【目的】体細胞核移植によりクローンマウスを作る際にはドナー細胞が必要となる。これまでドナー細胞としては卵丘細胞や脳細胞,血液中の白血球やリンパ球などがあげられる。しかし,これらのドナー細胞を回収する際に安楽死や採血するためマウスに対しては侵襲的であり,個体に対して負担である。そこで本研究では個体に対してより低侵襲的であり,かつ容易に多くの細胞を回収できるドナー細胞として膣垢細胞に着目し,膣垢細胞が体細胞核移植のドナー細胞になりうるか検討した。【方法】B6D2F1種の雌マウスに7.5 IU PMSGを腹腔内に注射し,その48時間後7.5 IUのhCGを腹腔内に注射して,過剰排卵処理を施すことでレシピエント卵子を得た。レシピエント卵子を除核した後,B6D2F1の雌マウスから回収ならびに洗浄した膣垢細胞の核を顕微注入した。この再構築胚をSrCl2(5 mM), LatA(5 µM)およびTSA(50 nM)を添加したCa–-CZB培地で培養することで活性化の誘起と初期化の促進を行い,体外発生率ならびに偽妊娠メスへ移植した後の産仔率を調べた。【結果】発情期を除く膣垢細胞を用いた核移植の胚盤胞への発生率は,卵丘細胞(コントロール)を用いた場合より低い(発情前期13%,発情後期20%,発情休止期25% vs. control 40%)が,いずれも胚盤胞が得られた。特に発情休止期の膣垢細胞を用いたクローン胚の発生率が最も高かった。さらに移植後発情休止期の膣垢細胞を使用した場合に1匹ではあるが“正常な”クローン産仔が得られたことから,少なくとも発情休止期の膣垢細胞はクローン産仔作出のドナー細胞になりうることが示唆された。