日本繁殖生物学会 講演要旨集
第108回日本繁殖生物学会大会
セッションID: OR1-20
会議情報

生殖工学
胚盤胞補完法はIL2RG遺伝子ノックアウト免疫不全ブタの免疫細胞を救済する
*中野 和明渡邊 將人松成 ひとみ内倉 鮎子浅野 吉則武石 透輝畑江 将太高草木 大地梅木 育磨福田 暢八島 紗耶香勝俣 佑紀梅山 一大長屋 昌樹花園 豊長嶋 比呂志
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【目的】我々は,Zinc Finger NucleaseによりIL2RG 遺伝子をノックアウト(KO)した雄性の胎仔繊維芽細胞から,体細胞クローニングにより免疫不全ブタを作出したことを報じた。このブタは,胸腺の形成不全,T細胞・NK細胞の著しい減少など,ヒトのX連鎖重症複合免疫不全症と類似した特徴を持ち,易感染性のために通常飼育による維持・繁殖は困難である。本研究では,IL2RG KOクローン胚に対し胚盤胞補完法を適用し,免疫細胞を救済したキメラブタの作出を目的とした。【方法】IL2RG KOの遺伝子型を持つ雄のクローン胚に,雌の野生型(WT)クローン胚の割球を注入し,キメラ胚を作製した。胚盤胞へと発達したキメラ胚をレシピエント雌に移植し,産仔を得た。毛色および遺伝子型解析 (PCR)によりキメラ個体を同定した。キメラブタのリンパ球分画を回収し,T細胞,NK細胞の割合をフローサイトメーターにて解析し,セルソーターで回収した細胞の遺伝子型をPCR法にて同定した。キメラブタの免疫機能を1)NK細胞活性,2)リンパ球幼若化能,3)抗体産生能を指標として評価した。【結果】胚盤胞124個を2頭のレシピエントに移植した結果,1頭が出産し,6頭 (9.7%, 6/62)の産仔を得た(キメラ: 2頭,IL2RG KO: 4頭)。IL2RG KOブタのリンパ球中のT細胞,NK細胞の割合はそれぞれ0.7%,0.4%であったのに対し,キメラブタでは40.8%,10.8%であった(WT:60.7%,3.7%)。キメラブタのT細胞,NK細胞はWTと同じ遺伝子型を示した。キメラブタはWTと同等の免疫機能(NK細胞活性,リンパ球幼若化能,抗体産性能)を有していた。4頭のIL2RG KOブタは生後0–12日で全頭死亡したが,キメラブタは性成熟に達し,正常な繁殖機能を示した(本学会で八島らが報告)。【結論】IL2RG KO免疫不全ブタに対し胚盤胞補完法を応用することで,免疫細胞を外来性健常細胞によって補償することが可能であり,体細胞および生殖細胞にIL2RG KO変異を持ちながら,正常な発育・免疫・繁殖能有する個体を作出し得ることが明らかとなった。

著者関連情報
© 2015 日本繁殖生物学会
前の記事 次の記事
feedback
Top