚のATP含量と酸素消費量は,B6C3F1においていずれも最も高く,ICRではATP含量,C57BL/6NではATP含量と酸素消費量がB6C3F1と比べてそれぞれ有意に低かった。一方,BALB/cAでは酸素消費量,ミトコンドリア膜電位活性およびATP含量の全てが全系統の中で最も低かった。胚発生能が最も高いB6C3F1は高いミトコンドリア呼吸機能を有していたのに対し,BALB/cAでは胚発生能およびミトコンドリア呼吸機能が最も低かった。これらの結果から,系統間でみられる胚発生能の差は,ミトコンドリア呼吸機能の違いに起因している可能性が考えられた。
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小松 紘司, 岩瀬 明, 馬渡 未来, 山下 守, 吉川 史隆
セッションID: OR1-17
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
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【目的】過排卵処理によって得られる卵子には通常とは異なる過程を経て排卵される卵子が含まれている。そのため,過排卵処理を施した雌マウスから得られた卵子を個体別に体外受精,培養すると胚盤胞形成率は個体によって異なる。これは過排卵由来の卵子に質の違いがある事に起因すると思われる。本実験では過排卵処理が卵子に及ぼす影響を検証するため,母性因子の制御を受けて発生が進行する1細胞期胚,2細胞期胚におけるミトコンドリア膜電位と活性酸素種(ROS)に着目し,胚発生との関連性を調べた。【方法】ICR 8–10週齢雌マウスを用いた過排卵処理—体外受精によって得られた1細胞期胚,2細胞期胚の一部を蛍光プローブによって染色し,共焦点顕微鏡の撮影画像から蛍光強度を指標に割球別のミトコンドリア膜電位とROS濃度の算出を行った。残りは培養して胚盤胞形成率を調べた。ミトコンドリア膜電位とROS濃度の比較を胚盤胞形成率が80%以上のグループと80%未満のグループに分けて行った。【結果】ミトコンドリア膜電位は1細胞胚において2つのグループ間で有意な差は見られなかったが,2細胞期胚では80%未満のグループにおいてミトコンドリア膜電位の上昇度が小さく80%以上のグループに対して有意に低い傾向が見られた。 ROSも1細胞期胚では有意な差は見られなかったが,2細胞期胚において80%以上のグループで有意に高い傾向が見られた。しかし,脂質過酸化反応によるタンパク質修飾を比較すると,ROS濃度が低い80%未満のグループにおいて有意に高い傾向が見られた。胚でのROSの局在を見ると膜電位が低いミトコンドリアに高濃度で局在している事から,80%未満のグループでは1細胞期以降にミトコンドリア膜電位が上昇せず,ミトコンドリアが長時間高濃度のROSに晒された状態になるため,酸化ストレスによるダメージを受けやすい状態にあると考えられる。これらの結果から一部の過排卵由来の胚では1細胞期以降のミトコンドリア膜電位上昇が正常に起こらず,発生が停止するものが存在することが明らかになった。
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森本 洋武, 武弓 竜一, 小川 英彦, 河野 友宏
セッションID: OR1-18
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
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【目的】栄養膜幹細胞(TS細胞)はFGF4存在下で転写因子
Cdx2を発現し未分化状態を維持する。またFGF4を除去することにより
Cdx2の発現が低下し栄養膜巨細胞(TG細胞)を始めとする胎盤を構成する細胞に分化する。我々は第105回日本繁殖生物学会において雄ゲノムしか持たない雄核発生胚由来栄養膜幹細胞(ATS細胞)はFGF4除去後,TG細胞へ分化するが,
Cdx2の遺伝子発現が低下しないことを報告した。そこで本実験ではFGF4除去後のATS細胞において
Cdx2の遺伝子発現が低下しない理由を明らかにすることを目的とした。【方法】FGF4除去後0~6日目の細胞における
Cdx2遺伝子の発現解析をReal-Time PCR法により行った。また同時期の細胞におけるCDX2タンパク質の定量解析および局在解析を行った。さらに,pHH3抗体を用いた免疫染色を行い,FGF4除去後のM期の細胞数の変化を調べた。【結果】TS細胞ではFGF4を除去した後に
Cdx2のmRNAの発現量が低下したのに対し,ATS細胞では発現が維持されていた。またCDX2のタンパク質量についても同様の結果が得られた。このことからATS細胞はTS細胞と異なり,FGF4を除去した後も
Cdx2の発現を維持していることが再確認できた。そこでFGF4除去後にCDX2を発現している細胞を特定するために局在解析を行った結果,ATS細胞から分化したTG細胞のうちCDX2を発現している細胞が存在した。さらにFGF4除去後のATS細胞においてM期の細胞数の減少がみられなかった。したがってATS細胞ではFGF4除去後も細胞増殖が続いていることが明らかとなった。以上の結果からATS細胞においてFGF4除去後も
Cdx2の発現が維持される理由として以下の2つのことが考えられた。1,FGF4除去後も
Cdx2を発現して増殖を維持する細胞が存在した。2,分化したTG細胞に
Cdx2を発現する細胞が存在した。
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小林 芳彦, 幸岡 美紗, 山本 ゆき, 奥田 潔
セッションID: OR1-19
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
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【目的】配偶子および初期胚の輸送には卵管の蠕動運動が必須である。卵管平滑筋弛緩作用を持つ一酸化窒素 (NO) は,初期胚の発育や精子の運動性にも関与することが知られる。他の器官においてestradiol-17β (E2) およびendothelin-1 (ET-1) がNO合成を調節することが報告されており,卵胞が分泌するE2およびET-1が血液循環および卵胞液の流入を介して卵管のNO合成にも関与する可能性がある。本研究では,受精前後の卵管機能制御機構を明らかにすることを目的とし,ウシ卵管のNO合成におけるE2およびET-1の作用機序を調べた。【方法】1) 排卵周期各期のウシ卵管膨大部ならびに峡部組織における内皮型NO合成酵素 (
eNOS),誘導型NOS (
iNOS),ET receptor A (
ET-RA),
ET-RB,E2 receptor α (
ERα) ならびに
ERβ mRNA発現量を検討した。2) ウシ卵管膨大部ならびに峡部から単離した上皮および間質細胞にE2およびET-1を単独またはそれぞれの受容体特異的拮抗剤と組み合わせて添加し,24時間培養後の
iNOS mRNA発現量を測定した。【結果および考察】1) 膨大部の
iNOS mRNA発現量は他の周期と比べ排卵直後に高かった。峡部の
iNOS mRNA発現量は排卵後5–6日に最も高く,卵胞期に低かった。膨大部の
ET-RB mRNA発現量は他の周期と比べ排卵直後に高かった。峡部の
ERα mRNA発現は他の周期と比べ卵胞期に高かった。2) 膨大部上皮ならびに間質細胞の
iNOS mRNA 発現量はET-1によって刺激されたが,E2には影響を受けなかった。このET-1のiNOS刺激作用はET-RB拮抗剤によって低減された。峡部上皮細胞の
iNOS mRNA発現量はE2によって抑制されたが,ET-1の影響は受けなかった。このE2によるiNOS抑制作用はERα拮抗剤によって低減された。以上より,卵管のNO合成は卵胞が分泌するE2およびET-1によって部位特異的に制御され,膨大部では卵母細胞の輸送,峡部では精子の運動性,初期胚の発育ならびに輸送に関与することが示唆された。
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山上 一樹, 山内 啓介, 山下 聖世, 山内 伸彦, 服部 眞彰
セッションID: OR1-20
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
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【目的】子宮内膜は卵巣ステロイドホルモンや胚との相互作用により,胚に対する受容能を獲得する。これまで,KOマウスの作出などにより,子宮内膜で発現する着床関連因子が多く報告されている。一方,子宮内膜受容能に対する胚の機能に関しては未だ不明な点が多く残されている。これに対し,ヒトの受精卵やIVF胚の培養上清を用いた解析により,子宮内膜においてHoxa10やTGFb1など複数の遺伝子の発現が変化することが報告された(Sakkas et al., 2003, Cuman et al., 2013)。これらの報告は胚の産生した因子が子宮内膜受容能を制御する可能性を示唆している。しかしながら,着床期子宮内膜において胚由来シグナルに応答する因子は未だ明確には同定されていない。本研究は,着床遅延モデルおよび人為的脱落膜化モデルを用い,着床期ラット子宮において胚の存在に依存して発現が変化する遺伝子の検索を目的とした。【方法】妊娠3.5日目Wistarラットの卵巣を除去し,Progesterone(P4:10mg/kg)を5日間皮下注射することで,着床遅延モデル(DI区)を作製した。胚の非存在下の条件として,偽妊娠ラット3.5日目に同様の処置を施した子宮(PP区)を対照区とした。P4処理後,子宮のmRNAを抽出し,候補因子としてStc1,Bmp7,Tgfb1,Ifi27,rISP2b,Hoxa10,Wnt7b,Calcitoninの遺伝子発現をreal time qPCR法により解析した。また,妊娠5.5日目と人為的脱落膜化モデル(AD区)を比較し,着床後の胚の有無におけるこれらの遺伝子発現を解析した。【結果】PP区と比較して,DI区においてBmp7とHoxa10の発現が有意に高い値を示した(P<0.05)。一方,これら二つの遺伝子の発現は,どちらも妊娠5.5日目とAD区との間に差は認められなかった。これらの結果から,子宮内膜におけるBmp7とHoxa10の発現が着床前の胚の存在に依存することが示唆された。
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諌山 慧士朗, 陳 華濤, 山内 伸彦, 服部 眞彰
セッションID: OR1-21
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
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【目的】哺乳類の発情回帰を決定するのは子宮内膜由来のプロスタグランジンF2α(PGF2α)分泌であるが,その分泌調節の制御は未だ不明な点が多い。ラットをモデルにした研究から,子宮内膜で時計遺伝子が発現し,卵巣ステロイドホルモンによって制御されることが分かっている。プロスタグランジン合成律速酵素の遺伝子
Ptgs2/
Cox2のプロモーター領域には,時計タンパク質の制御を受ける配列が複数存在している。そこで本研究では,時計遺伝子
Bmal1のRNAi,および核受容体でもある時計遺伝子
Rev-erbαのアゴニスト・アンタゴニストを用いて,ウシ子宮内膜細胞での
Ptgs2/
Cox2の発現調節の解析を行なった。【方法】子宮内膜間質細胞および上皮細胞はそれぞれP4およびE2で感作させ,forskolin(2h)による同期化処理を行った。同期化して総RNAを抽出し,RT-qPCRにより遺伝子の発現を定量した。また
Bmal1のsiRNA,Rev-erbのアンタゴニスト(SR8278),およびアゴニスト(heme)で細胞を処理し,同期化して同様に遺伝子の発現を定量,およびEIAによるPGF2α定量のため培養上清を回収した。【結果】同期化後48hまでP4処理の間質細胞では高い
Rev-erbα発現を示すのに対し,
Ptgs2発現は強く抑制された。一方, E2処理の上皮細胞では
Rev-erbα発現の減少に伴って
Ptgs2発現が顕著に増加した。siRNA 処理した間質細胞では
Ptgs2発現は抑制されたが,上皮細胞では変化は見られなかった。SR8278処理を行なうと両細胞とも
Ptgs2発現が有意に増加したが,heme処理では発現に変化はなかった。さらにSR8278処理を行なうと両細胞ともPGF2αの分泌量が有意に増加した。以上のことから,ウシ子宮内膜の間質細胞および上皮細胞の時計の振動に違いはあるものの,
Ptgs2の発現は時計遺伝子
Rev-erbαによって強く抑制されていることが示唆された。
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田崎 広天, 諫山 慧志郎, 趙 立佳, 山内 伸彦, 服部 眞彰
セッションID: OR1-22
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
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【背景】概日時計を駆動するコア時計遺伝子を欠損するマウスが不妊を示すことから,生殖と生体時計との関係が注目されている。子宮においても時計は振動しているが,その生理的機能については未だに明らかではない。我々は,ラット子宮間質細胞で発振する時計と連動する遺伝子をDNA microarrayで網羅的に解析した。本研究では,そのうち核受容体でもあるRev-erbαと逆位相を示して変動が大きい(fold change, >1.0)遺伝子
Gdf15(
MIC-1)について,Rev-erbαによる制御についてそのアンタゴニストを用いて解析した。【方法】4.5日妊娠ラットから間質細胞を分離し,24ウェルプレートに播種(5×10
4個),血清含有培地で48h培養し,P4およびRev-erbαのアンタゴニストSR8278を含む無血清培地と交換した。また,時計の振動を微弱にするためにsiRNAで
Bmal1のノックダウンを行なった。いずれも24h後にデキサメサゾンで細胞の同期化して,生物発光をモニターした。生物発光振動の第1位相から6 h間隔で培養細胞より総RNAを抽出し,RT-qPCRにより
Gdf15の発現を測定した。【結果】SR8278を添加すると
Bmal1発現の位相が約6 hほど後にシフトし,
Rev-erbα発現の位相が前にシフトした。また,
Bmal1の発現が4倍ほど増加した。このような時計遺伝子の振動の変化の中で,
Gdf15は約6hほど前にシフトすることが認められ,しかも10倍以上の発現増加が見られた。
Bmal1の発現増加はRev-erbαによるフィードバックループによる
Bmal1発現抑制が弱まったこと,
Gdf15の発現もRev-erbαによる抑制の解除に起因するものと考えられる。以上の結果から,子宮間質細胞ではコア時計遺伝子
Rev-erbαは妊娠と密接に関係する
Gdf15の発現を抑制的に制御していることが明らかになり,時計遺伝子
Rev-erbαによる抑制解除が胎盤形成へのシグナルになることが示唆される。
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麓 惠子, 田村 和広, 高島 陽香, 吉江 幹浩, 草間 和哉, 沓掛 真彦, 井坂 惠一, 立川 英一
セッションID: OR1-23
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
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【目的】マトリゲルに分散させたヒト子宮内膜細胞をヌードマウス腹腔内に移植した場合,卵巣摘出部位に顕著な細胞含有ゲル塊が出現する。今回,これが内膜症病変の性質をもつのか否かを明らかにするために,形態学的解析と構成細胞における蛋白質発現の変化,さらに変動した蛋白質の活性を評価した。【方法】腺上皮細胞株と間質細胞株の分散液を,片側卵巣摘出術(OVX)施行,または非摘出(Sham群)動物の腹腔内に注入した。3日または5週間後の生着組織の免疫組織化学的な観察を行った。3日後のゲル塊由来の細胞ライセートを二次元電気泳動とLC-MS/MS・MALDI-TOF MSを組み合わせた蛋白プロファイリング比較解析に供し,蛋白質レベルの変化を探索した。また,定量的RT-PCR法で炎症関連因子の発現を,ELISA法でPGE
2を定量した。さらに,変化が検出された蛋白質の活性の検討を加えた。【結果】回収した生着組織は,大部分が散在したビメンチン陽性細胞(間質細胞)により構成され,一部で腺様構造がみられた。蛋白質比較解析の結果,OVX群ゲル塊由来の細胞ライセートでは,セリンプロテアーゼ阻害因子であるα
1-アンチトリプシン(α
1-AT)レベルが低下していた。また,COX-2とIL-6発現が上昇し,PGE
2含量は増加した。これら発現は,移植細胞へのセリンプロテアーゼ阻害薬の処置により抑制された。培養間質細胞において,セリンプロテアーゼであるトロンビンの刺激はIL-6,IL-8,COX-2発現を増加させた。α
1-AT処置はこのIL-8を有意に抑制した。【考察】移植間質細胞は腺細胞よりも生着しやすく,炎症性サイトカイン産生が上昇することが分かった。子宮内膜症では月経血中の正常内膜細胞が形質転換し,病巣は炎症を伴い増悪する。今回,卵巣摘出に伴う出血が炎症を起こし移植細胞の性質を変化させたと考えられる。この出血成分の1つとして,セリンプロテアーゼが考えられ,その阻害因子(α
1-AT)の低下が炎症反応を助長させる可能性が示唆された。
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江頭 真宏, 廣田 泰, 藤田 知子, 原口 広史, 松本 玲央奈, 松尾 光徳, 大須賀 穣, 藤井 知行, 今川 和彦, 前多 敬一郎
セッションID: OR1-24
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
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【目的】分娩後の子宮回復における子宮内膜のリモデリングは次回の妊娠の準備として必須の過程である。最近我々はマウス妊娠子宮において老化細胞が生理的に出現することを報告したが,動脈や卵巣などでは老化細胞が分泌する液性因子によって組織障害が引き起こされることがわかってきており,分娩後の老化細胞除去が次回妊娠に向けた子宮機能回復に重要であると考えられる。本研究では,マウス妊娠子宮に出現する老化細胞が分娩後に除去される仕組みを明らかにするため,以下の実験を行った。【方法】実験には野生型ICRマウスを用いた。分娩を認めた日を分娩後1日目と定義し,分娩後1日目から1か月目までの子宮を採取し,細胞老化マーカーであるSA-ß-gal染色,細胞老化調節因子であるp21とp16の免疫染色,および各種白血球マーカーを用いた免疫染色を行った。また,分娩後のマウスに抗F4/80中和抗体を投与してマクロファージを除去したのち,分娩後8日目に子宮を採取しSA-ß-gal染色を行った。【結果】SA-ß-gal染色では,分娩子宮の胎盤剥離部位(着床痕部)に老化細胞が集積して存在し,時間経過とともに減少し分娩後1か月で消失することがわかった。また老化細胞が集積する領域において,p21陽性細胞の存在が認められたが,p16陽性細胞はほとんど認められなかった。次に老化細胞除去への白血球の関与を考えて分娩後子宮における白血球の局在を検討したところ,好中球,T細胞,NK細胞は老化細胞領域にほとんど認められなかったが,マクロファージは分娩後4日目以降の老化細胞領域周囲に集積していた。さらに,分娩後マウスへの抗F4/80抗体投与によるマクロファージ除去によって着床痕部に存在するSA-ß-gal陽性領域の増大が認められ,老化細胞除去へのマクロファージの関与が示された。【考察】分娩後子宮の機能回復の過程においてマクロファージを介した老化細胞の除去機構の存在が示され,この仕組みが正常子宮組織の分娩後の機能回復に寄与している可能性が示唆された。
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田中 舞弥, 佐伯 佳美, 森田 ひろみ, 矢間 太, 堀内 俊孝
セッションID: OR1-25
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
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【目的】ハムスターの顕微授精(ICSI)では,卵子の自発的活性化のため,精子を早く卵子に顕微注入することが必要である。一方,ハムスター精子の尾部はマウス精子より長く,ピエゾパルスによる精子頭部の分離も容易でない。そこで,本研究は,ハムスターICSIの簡易化のため,超音波処理により分離した精子頭部の顕微注入の有効性を検討した。【方法】精子は成熟雄の精巣上体尾部より採取した。[実験1]運動精子(Fresh),超音波処理(Fresh-soni),凍結融解処理(Fresh-soni-FT),凍結融解精子の超音波処理(FT-soni)による先体の有無を位相差顕微鏡で調べた。[実験2]ピエゾパルス(Fresh-Piezo),Fresh-soni,Fresh-soni-FT,FT-soniからの精子頭部の顕微注入による前核形成率を調べた。[実験3]Fresh-soni,Fresh-soni-FT,FT-soniからの精子頭部の顕微注入による卵割率,桑実期胚+胚盤胞(M+BL)率を調べた。[実験4]FT-soniの精子頭部を1h以内,1~2 h室温静置後に顕微注入を行い,前核形成率とM+BL率を調べた。【結果】[実験1]Fresh,Fresh-soni,Fresh-soni-FT,Frsh-FT-soniの先体損失率は各3,81,100,100%となり,超音波処理により先体は除去された。[実験2]Fresh-Piezoでは,すべての卵子が死滅した。 Fresh-soni,Fresh-soni-FT,FT-soniの前核形成率は83~97%となり,同様であった。[実験3]Fresh-soni,Fresh-soni-FT,FT-soniの卵割率は70~93%と同様であったが,M+BL率は各38,30,52%となり,FT-soniで有意に高かった。[実験4]1 h以内のM+BL率は各40%となり,1~2 hよりも高かった。【結論】ハムスターのICSIでは,超音波処理した精子頭部の顕微注入が有効であった。
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及川 俊徳, 板橋 知子, 沼邊 孝, 堀内 俊孝
セッションID: OR1-26
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
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【目的】ウシ顕微授精(ICSI)は精子注入後4時間目で卵子をエタノール処理することで体外受精と同様の胚発生率となる。一方,ジチオスレイトール(DTT)処理したウシ精子のICSIで胚発生率が向上するとの報告もある。最近,ウシ体外成熟卵のIVF後27時間までの正常卵割胚から発生した胚盤胞の移植により高い受胎率が得られることが報告された。そこで,本研究では,DTT処理精子のICSIにおける初期卵割での正常卵割胚の出現と,その後の胚発生に及ぼす影響を調べた。【方法】実験1:精子のDTT処理時間を検討した。5 mM DTTの10,30,60分間処理を行い,mBBr染色で精子頭部のSH基を蛍光顕微鏡で検出し,無処理区に対する相対蛍光強度を算出した。実験2:食肉処理場由来のウシ卵子をTCM199+EGF+FSHで22時間成熟培養した。凍結精液を融解し,10 mMカフェイン添加m-TALP液で1,300rpm,5分間処理を2回実施し精子浮遊液を作成した(無処理区)。DTT区は精子洗浄2回処理の間に5 mM DTT添加m-TALP液で10分間培養した。精子浮遊液はPVPと混合しICSIに用いた。ICSIはピエゾマイクロマニピュレーターで既報に従い実施した。ICSI胚はmSOFで培養し,ICSI後27時間において,正常卵割(NC),異常卵割(ANC),27時間以降に卵割した胚(Late)に分類した。胚はmSOFで8日間培養し,胚盤胞への発生を調べた。【結果】実験1:10~60分間のDTT処理におけるmBBr染色の蛍光強度は2.8~2.5と同様であり,無処理区と比べDTT区の蛍光強度は有意に高かった。この結果からDTT処理時間は10分間とした。実験2:DTT区および無処理区のICSI後27時間での初期卵割率は各49.7%,49.5%で有意な差はなかった。初期卵割胚のうちNC率は各61.1%,48.9%となり,DTT区で有意に高かった。総計の胚盤胞率は各27.6%,10.5%となりDTT区で有意に高かった。NCの胚盤胞率は各56.8%,29.6%となりDTT区で有意に高かった。以上の結果よりDTT処理精子のICSIにより正常卵割率が増加し,胚盤胞発生率が増加することが明らかとなった。今後は,NCに由来する胚盤胞の移植による受胎率を調べる予定である。
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緒方 和子, 加藤 翼, 山本 はるか, ボラジギン サラントラガ, 山口 美緒, 長尾 慶和
セッションID: OR1-27
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
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【目的】体内における通常の受精あるいはIVFにおいて,精子は受精能獲得や先体反応を経た後に受精に至るのに対し,ICSIにおいては,人為的に選択された精子が卵子内に直接注入される。本研究では,IVFとICSIにおける受精過程の違いのひとつとして,卵子侵入または注入直後の精子ミトコンドリア(MT)活性に着目し,卵子内で精子MTが産生する活性酸素種(ROS)がその後の初期発生に及ぼす影響について検討した。【材料と方法】ウシ屠体卵巣由来のCOCを成熟培養後,IVFおよびICSIに用いた。精子は凍結融解精子を用い,蛍光MTプローブであるJC1を添加したBO液中で培養した後に,IVFおよびICSIに供試した。直進運動を行い尾部のみを振幅させている精子を通常運動精子,頭部と尾部を激しく対称振幅させながら直進運動を行う精子を活性化運動精子とした。[実験1]IVF胚と様々な状態の精子を注入して得られたICSI胚の初期発生能と染色体正常性について検討した。[実験2]通常運動精子および活性化運動精子の産生するROS量を測定した。[実験3]IVF卵子と活性化運動精子を注入したICSI卵子の精子MT活性を比較するために,精子侵入または注入0,3および4時間後の卵子中の精子MT膜電位を,JC1蛍光強度のレシオメトリック法により解析した。【結果】[実験1]活性化運動精子ICSI胚の胚盤胞期の染色体正常性は,IVF胚,通常運動精子ICSI胚およびMT活性抑制活性化運動精子ICSI胚に比べ低かった(P<0.05)。[実験2]活性化運動精子の産生するROS量は通常運動精子に比べ高かった(P<0.05)。[実験3]精子注入0時間後のICSI卵子における精子MT相対膜電位は,精子侵入0時間後のIVF卵子に比較して高かった(P<0.05)。【考察】IVFにおいては,精子MT活性は卵子侵入後に速やかに低下するが,ICSIにおいては高い状態が維持され,その間に卵子内で産生されるROSが初期発生時の染色体異常を誘発する可能性が示唆された。
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平澤 竜太郎, 的場 章悟, 井上 貴美子, 小倉 淳郎
セッションID: OR1-28
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
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体細胞核移植により作製された着床前のマウスクローン胚においては,その遺伝子発現異常のプロファイルはドナー細胞の種類に影響されることが知られている。しかし,着床後まで生存したクローン胚においても,ドナー細胞に起因する遺伝子発現異常が残っているのかは不明である。そこで,体細胞核移植クローン胚において,正常に着床した後に存在する発現異常遺伝子を探るため,異なる3種類のドナー細胞(卵丘細胞,セルトリ細胞,線維芽細胞)を用いたクローン胚を作製した。着床直後のE6.5クローン胚を子宮から回収し,胚体組織(epiblast)と胚体外組織(extraembryonic ectoderm およびectoplacental cone)に切り分け,それぞれからmRNAを調整してマイクロアレイで網羅的に遺伝子発現解析を行った。全ての実験には,正常胚コントロールとして,マウス系統と性別を一致させた体外受精(IVF)胚を用いた。得られたマイクロアレイのデータを用いて統計的に遺伝子発現解析を行ったところ,胚体組織と比べて胚体外組織では発現異常を示す遺伝子の数は少なく,胚体組織では遺伝子発現異常のパターンがドナー細胞ごとにグループ化できるのに対し,胚体外組織ではドナー細胞ごとの違いはほとんど見られなくなっていた。この結果は,胚体組織と胚体外組織において,体細胞核移植が胚発生に与える影響はそれぞれ異なること示しており,胚体組織ではドナー細胞由来の異常を着床後も残しているのに対して,胚体外組織ではゲノムワイドな遺伝子発現異常の回復が起こることを示唆している。また,3種類のドナー細胞由来のクローンに共通して発現異常を起こす遺伝子は,胚体外組織では特に見つからなかったが,胚体組織ではインプリント遺伝子である
Dlk1の発現増加が認められた。このことは,
Dlk1がマウスクローン胚における胎仔側の成長異常などの原因である可能性を示唆している。
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後藤 奈々, 向井 利太, 高口 尚也, 田島 陽介, 今井 裕, 山田 雅保
セッションID: OR1-29
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
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【目的】マウス胚盤胞(受精後5日目,day 5)を脱イオン化BSA(dBSA,0.6%)添加KSOM培地(dBSA培地)で培養すると,胚は遅延着床胚盤胞(DB胚)として少なくともday 9まで生存し,その産仔への発生能はday7まで非常に低いが保持され(産仔率12.5%)day 9では喪失すること,そしてday 9まで内部細胞塊(ICM)細胞数が減少することを我々は示している。本研究では長期培養マウスDB胚の産仔率の向上を目指し,マウス体外培養DB胚の産仔への発生に及ぼす非必須アミノ酸(NEAA)とES細胞の自己増殖に必須であるスレオニン(Thr)の効果を検討した。【方法】ICR系マウス胚盤胞(day 5)をNEAA及びThr(10mM)添加(実験区)あるいは無添加(対照区)dBSA培地でday 9まで培養し,DB胚の細胞数の測定及び胚移植による産仔への発生を検討した。またDB胚の発生におけるThr脱水素酵素(TDH)によるThr代謝の関与について,免疫蛍光染色によるTDHの発現,そしてThr類似体である3-Hydroxynorvaline (3-HNV,30 µM)のDB胚の発生に及ぼす影響を検討した。【結果】実験区のday9 DB胚のICM細胞数は,対照区のday 9 DB胚に比べ有意に高く(
P<0.05),またday 5胚盤胞に匹敵した。実験区のday7 DB胚の産仔率(43.2%)は,対照区day 7 DB胚(12.5%)およびday5胚盤胞(28.8%)に比べ有意に高い値となり(
P<0.05),さらに実験区のday 9 DB胚からも低率(2.4%)ではあるが産仔を得ることができた。TDHはDB胚のICMに局在することが観察され,またDB胚は3-HNVによって退行変性したが,3-HNVと同時にThr (10mM)処理することによってDB胚はday9まで生存した。以上の結果から,NEAA及びThrがマウス体外培養DB胚の生存及び産仔発生能の向上・維持に寄与することが明らかとなった。
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中村 隼明, 太齊 真理子, 武田 久美子, 韮澤 圭二郎, 田上 貴寛
セッションID: OR1-30
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
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【目的】ニホンウズラは,卵肉生産用の家禽として重要であるのみならず,実験動物としても広く利用されている。しかし,ニホンウズラの配偶子の凍結保存法は未だ樹立しておらず,遺伝資源を安定的に保存することができない。我々はこれまで,配偶子の前駆細胞である始原生殖細胞の凍結保存によるニワトリ遺伝資源の保存に取り組んできた。本研究では,ニホンウズラの始原生殖細胞を凍結保存し,移植による凍結細胞由来の産仔作出を試みた。【方法】約2日間孵卵したドッテッド・ホワイト系統ウズラ胚より採血後,密度勾配法により始原生殖細胞を分離し,液体窒素中にて77~185日間凍結保存した。凍結融解後における始原生殖細胞の回収率および生存率を解析した。続いて,凍結融解した始原生殖細胞の生殖巣移住能および配偶子分化能を解析するため,約2日間孵卵した野生型ウズラ胚の血流中に移植した。【結果】凍結融解後における始原生殖細胞の回収率は47.0±0.8%であった。凍結融解後における始原生殖細胞の生存率は85.5±1.9%であり,非凍結区(95.1±0.9%)と比べて有意に低かった(P<0.05)。移植3日目に凍結融解後の始原生殖細胞を移植した宿主胚の生殖巣においてドナー細胞が観察されたが,その数は非凍結区の48.5%であった。凍結融解後の始原生殖細胞を移植した宿主胚27個のうち19個が孵化し,14羽が性成熟した。これらのうち3羽(メス1羽とオス2羽)から凍結細胞由来の産仔が得られ,その産出効率は18.3±16.9%であった。これらの結果から,凍結保存したニホンウズラ始原生殖細胞は,移植後に宿主胚生殖巣へ移住,生着し,さらには機能的な配偶子へ分化することが示された。本法は,ニホンウズラ遺伝資源の恒久的な保存に資するものと期待される。
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谷 哲弥, 加藤 容子
セッションID: OR1-31
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
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【目的】排卵された未受精卵は,第二減数分裂中期で細胞周期を停止しており数時間以内に受精することで発生を開始する。体外受精や体細胞クローンなどの発生工学研究において,排卵直後の状態の未受精卵を用いることが一般的であり,体外及び体内での未受精卵の加齢は,卵細胞質の機能変化やその後の胚発生を大きく阻害することが知られている。特にブタ体細胞クローン研究では,胚移植に多数のクローン胚を準備する必要があるが一回の実験で操作できる未受精卵数は限られてくる。我々は,体外成熟したブタ未受精卵の単為発生及びクローン胚の体外発生率を落とすことなく24時間保存できることを報告した(第105回大会)。本研究では,このブタ未受精卵の体外加齢の抑制法の最適化をはかり,さらに卵細胞質の機能特性を明らかにすることを目的として実施した。【方法】成熟ブタ未受精卵は屠畜由来卵巣より採取し,44時間体外成熟したものを用いた。未受精卵の保存法の最適化は,培地(NCSU37,TCM199,PZM5,KSOM)・気相・温度・添加物(PVP,血清アルブミン,血清,ブタ卵胞液,ビタミンB,ビタミンC,メラトニン,メルカプトルエタノール,ピルビン酸,カフェイン,MG132)についてそれぞれ24時間後の保存後の単為発生の発生率と胚盤胞の細胞数を指標に検討した。また,至適条件で保存した未受精卵を用いて体細胞核移植も実施した。加齢未受精卵は,MPF,MAPK,クロマチンのアセチル化などの特性も調べた。【結果】保存に用いる培地の条件は,PZM5,5%酸素,39度,血清アルブミン及び血清添加で新鮮卵と同等の単為発生の発生率を示した。さらにピルビン酸及びメラトニンを添加することで,胚盤胞の細胞数の有意な増加も確認できたことから,ブタ未受精卵の体外加齢抑制法に有効であることが明らかになった。さらに至適条件で保存した加齢抑制卵を用いても体細胞核移植胚の体外発生能は新鮮卵と同等であった。また,加齢抑制卵のMPFとMAPK活性は有意に低下しなかったがクロマチンは高頻度にアセチル化されていた。
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渡部 浩之, 立野 裕幸
セッションID: OR1-32
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
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【目的】生殖補助技術を伴う不妊治療では染色体異常が高い頻度で発生し,流産を引き起こす原因の一つとなっている。染色体異常を有する胚の選別には,胚移植前の分割卵から割球を単離し,遺伝学的診断を施す着床前診断が有効であるが,胚を操作するという点で侵襲的な方法である。この点を解決するために,これまで我々は早期染色体凝集(PCC)による染色体分析を利用した精子の受精前遺伝学的診断法や,Calyculin A(Caly A)を用いた薬剤誘導PCCによる迅速・簡便な染色体分析法を確立してきた。これらの方法をさらに改良し,受精前に遺伝的診断を施した一組の精子・卵子から受精卵を作出する「配偶子の受精前遺伝学的診断法」の確立を試みた。【方法】未受精卵を有核細胞片と無核細胞片に二等分した。有核細胞片は賦活化により,無核細胞片は顕微授精により,それぞれ単為発生卵・雄性発生卵を作出し,2細胞期まで発生させた。それぞれの割球を単離後,単為発生卵と雄性発生卵の割球を不活化センダイウイルスにより融合させ,二倍体の受精卵を作出した。受精卵を受容雌に移植し16日目の着床および胎仔発生を調査した。また,残された単為発生卵・雄性発生卵はCaly Aを用いた薬剤誘導PCCによる染色体分析に供試した。【結果】単為発生卵と雄性発生卵の割球を融合させたところ,98.1%が正常に融合し,二倍体の受精卵が作出できた。割球融合後24時間までに74.5%が分割し,割球融合後72時間までに50.3%が胚盤胞へ発育した。受容雌に移植後,これらの胚は正常に胎仔まで発育した。また,残された割球はCaly A誘導PCCにより染色体分析を行うことができた。以上の結果から,予め染色体分析を行った一組の精子・卵子から受精卵を作出する「配偶子の受精前遺伝学的診断法」の確立に成功した。
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坂下 陽彦, 小林 久人, 井関 陽介, 若井 拓哉, 外丸 祐介, 河野 友宏
セッションID: OR1-33
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
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【目的】哺乳動物の受精卵では,全能性再獲得における初期化プロセスの一環として,ゲノム広範囲な脱メチル化が生じる。精子由来ゲノムの5メチル化シトシン(5mC)は受精直後急激に減少するが,これは5mC酸化活性を持つTET3により5mCが5ヒドロキシメチル化シトシン(5hmC)に変換される現象であることが証明された。本研究では,卵子における5hmCの存在の有無および局在について検証した。【方法】新生仔,成長期,性成熟雌マウスから非成長期卵,成長期卵および成長完了卵を採取して供試した。また,DNAメチル基転移酵素補因子(
Dnmt3L)ヘテロあるいはホモ欠損雌マウスの成長完了卵,および野生型精子とのIVFにより得られた前核期受精卵を用いた。固定処理後,5mCおよび5hmC抗体処理・核染色し,共焦点レーザー顕微鏡により蛍光を観察した。また,卵子の5hmC修飾因子と予測される
Tet3の発現を定量的RT-PCRにより解析した。【結果】免疫染色の結果,5mCシグナルは15日齢の成長期卵より検出された。一方,5hmCシグナルは非成長期および成長期卵においては検出されなかったが,成長完了以降ではほぼ全ての卵子で検出された(89/91)。この5hmCシグナルはPropidium iodideによる核染色領域と一致していた。定量的RT-PCRの結果,
Tet3の発現は10日齢の成長期卵から上昇し始め,成長完了卵では3倍の発現を示した。5hmC修飾が
Dnmt3L依存的に生成されるかを検証するため,
Dnmt3L欠損成長完了卵および受精卵を用いた免疫染色を行った。その結果,
Dnmt3L欠損において卵子核および雌性前核の5mCシグナル強度は野生型と比較して70%低下したのに対し,5hmCシグナルに明確な差はなかった。これらの結果から,卵子形成過程における5hmCは5mCとは異なり,成長完了卵で修飾されることが明らかになった。卵子での5hmC獲得は受精後の初期発生過程における転写活性及びエピゲノム変化に関与することが予想される。
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藤原 真, 高橋 望, 片倉 由貴, 野村 圭代, 平田 裕, 外丸 祐介, 阿部 訓也, 河野 友宏
セッションID: OR1-34
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
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【目的】マウス12番染色体末端に存在するインプリントクラスターである
Dlk1-Dio3ドメインにおいて,母方アレルから発現する非コード遺伝子群の正常な発現は個体発生に不可欠であることが知られているが,詳細な機能や調節機構は不明である(Takahashi et al. 2009)。そこで本研究では,母方発現非コード遺伝子群の機能及び発現調節機構の解明を目的とし,人工細菌染色体(BAC)を利用した非コード遺伝子過剰発現モデルマウス(BAC TGマウス)を作出し,その表現型を解析した。【方法】実験にはB6D2F1マウスを遺伝的背景とし,C3Hマウス由来の導入配列を有する75J10(150kb)と58E6(150kb)の2種類のBAC TGマウスを用いた。これら2系統の4世代にわたる出生率や致死率,個体ごとの体重などを記録した。また,胎齢15.5日胚の胎児および胎盤からcDNAを合成し,定量 PCRにより母方発現非コード遺伝子
Mirgの発現解析を行った。なお,導入領域からの遺伝子発現の特定は,多型を用いたシークエンス解析と制限酵素
Hin1I処理によって行った。【結果】75J10においては,導入領域を母方から遺伝した場合に,周産期致死,出生時の低体重,その後の成長遅延が確認された。ただし,成長遅延を引き起こした場合も,成長するに従い野生型と同等の体重まで回復し,正常な生殖能を有することが確認された。58E6においては, TGマウスの母親で分娩遅延と育児放棄を示す個体が認められた。また,野生型のマウスと比べて
Mirg遺伝子の発現が1.2–2.0倍程度に上昇しており,導入領域に由来する遺伝子発現が生じていることも確認できた。これらの結果から,導入領域からの遺伝子発現が個体発生,生後発育,ならびに母性行動に影響を与えることが示唆された。今後は,導入BAC領域中におけるメチル化インプリント領域のメチル化状況,およびmiRNAを含む詳細な遺伝子発現解析を実施していく予定である。
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三浦 健人, 張替 香生子, 篠村 麻衣, 中口 真有, 冨田 絢子, 恒川 直樹, 鈴木 仁美, 金井 正美, 九郎丸 正道, 金井 克晃
セッションID: OR1-35
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
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【目的】哺乳類では,Y染色体上の性決定遺伝子
Sryにより標的遺伝子
Sox9の発現が誘導され,性的に未分化な生殖腺が精巣へと分化する。しかし,
Sox9以外の
Sry標的遺伝子やその下流の分子機構の多くは未解明である。当研究室で作出したトランスジェニックマウス
Hsp-
Sry Tgは,熱処理により生殖腺に一過的なSRY発現を誘導出来る。
Hsp-Sry TgではXX生殖腺にも
Sryを発現させ,SOX9発現も誘導できるが,生殖腺の卵巣分化に伴い胎齢13.5日(E13.5) までにSRY依存的なSOX9誘導能(SDSI) は失われる。しかし,E13.5XX生殖腺を生体雄マウス腎臓被膜下に移植し発生させると,移植10日目にはSDSIが再獲得され,20目には精巣様の構造が出現する(XX精巣化モデル)。本研究は, XX精巣化モデルと
Hsp-Sry Tgを用いた,XX生殖腺の精巣化過程における遺伝子変動の網羅的かつ継時的な解析と,新規SRY標的遺伝子の同定を目的とする。【方法】E13.5野生型XX生殖腺を雄マウスに移植後,0~20日目で継時的に採材し(A),マイクロアレイにてXX精巣化における遺伝子の発現変動を解析した。また,
Hsp-Sry Tg
XX生殖腺を同様に移植後,10日目にSRYを誘導し(B),SRY依存的に発現が上昇する遺伝子群の同定を行った。【結果】Aの解析では,XX精巣化の過程で,XX生殖腺に特異的な遺伝子の発現が減少し,XY生殖腺に特異的な遺伝子の発現が増加していく結果が得られた。この結果から,SDSI消失に関与する卵巣化因子の減少に伴って,SDSIの再獲得が起こることが示唆された。また,Bの解析では,SRYの誘導により約4000の遺伝子が上昇しており,この遺伝子群中には
Sryや
Sox9,
Fgf9といった既知の精巣化因子の他,75個のXY生殖腺に特異的な遺伝子が含まれていた。今後,これらの因子について解析を進めることで,SRYが直接制御する生殖腺の性決定分子機構の解明に寄与できると考える。
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堀居 拓郎, 森田 純代, 木村 美香, 高橋 陵宇, 木村 博信, 末武 勲, 田嶋 正二, 落谷 孝広, 畑田 出穂
セッションID: OR1-36
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
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【目的】最近,マウス半数体ES細胞が樹立できることが報告され,生殖系列を含むあらゆる組織に分化できることが明らかとなった。半数体ES細胞はゲノムを1セットしか持たないため,単一アレルのノックアウトにより遺伝子の機能消失を起こすことができる長所がある。一方,CRISPR/Casによる遺伝子のノックアウトは,ターゲットと相補的な配列をベクターに導入するだけでベクターを構築できるので,ZFNやTALENと比べ簡便なDNA2本鎖切断,非相同末端再結合による遺伝子のノックアウト法として期待されている。【方法】本研究では,雌BDF1マウスより未受精卵を回収し,活性化刺激により得た半数体胚よりES細胞を樹立した。樹立したES細胞をセルソーターにより半数体細胞のみ分離し,Cas9発現ベクターとともにTet1,Tet2,Tet3遺伝子を標的とするガイドRNAを単独もしくは一度に半数体細胞に導入し,ノックアウト細胞株の樹立を試みた。そして,PCR-RFLPとシーケンスの確認により,ノックアウト細胞株を同定した。【結果】58個の未受精卵から26個の桑実期胚が得られ,17ラインのES細胞を樹立した。そのうち半数体細胞を含む細胞株は14ライン(82%)であった。単独遺伝子のノックアウト実験では,Tet1,Tet2,Tet3いずれにおいてもノックアウト細胞株を高頻度で得ることができた。また,トリプルノックアウト実験でも,一度のトランスフェクションでTet1,Tet2,Tet3の全てがノックアウトされた株が得られた。さらにTet1遺伝子では2箇所の標的に対するガイドRNAを用い14kbの大規模染色体欠失株を得ることができた。【考察】本研究により,半数体ES細胞を用いてCRISPR/Casにより複数遺伝子のノックアウトや大規模染色体欠失を一度に容易に行えることが明らかとなった。CRISPR/Casは従来のZFNやTALENと同様に遺伝子のノックアウトに有効な手段であり,今後はこの方法が広く利用されるようになると予想される。
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浅見 拓哉, 松本 健, 全 孝静, 高橋 智, 依馬 正次
セッションID: OR1-37
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
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マウスES細胞の自己複製はOct4,Sox2,Nanogがcore circuitを形成し,協調的に機能することにより維持される。これらの転写因子は多能性の維持だけでなく,発生過程でも重要であり,それぞれの欠損マウスは着床前後に致死である。また,Oct4,Sox2,Nanogは体細胞をiPS細胞へ初期化する能力を持つ。山中4因子の中でもKlf4は初期胚発生およびES細胞の未分化性維持には必ずしも必須ではない。Klf4はKruppel-like factor familyに属する転写因子であり,ES細胞においては特にKlf2,Klf4およびKlf5が重複した機能を持つことにより自己複製を維持していることが報告されている。これまでに我々は,Klf5は他のKlfファミリーと異なり,ES細胞の自己複製および初期胚発生過程に重要であることを明らかにした。しかし,Klf5によるマウス初期発生の制御機構,マウスES細胞の自己複製機構は分子レベルでは殆ど明らかにされていない。そこで本研究では,Klf5の初期発生過程および 多能性幹細胞におけるより詳細な機能解析を目的とした。 今回我々は,Klf5 KO胚のより詳細な表現型解析を行った。Klf5の制御する下流遺伝子群を同定するため,野生型胚とKlf5 KO胚からcDNAを増幅しマイクロアレイ解析を試みた。その結果,Klf5 KO胚ではあるシグナル伝達経路が活性化している事を見いだした。さらに,この経路を遮断する阻害剤の存在下でKlf5 KO胚を培養した結果,KO胚で見られた細胞死や細胞周期の進展異常が有意にレスキューされていた。特に,Klf5 KO胚の内部細胞塊ではNanog陽性細胞が消失しているが,この経路の遮断によりNanog陽性細胞が出現したことに加え,ES細胞を樹立することに成功した。このことから,Klf5はこのシグナル伝達経路を制御することにより,正常な発生および多能性維持に機能している可能性が示唆された。
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川口 高正, 築山 智之, 南 直治郎, 山田 雅保, 松山 秀一, 木村 康二, 今井 裕
セッションID: OR1-38
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
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【目的】人工多能性幹細胞(iPS細胞)などの多能性幹細胞は,高度な育種改良・効率的な家畜生産への利用が期待される。その際,多能性幹細胞が個体形成能を有することが必要となるが,齧歯類以外において個体形成能を持つ多能性幹細胞樹立に関する報告はほとんどない。その理由として,齧歯類以外の種で樹立されている多能性幹細胞の多くは,個体形成能に乏しいヒトES細胞様の細胞株であることによると考えられる。そこで本研究では,ウシにおいて,高い個体形成能を持つことが期待できるマウスES細胞様(ナイーブ型)のiPS細胞(biPS細胞)の樹立を試みた。【方法】妊娠50日齢の胎仔から採取した羊膜細胞に,
Oct3/4,
Sox2,
Klf4および
c−Mycの転写因子を,piggyBacトランスポゾンベクターを用いて導入した。このベクターには,ドキシサイクリン(Dox)添加の有無によって,導入した転写因子の発現が制御できるシステムを組み込んだ。Doxの添加から4日後,遺伝子導入後の細胞をフィーダー細胞上へと移し,幾つかの細胞分化シグナル阻害剤の存在下で培養した。【結果】Doxの添加から2週間後,明確な細胞境界を示すコロニーが出現した。このコロニーを継代すると,マウスES細胞様の球形でコンパクトな形態を示すbiPS様細胞が得られた。得られた細胞は,トリプシンにより単一細胞に分散しても10回以上継代を行うことができた。また,幹細胞マーカーであるアルカリフォスファターゼ活性を示し,多能性関連遺伝子(
OCT3/4,
NANOG,
ESRRβ,
REX1)の発現が認められた。biPS様細胞をJAK阻害剤の存在下で培養すると,細胞の増殖率が低下したことから,その細胞増殖はLIF/STAT3シグナルに依存していることが示唆された。さらに,低接着ディッシュ上で数日間浮遊培養し,分化を促すと,胚様体を形成し,三胚葉へと分化した。これらの結果から,得られたbiPS様細胞株はナイーブ型細胞の特徴を示す高度な多能性を有する幹細胞である可能性が示唆された。
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福田 智一, 土内 憲一郎, 星野 由美, 西森 克彦
セッションID: OR1-39
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
会議録・要旨集
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【目的】人工多能性幹細胞(iPS細胞)とは人工的に遺伝子を導入し,終末分化した体細胞を生殖細胞を含む全身の細胞へ分化できる全能性を付加する技術である。ヒトおよびマウスにおいてこのiPS細胞誘導技術は確立されているが,生物生産において重要な家畜であるブタにおいてはその技術の確立は十分とは言えない。iPS細胞化技術が動物において可能になれば,様々な産業利用が可能になると考えられる。我々はブタ由来胎児性線維芽細胞から人工多能性幹細胞の形態を示す細胞を得て,その生物学的特性を解析した。【方法】妊娠後約1ヶ月令のブタ胎児から得られた線維芽細胞へ山中4因子を含むリプログラミング因子を導入した。遺伝子導入後にMEF由来のフィーダー細胞上に播種した。【結果】フィーダー上に播種後に,特徴的な細胞形態を示すコロニーが出現した。コロニーは核/細胞質の割合が高い特徴的な形態を示した。加えて本細胞はRT-PCRにて様々な幹細胞に由来するマーカー遺伝子の発現が検出された。幹細胞としての生物学的特徴について報告する予定である。
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内田 奈緒美, 東 大, 坂本 望, 牧野 智宏, 新井 良和, 長嶋 比呂志, 大鐘 潤
セッションID: OR1-40
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
会議録・要旨集
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正常なDNAメチル化状態の破綻は様々な疾患を引き起こす。肥満は何らかの原因で生じたエピジェネティック異常が徐々に蓄積し,脂肪細胞の数や機能に異常が起きていると考えられる。そこで,本研究では脂肪細胞で重要な遺伝子の発現がDNAメチル化制御下にあるかをブタ組織を用いて検討した。まず,ブタ組織から抽出したDNAをバイサルファイト処理し,遺伝子の発現制御に関わると考えられる領域をPCR増幅してCOBRA法によるDNAメチル化解析を行った。33遺伝子を調べた結果,8遺伝子に組織・細胞間でDNAメチル化率に大きな差が見られた。この中には日本人の肥満原因遺伝子とされる
Klf9が含まれていた。バイサルファイトシークエンシング法を用いて
Klf9のDNAメチル化解析をした結果,組織・細胞特異的にDNAメチル化状態が異なる領域(T-DMR)が存在していた。同組織から抽出したRNAを用いたRT-PCRにより,Klf9ではT-DMRが低メチル化状態の脂肪組織と肝臓では高発現,T-DMRが高メチル化状態の線維芽細胞では低発現であった。これより
Klf9はDNAメチル化による発現制御を受けている可能性が示された。また
Klf9のT-DMRでDNA脱メチル化を誘導する可能性のある内在性アンチセンス非コードRNA(ASncRNA)の発現が確認された。
Klf9のASncRNAは脂肪組織と肝臓で高発現,線維芽細胞で低発現であり,T-DMRのDNAメチル化状態と逆相関していた。よって
Klf9の発現はASncRNAのDNA脱メチル化誘導・維持で制御されている可能性が考えられる。近年の研究で
Klf9は脂肪細胞分化誘導の最重要遺伝子
Ppargの発現を促進する上流遺伝子であることが分かっている。今後ASncRNAを用いたDNAメチル化改変による
Klf9発現制御ができれば,
Ppargを介して脂肪細胞の数や質を人為的に制御し,肥満の疾患モデル動物の作出,食肉の脂肪交雑やフォアグラの新たな作製法につながると期待できる。
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坂本 望, 東 大, 内田 奈緒美, 牧野 智宏, 新井 良和, 長嶋 比呂志, 大鐘 潤
セッションID: OR1-41
発行日: 2013年
公開日: 2013/09/10
会議録・要旨集
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組織特異的にDNAメチル化状態が異なる領域を持つ遺伝子が数多く発見されており,DNAメチル化は組織特異的な遺伝子発現を制御している。また,転写開始点近傍からmRNAとは逆向きに転写されるアンチセンス非コードRNA(ASncRNA)が標的遺伝子特異的にDNAの低メチル化状態を誘導することが報告されている。このことから,ASncRNAを用いたDNAメチル化改変により標的遺伝子の発現を操作し,有用細胞や疾患モデルとなるような異常な細胞を誘導することができると考えられる。本研究では,ブタを用いて肝臓の形成や機能に関わる遺伝子についてDNAメチル化解析および発現解析を行った。DNAメチル化解析にはCombined bisulfite restriction analysis(COBRA法)およびバイサルファイトシークエンス法を用いた。発現解析にはRT-PCRを用いた。COBRA解析の結果,転写開始点近傍が他の組織に比べて肝臓で低メチル化である遺伝子を13個同定した。それらの中から,肝臓形成のマスター転写因子であるHnf1a,Hnf4aに注目し,より広範囲に転写開始点近傍のDNAメチル化を解析した。その結果,COBRA解析の結果と同様に,
Hnf1a,
Hnf4aは転写開始点近傍が肝臓で低メチル化であった。
Hnf1a,
Hnf4aについて発現解析を行った結果,解析した4組織,細胞の中では肝臓のみでmRNAの顕著な発現がみられた。これらの結果から,
Hnf1a,
Hnf4aは肝臓特異的発現がDNAメチル化によって制御されていることが示唆された。次に,
Hnf1a,
Hnf4aについて,DNAメチル化を制御している可能性があるASncRNAの発現解析を行った。その結果,低メチル化状態である肝臓のみでASncRNAの顕著な発現がみられた。以上より,
Hnf1a,
Hnf4aは肝臓において,ASncRNAがプロモーター領域の低メチル化を誘導することで遺伝子発現を活性化している可能性が示された。
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