【目的】LH刺激により顆粒層細胞(GC)や卵丘細胞(CC)で発現するEGF-like factor(AREG,EREG)は切断酵素であるADAM17に切断されると,パラクライン・オートクライン的にCCに作用し,EGFR-ERK1/2系の活性化を介して卵成熟や排卵を誘導する。これまで我々は,ブタにおいてLH刺激後のGCとCCで神経性ペプチドNeurotensin(NTS)が発現することを見出したが,その役割については不明である。そこで本研究では卵成熟を誘導するEGFR-ERK1/2経路に着目し,NTSの作用機序を解析した。【方法】食肉処理場由来のブタ卵巣からCOCを採取しFSH+AREG(Control)区,FSH+AREG+NTS(NTS)区,FSH+AREG+NTS+SR(NTSR阻害剤)(NTS+SR)区で40 hまで培養し,COC直径,膨潤関連遺伝子(Has2,Tnfaip6,Ptx3)発現,ERK1/2のリン酸化,卵のMII率,IVM後の卵の桑実胚までの発生率を調べた。さらにNTSの作用機序を調べるため,同処理区で培養したCCのEregとAdam17,Egfrの遺伝子発現,EGFRの発現とリン酸化を調べた。【結果】COC直径,膨潤関連遺伝子発現,MII率,桑実胚率ともにControl区に比べNTS区で増加し,NTS+SR区で有意に抑制された。リン酸化EGFRとERK1/2はNTS区では40 hまで維持されていた一方,Control区とNTS+SR区では30 hで減弱した。リン酸化ERK1/2が減弱した30 hにおいてEregとAdam17発現はNTS区に比べNTS+SR区でさらに増加したが,Egfr発現とEGFRのタンパク質量はNTS区に比べNTS+SR区で有意に減少した。以上の結果からNTSはブタ排卵過程においてCCでのEGFR発現を維持する結果EGFR-ERK1/2系の持続的活性化を可能にし,卵成熟およびその後の胚発生を担保する因子であることが明らかになった。