抄録
【目的】哺乳類の精巣では,曲精細管領域で精子発生が行われる。そこで産生された精子は微小水流に乗り,直精細管を通って精巣網へと集められ,更に精巣輸出管を通り精巣上体管で蓄えられる。我々は,直精細管の末端において細胞質を精巣網側へ突出させたセルトリ細胞に着目し,その弁様の形態からセルトリバルブと呼んでおり,解析を行っている。このセルトリバルブを構成するセルトリ細胞(以後SV細胞と呼ぶ)は,曲精細管のセルトリ細胞とは違い,アセチル化αチューブリンを高発現しており,微小管が安定化され,弁構造が維持されている事が示唆される。本研究では,細胞の形態変化に関与する事が示唆される細胞内シグナルであるAKTシグナルに着目し,このシグナルのセルトリ細胞における活性パターンの解析から,SV細胞の特性を明らかとする事を目的とする。【方法】野生型マウスとしてICR系統及びC57BL/6系統のマウスの精巣を用いた。また,生殖細胞欠損モデルとしてW/Wv系統マウスを用いた。活性型AKTであるリン酸化AKT(p-AKT)を指標として,抗p-AKT抗体を用いた免疫組織化学染色により,活性パターンの解析を行った。【結果】野生型マウスの曲精細管のセルトリ細胞では,精上皮周期のステージIIからVIIIにかけてAKTは活性化し,ステージIXからIにかけて抑制されていることが明らかとなった。このように曲精細管領域においてAKTは周期性を持って活性化されているのに対し,SV細胞では恒常的にAKTが活性化されていることが判明した。また,W/Wvマウスの精巣の解析から,生殖細胞の存在しない精巣においても,SV細胞はAKTが恒常的に活性化していることが明らかとなった。以上より,セルトリバルブ領域では,生殖細胞の有無に関わらず,セルトリ細胞におけるAKTシグナルの恒常的な活性化により曲精細管とは違った特殊なセルトリ細胞が形成されている事が示唆される。