【目的】近年,乳用牛の繁殖性低下が深刻化している。内分泌攪乱を伴う乳用牛の繁殖性低下において,急性ストレスだけでなく慢性ストレスも要因となりうることが報告されている。これまでに,跛行の乳用牛は健康な牛に比べ,乳中コルチゾール(COR)濃度は変化しないものの,発情前の乳中プロジェステロン(P4)濃度が十分に増加せず,繁殖成績が低下することが明らかになっている。一方,乳用牛の健康にとって横臥行動は重要であり,横臥行動を妨げることで視床下部-下垂体-副腎皮質軸の活動変化等,生理的ストレス応答を示す。本研究では,横臥行動と乳中P4濃度の関係を明らかにすることを目的とする。【方法】ゴムマットを設置したタイストール式牛舎で飼養されている分娩後30日以降のホルスタイン種泌乳牛4頭を供試した。試験は馴致期7日間,本試験期14日間の計21日間を1期とし,2期反転法で行った。対照区には敷料を投入せず,試験区には敷料として厚さ1 cm程度のオガクズを毎日投入した。本試験期初日にGnRH(100 μg),7日目にPGF2α(PG: 500 μg)を投与して発情の同期化を行った。本試験期間中の行動をビデオカメラにより観察するとともに午後搾乳時に生乳を採取した。横臥時間を算出し,乳中P4およびCOR濃度を測定した。本研究では採血によるストレス応答を排除するため生乳を検査サンプルとした。【結果および考察】4頭中1頭において,対照区に比べ試験区で有意に横臥時間が増加した(P<0.01)。この横臥時間に有意差が認められた個体では,試験区と比較し対照区でPG投与前の乳中P4濃度が有意に低下した(P<0.01)。一方,横臥時間に有意差が認められなかった個体では,対照区と試験区間で乳中P4濃度に違いは認められなかった。いずれの個体も対照区と試験区間で乳量および乳中COR濃度に違いは認められなかった。以上,横臥行動を阻害されると乳中COR濃度は変化しないものの,発情前の乳中P4濃度が十分に増加しない可能性が示された。