抄録
【目的】夏季におけるウシの受胎率向上は緊急の課題となっている。胚移植で用いられる胚盤胞期胚は,初期胚よりも高温感受性が低いと言われる。しかし,凍結融解した胚盤胞期胚の高温耐性については不明な点が多い。本研究では,高温が凍結融解後の体外受精胚の生存性に及ぼす影響を形態および遺伝子発現解析により検討した。さらに,耐凍性向上効果が報告されているL-カルニチン(LC),フォルスコリンとリファンピン(FR)を発生培地へ添加して作出した胚の凍結融解後の高温耐性を調査した。【方法】と畜雌牛卵巣から回収した卵子を20時間成熟培養,5時間媒精後,10%FBS加m199で培養し,受精後7日目の胚盤胞期胚を緩慢法で凍結保存した。実験1:凍結胚を融解後,38.5℃(対照)または高温41.0℃(HS)で6時間培養した。6時間後の胚の発育状況(収縮率,再拡張率)およびmRNA発現量(HSPA1A,POU5F1,IFNT),一部の胚はその後38.5℃で48時間まで培養を継続し,発育状況(脱出率,胚直径),mRNA発現量を調べた。実験2:発生培養時に5mg/ml-LC(LC)または10μM-FR(FR)を含む培地で作出した胚盤胞期胚を凍結融解後6時間HS培養し,無添加の対照区,HS区とともに発育状況(収縮率,再拡張率)を比較した。【結果】実験1:6時間HS区は,対照区に比べて有意に胚盤胞の再拡張率が低く,HSP1A1mRNAの増加とIFNT mRNAの減少が認められ,48時間後においてもHS区は脱出率が低く,胚直径も小さかった(P<0.05)。実験2:6時間培養後の収縮率は,無添加HS区が他の区に比べて有意に高く,LC-HS区が低かった。一方,再拡張率は無添加HS区が有意に低く,FR-HS区が高かった。以上から,体外受精胚は凍結融解後の高温ストレスにより生存性が低下することが明らかになった。さらに,胚培養時に耐凍性向上効果のあるLCやFR等の物質を添加することで高温耐性の高い胚を作出できる可能性があることが示唆された。