抄録
【目的】演者らはこれまでに新鮮射出精子の先体主部での膜タンパク質「SPACA1」の分布状態が,ヒトでは体外受精成績およびウシでは先体の耐凍性に影響することを報告した。本研究では先体反応後の精子におけるSPACA1の機能を探索する目的で,先体反応誘起処理に伴うブタ精子でのSPACA1の分布および分子マスの変化を調べた。【方法】洗浄後のブタ射出精子に,cAMPアナログ添加・CaCl2不含のmKRH液中でのキャパシテーション誘起処理を施した後,CaCl2を添加して先体反応を誘起した。また,洗浄後の試料の一部を凍結融解することで精子の先体に損傷を与え,先体反応精子との比較に使用した。上述の処理後の精子に,FITC標識PNAおよび抗SPACA1抗体を用いた二重染色を行い,先体の形態とSPACA1の分布状態を精子毎に観察した。また,分子マスの変化を調べる目的でSDS-PAGE・WB法によるSPACA1の検出も行った。【結果】洗浄後(89%)およびキャパシテーション誘起処理後(82%)には大部分の精子が正常な先体を備えていた。SPACA1は先体部(主部と赤道節)に分布し,またWBでは36 kDa, 39 kDaおよび42 kDaの3本のバンドとして検出された。CaCl2存在下でのインキュベーション後には67%の精子で先体反応が誘起され,その大部分(64%)でSPACA1は後先体部でも検出された。またWB検出像では36 kDaバンドが減少し,28 kDaおよび15 kDaのバンドが増加した。一方,凍結融解後の精子の99%では,先体の損傷が認められたが,SPACA1の分布状態に大きな変化は観察されなかった。しかしWBでは36 kDaバンドの減少および28 kDaバンドの増加が検出された。【結論】ブタ精子では先体反応とともにSPACA1の一部が先体部から後先体部に移動すると考えられる。また先体反応時にSPACA1の一部は断片化するが,この断片化は後先体部への移動に直接関与しないと推察される。