【目的】発達期の脳は可塑性が高く,内分泌攪乱物質などの環境因子によって成熟後の生殖機能が撹乱されることが知られている。本研究では,視床下部弓状核に局在し性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)/黄体形成ホルモン(LH)分泌制御を担うkisspeptin/neurokinin B/dynorphin A(KNDy)ニューロンに着目し,新生仔期の外因性エストロジェンによるパルス状LH分泌不全を引き起こす中枢メカニズム解明を目的とした。【方法】雌ラットの新生仔に,生後0日から10日まで毎日estradiol benzoate(EB群)または溶媒である落花生油(対照群)を投与した。成熟後に性腺除去を行い,その2週間後に6分間隔3時間の採血を行い,LH分泌動態を解析した。また同処置を施したラット脳切片を用いin situ hybridization法により,Kiss1(kisspeptin遺伝子),Tac3(neurokinin B遺伝子),Pdyn(dynorphin A遺伝子)のmRNA発現を解析した。またエストロゲン受容体(ER)αKO,ERβKO,および野生型(WT)雌マウスを用いて出生1,3,5,7,および9日目にEBを投与し,弓状核におけるKiss1のmRNA発現を解析した。【結果・考察】対照群ラットでは明瞭なLHパルスと,弓状核に多数のKiss1発現細胞が観察されたが,EB群ではLHパルスは殆ど認められず,弓状核Kiss1発現が有意に抑制された。一方,Tac3,Pdyn発現は2群ともに観察され,差は認められなかった。EB投与により,WTおよびERβKOマウスにおけるKiss1発現細胞数は有意に減少したが,EB投与ERαKOマウスでは多数のKiss1発現細胞が認められた。以上の結果から,新生仔期の外因性エストロジェンはERαを介してKNDyニューロンに作用しKiss1遺伝子発現を特異的に抑制し,生涯にわたってKiss1発現を抑制することでパルス状LH分泌不全を引き起こすことが示唆された。