抄録
【目的】体表温センサを用い,人為的な排卵誘起処理における排卵時間の予測が可能かどうかを検討した。【方法】黒毛和種経産牛3頭の任意の発情周期に,試作型体表温センサを尾根部腹側に装着し(–16日目),30秒または1分間隔で計23日間の体表温データを,無線受信機を介して採取した。–10日目にCIDRの腟内挿入と100 μgのGnRH投与を同時に行い,–3日目にCIDRを除去して0.5 mgのPGF2αを,発情予定日(–1日目)に100 μgのGnRHを投与して排卵を誘起した。発情予定日のGnRH投与後24時間目と,27時間目以降は1時間ごとに,発情予定日に卵巣に存在した直径8 mm以上の大卵胞が排卵した時間を超音波診断装置により観察した。また,GnRH投与直前から10時間目まで採血し,血清中のLH濃度を時間分解蛍光測定法により測定した。【結果】体表温データの取得成功率は92.8±6.8%であった。血清LH濃度はGnRH投与後2時間目にピークを示した。排卵が誘起されたのは3頭中2頭であったが,排卵の有無にかかわらずPGF2α投与後37.4±0.1℃の最高体表温が観察され,その時間はPGF2α投与後31.5±0.2時間目,発情予定日のGnRH投与前9.5±0.2時間目であり,バラツキは小さかった。排卵牛では最高温に達した時間から44.7~44.8時間目に排卵が集中した。体表温センサを用いることにより,PGF2α投与後31.5時間目に集中して最高温を示し,排卵牛においてはそのタイミングは人為的にコントロールされ,排卵時間の予測の可能性が示唆された。さらに,排卵前の最高温は,GnRH投与前であり,体表温の変動はステロイドホルモン濃度の変化と関連する可能性が示された。本研究の一部は内閣府「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)次世代農林水産業創造技術」の助成を受けた。