日本繁殖生物学会 講演要旨集
第109回日本繁殖生物学会大会
セッションID: OR2-9
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卵・受精
SOD1遺伝子欠損マウスの培養卵でみられる2細胞期発生停止にはDNA損傷応答経路が関与する
*舘花 美沙子齋藤 匠子藤井 順逸木村 直子
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抄録

【目的】我々は抗酸化酵素SOD1欠損(SOD1KO)マウスの培養卵では2細胞期発生停止を起こすこと,また培地中にアスコルビン酸(AsA)を添加することで効果的にその停止を解除できることを明らかにしている。この発生停止のトリガーは明らかになっていないが,酸化ストレスによるDNA損傷に応答した細胞周期停止の主要経路として,ATM/ATRによる細胞周期チェックポイント機構が報告されている。ATMはDNA損傷に応答し自己リン酸化し,下流因子の活性化を介して細胞周期をG1/S期またはG2/M期で停止させることが明らかとなっている。そこで本研究では,SOD1KO胚のDNA損傷の検出および2細胞期発生停止へのATM経路の関与の検証を行った。【方法】過排卵処理したICR系野生型(WT)およびSOD1KO雌マウスから排卵卵子を採取し,体外受精40時間後に2細胞期胚を得た。WT,SOD1KOおよび500 μM AsAを添加し培養したSOD1KO(SOD1KO+500 μM AsA)の3区において,免疫蛍光染色とウェスタンブロッティング解析により,DNA損傷マーカ—であるγH2AX,ATM経路の因子であるリン酸化ATM(p-ATM),リン酸化p53(p-p53),p21およびCDC25Bの発現量ならびに局在解析を行った。【結果および考察】SOD1KO胚は500 μMのAsA添加により,4細胞期への発生率がWTと同程度となった。γH2AXは,WTおよびSOD1KO+500 μM AsAではほぼ検出されなかったのに対し,SOD1KOにおいて核内に強く局在していた。またp-ATMおよびp-p53においても,WTおよびSOD1KO+500 μM AsAで核内にほぼみられなかったのに対し,SOD1KOでは強く局在していた。p21は核内で検出されたが,いずれの区でも大きな違いはみられなかった。CDC25BはWTおよびSOD1KO+500 μM AsAで核膜に検出されたが,SOD1KOではほぼ検出されなかったことから,SOD1KOでG2/M期移行が妨げられている可能性が示された。以上より,SOD1KO胚の発生停止の要因としてDNA損傷によるATM経路の活性化が考えられ,また500 μM AsAの添加培養はSOD1KO胚のDNA損傷を抑制しているものと考えられた。

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© 2016 日本繁殖生物学会
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