抄録
【目的】精子をフロイント完全アジュバント(FCA)に懸濁して幼若雄ラットの皮下に接種することで,成熟後に自己免疫性精巣炎を誘起しうる(第107回日本繁殖生物学会大会)。今回,精子数を増加して精巣炎を高率で発症させるとともに,精巣を検索して病態の進行を観察した。【方法】ラット精巣上体から採取した精子2x107個をFCAに懸濁し,2および4週齢時の2回,雄ラット8匹の皮下に接種した。対照群にはFCAのみを投与した。各群の4匹について,8,11,および16週齢で末梢血を採取した。採血と同時期および21週齢で成熟雌を用いた交配実験を行い,22週齢で全採血後,精巣および精巣上体を採取して組織学的検索に供した。末梢血を用いて,精子抽出物を抗原とする蛍光免疫測定法により抗精子抗体価を測定し,また,テストステロンおよびインヒビン濃度を測定した。残る各群4匹について,13週齢で精巣および精巣上体を採取し,組織学的検索に供した。【結果】実験群の血中抗体価は8週齢で対照群の40倍以上の高値を示し,15週齢まで維持された。テストステロンおよびインヒビン濃度は,どの個体も11週齢以降で対照群の平均値より低値で推移した。交配実験の結果4匹中3匹は16週齢までに不妊となったことが判明し,精巣ではほぼ完全に精子形成が失われていた。残る1匹は不妊とはならなかったが,精巣重量は対照群の約3分の2で,生殖細胞の脱落した精細管が多く認められた。13週齢で精巣を採取した実験群4匹のうち1匹の精巣重量は対照群の約2分の1で,高頻度で生殖細胞が欠損した精細管が観察された。他3匹の精巣重量は正常で,精細管にはまれに生殖細胞の脱落が認められた。13週齢,22週齢共に実験群の精巣間質にはマクロファージが高頻度で観察されたが,リンパ球の集族は認められなかった。【考察】上述の精子免疫により高率で自己免疫性精巣炎を誘起しうることが判明した。血中抗体価の上昇に関わらず精巣にリンパ球の浸潤が観察されなかったことから,生殖細胞の脱落は精巣間質に多く散在するマクロファージに起因することが示唆された。