日本繁殖生物学会 講演要旨集
第108回日本繁殖生物学会大会
セッションID: OR1-10
会議情報

精巣・精子
ブタ精子capacitationにおけるARとIDPcの役割の解析
*加藤 侑希丹波 道子菊地 和弘松田 学岡村 直道
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
目的] 哺乳動物の精子は,精巣で形成された段階では未熟で受精能力を備えていない。精巣上体における精子成熟及び,輸卵管峡部におけるcapacitation(CPN)という段階的な活性化を受けた精子だけが,超活性化運動及び先体反応を起こして卵と受精することが可能となる。CPNの詳しい分子メカニズムは未だ不明な点が多いが,CPNに直接結びつく反応としてROSレベルの上昇と機能タンパク質のチロシンリン酸化が特に重要であると考えられている。本研究では,CPNに伴いチロシンリン酸化されるタンパク質が精子のCPNや精子内ROSレベルの調節にどのように関わっているのかを明らかにすることを目的とした。[方法] 本研究では,生殖年齢に達したブタの精巣,精巣上体及び精子を実験材料として用い,CPN特異的チロシンリン酸化タンパク質として同定されたaldose reductase (AR)とisocitrate dehydrogenase 1 (IDPc)の機能解析を行った。[結果] 本研究により,CPNに伴いARがチロシンリン酸化を受け活性化することで,CPNに深く関係する超活性化運動とROSレベルの上昇が起こることが強く示唆された。一方,IDPcはCPNに伴って活性が低下することが判明した。加えて,精子細胞内NADPH量も低下し,反対にROSレベルは上昇していることが明らかとなった。これらの結果から,CPNに伴うチロシンリン酸化によるARの活性上昇とIDPcの活性低下は,精子内NADPH量の減少を導くことが推察される。更に,NADPH量の減少は,ROSの消去機構として重要であるグルタチオンサイクルの働きを障害し,結果として精子内ROSレベルを上昇させる。ROSは適切な濃度で調節されていることを条件に,精子がCPNを起こすために重要な調節因子になっていると考えられており,精子内ARとIDPcは,その調節の中枢を担っていると考えられた。
著者関連情報
© 2015 日本繁殖生物学会
前の記事 次の記事
feedback
Top