抄録
【目的】近年,ウシの繁殖成績低下が問題となっており,低い発情発見率および適期授精が行われていないことが要因の一つと考えられる。過去の報告から,ウシにおいて発情時に一過性の体温上昇が確認されている。今回,小型の無線式体表温測定センサをウシの尾根部腹側に装着,体表温を連続測定し,発情および排卵時期との関連性を調査した。【方法】実験には,黒毛和種雌牛4頭およびホルスタイン種未経産牛3頭を用いた。発情周期の10日目に体表温センサを尾根部腹側に装着し,体表温を2分間隔で測定した。卵巣の超音波検査は1日1回,採血は1日2回行った。黄体退行が開始した後,3 h間隔で試情により発情を確認し,発情終了時点から1 h間隔で超音波検査により卵巣を観察して排卵時期を特定するとともに,この間3 h間隔で採血を行った。得られた血漿はTR-FIA法により血中LH濃度を測定した。体表温計測値は30分ごとの最高温を抽出し,解析に用いた。体表温に日内変動が観察されたため,それぞれの時間の前3日間の同時刻の平均に対する差(平均日内変動値との差)を算出し,発情開始時期,LHサージおよび排卵時期との関連性を調べた。【結果】体表温センサのデータ取得率は90.7±5.0%(平均±標準誤差)であった。発情開始およびLHサージのピークから排卵までの時間は,それぞれ28.1±0.8 hおよび23.1±0.9 hであった。平均日内変動値との差が最大値(1.7±0.4℃)に達した5.5±7.9 h後に発情が開始し,9.3±7.8 h 後にLHサージのピークが認められた。平均日内変動値との差が最大値を示してから排卵までの時間は33.7±7.8 hであった。【考察】尾根部腹側の体表温を連続計測する侵襲性の極めて低いセンシング技術を用いて,体温変動をモニタリングできることが判明した。また,平均日内変動値との差が最大となる時点を算出することで,客観的な数値変動に基づいて排卵時期を予測できる可能性が示された。 本研究は,戦略的イノベーション創造プログラム(次世代農林水産業創造技術)により実施された。