抄録
【目的】我々はこれまでに,C57BL/6マウスの体外受精由来2細胞期胚を用い,2日間低温保存後の胚では新鮮胚と同等の産仔への発生能が維持されていることを見出した。さらなる低温保存期間の延長(3日間以上)を実現させることで,より効率的に遺伝子改変マウスの大規模生産が可能となる。本実験では,保存期間の延長を目的に,3日間低温保存における保存培地および保存温度が胚に与える影響を検討した。【方法】実験にはC57BL/6NJclマウスの体外受精由来2細胞期胚を使用した。低温保存培地は20mM HEPES添加Whitten’s Medium(WM+H)およびM2培地(M2)を使用した。保存温度は4℃あるいは10℃とし,3日間低温保存した。低温保存した胚は,modified Whitten’s Mediumにて体外培養する実験区と,偽妊娠0.5日目の受容雌マウスの卵管内に移植する実験区にわけ,胚盤胞期への発生能と産仔への発生能を検討し,対照区である低温保存前の新鮮胚との比較を行った。【結果および考察】胚盤胞期への発生能は,4℃および10℃ともにWM+Hで保存した実験区が対照区と同等の成績であった(新鮮胚:92%,10℃:87%,4℃:87%)。産仔への発生能は,低温保存培地に関わらず10℃で保存した実験区が対照区と同等の成績であった(新鮮胚:60%,WM+H:52%,M2:60%)。一方,4℃で保存した実験区では,低温保存培地の違いにより産仔への発生成績に顕著な差が認められ(新鮮胚:60%,WM+H:36%,M2:17%),短期低温保存培地としてM2よりもWM+Hの方が胚への影響が少ない可能性が示唆された。以上の結果,今回報告した胚の短期低温保存法(WM+H培地,10℃保存)は,新鮮胚と同等の高い発生能を維持したまま3日間保存できる有用な保存法であり,胚の凍結保存技術を利用しなくても,一度の体外受精で得られた胚を4日間に分けて胚移植することが可能となった。よって,本法の実用化は,より効率的な遺伝子改変マウスの大規模生産に貢献することが示唆された。