日本繁殖生物学会 講演要旨集
第108回日本繁殖生物学会大会
セッションID: OR1-22
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生殖工学
移植環境下における精子幹細胞の自己複製と分化のバランスの継時的変化
*中村 隼明今 弥生吉田 松生
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抄録

【目的】精子幹細胞は,自己複製と分化のバランスを保つことにより,長期にわたり大量の精子を作り続ける。マウス精子幹細胞は,GDNFを受容して自己複製するGFRα1陽性の未分化型精原細胞と,GFRα1陽性細胞から生じてレチノイン酸に反応して分化するRarγ陽性の未分化型精原細胞から構成される。不妊宿主マウスの精細管内に移植した精子幹細胞は,基底膜上に生着して正常な精子形成を再構築する。このため,移植後に生着した精子幹細胞は,初めのうちは自己複製の頻度が高いが次第に分化の頻度が高くなり,最終的には両者のバランスが均衡して定常状態になると予想される。しかし,その詳細については明らかにされていない。本研究では,GFRα1とRarγの発現に着目し,移植環境下において精子幹細胞の自己複製と分化のバランスが時間経過と共にどのように変化するか明らかにすることを目的とした。【方法】3ヶ月齢マウスの精巣を単一細胞に解離し,これを一定数ずつ不妊宿主マウス精細管内に移植した。移植後2~20日の期間に宿主精巣を採材した。Whole-mount免疫染色した精細管を全て観察し,未分化型精原細胞におけるGFRα1とRarγの発現を解析した。【結果】宿主精細管内に移植した精子幹細胞の約1/15が2日後までに基底膜上に到達したが,その総数は10日後まで減少し,その後急激に増加した。また,生き残った精子幹細胞では,GFRα1陽性細胞の割合が移植10日後まで増加し,その後Rarγ陽性細胞の割合が増加して,移植20日後には定常状態と同程度になった。以上の結果から,移植した精子幹細胞の一部が基底膜上に到達し,そのうち死滅を免れて生き残った一部のみが精子形成を再構築することが示唆された。また,生き残った精子幹細胞は,初めのうちは自己複製の頻度が高いが,徐々に分化の頻度が高くなり,定常状態へと移行することが示唆された。現在,GDNFとレチノイン酸が移植環境下における精子幹細胞の自己複製と分化に及ぼす影響について検討している。

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© 2015 日本繁殖生物学会
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