日本繁殖生物学会 講演要旨集
第109回日本繁殖生物学会大会
セッションID: OR2-35
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卵巣
プロスタグランジンE産生の低下はヒト黄体の退行に重要である
*小林 純子岩永 敏彦DUNCAN Colin W.
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抄録

【目的】黄体は妊娠の成立と維持に必須なプロゲステロンを産生するが,妊娠が成立しない場合,黄体は速やかに退行する。ウシやマウスでは,子宮より産生されるプロスタグランジンF(PGF)が黄体の退行開始に重要な役割を果たすが,子宮からのPGFはヒト黄体の退行に関与しない。ヒト黄体では,黄体細胞自身が産生する因子(TGFßスーパーファミリー蛋白)が黄体退行作用をもつが,黄体内におけるプロスタグランジンの作用は不明である。本研究では,ヒト黄体で産生されるプロスタグランジンの働きを検討した。【方法】英国エジンバラ大学にて患者の同意のもと採取した黄体周期を通じたヒト黄体組織および体外受精治療のためにエジンバラ大学もしくは北海道大学病院に来院した患者より提供された卵胞液を実験に用いた。黄体組織および分離培養した黄体化顆粒層細胞(LGCs)を用いて,リアルタイムPCR法と免疫組織化学により,遺伝子および蛋白質の発現を解析した。【結果】プロスタグランジンE(PGE)産生酵素(PTGES)は中期黄体で強く発現するが,PGF産生酵素(AKR1B1AKR1C1−3)は後期および退行期黄体で発現が増強した。PGEは,ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)と同様に,黄体細胞におけるステロイドおよびPGE産生を刺激し,黄体退行因子の発現を抑制した。一方,PGFは顕著な作用を示さなかった。PTGESは顆粒層黄体細胞の細胞質に発現し,黄体組織におけるPTGESの発現はプロゲステロン合成酵素(HSD3B1)の発現と正の相関関係にあった。一方,PGF産生酵素であるAKR1C3は,PTGESおよびHSD3B1の発現と負の相関関係にあった。LGCsにおけるPTGESの発現は培養日数とともに減少するが,AKR1C3の発現は増加した。【考察】ヒトでは,黄体の退行に伴いPGE/PGF産生のバランスが変化することが明らかとなった。ヒト黄体の退行には,PGFの作用よりもPGE産生の低下がより重要であると考えられる。

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