日本繁殖生物学会 講演要旨集
第111回日本繁殖生物学会大会
セッションID: OR1-6
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卵・受精
受精後にユビキチン・プロテアソーム系による分解が必要な母性タンパク質の同定
*樋口 智香奥野 智美神谷 拓磨山本 真理越智 浩介宮本 圭松本 和也
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抄録

【目的】受精卵では,母性由来mRNAとタンパク質の分解,また胚性ゲノムの活性化が起きることにより,発生の制御が母性から胚性へと移行する。特に,母性タンパク質の分解は,ユビキチン・プロテアソーム系(UPS)によって行われており,この時期のタンパク質分解が,胚性ゲノムの活性化に関与することが明らかとなっている(Shin SW et al., 2010)。しかしながら,その詳細な関与機構は明らかとなっていない。そこで,本研究では,UPSによる母性タンパク質分解が関与する胚性ゲノム活性化の分子機構を明らかにすることを目的に,受精卵におけるタンパク質の過剰発現法を用いて,受精後にUPSによる分解が必要な母性タンパク質の探索を行った。【方法】公共データベースを用いたバイオインフォマティクス解析により,“受精後UPSにより分解され,転写抑制に関与する母性候補タンパク質”を検索した。次に,蛍光タンパク質と融合したmRNAを合成し,受精直後のマウス受精卵に顕微注入した。その後,蛍光による発現確認,胚盤胞期胚までの胚発生の観察を行った。さらに,過剰発現胚を網羅的な遺伝子発現解析に供し,2細胞期時期の遺伝子発現を調べた。【結果及び考察】候補タンパク質の検索から,8つの母性候補タンパク質を同定した。続いて,各母性候補タンパク質の過剰発現が,その後の胚発生に及ぼす影響を検討した結果,2細胞期での発生停止を引き起こすタンパク質として,翻訳後修飾のSUMOを結合する機能をもつタンパク質を同定した。さらに,網羅的な遺伝子発現解析の結果から,同定タンパク質を過剰発現した胚では,胚性遺伝子の発現が上昇していないことが明らかとなった。以上の結果から,受精後のUPSによる同定タンパク質の分解が引き金となり,胚性ゲノム活性化が誘導される可能性が示された。現在,同定タンパク質がSUMO化の標的とする因子の同定と,同定因子が胚性ゲノムを活性化する制御機構について解明を進めている。

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