日本繁殖生物学会 講演要旨集
第111回日本繁殖生物学会大会
選択された号の論文の163件中1~50を表示しています
優秀発表賞(口頭発表二次審査)
性周期・妊娠
  • 中村 悠稀, 市川 遥翔, 水野 佳穂, 大西 崇仁, 岩田 尚孝, 桑山 岳人, 白砂 孔明
    セッションID: AW1-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【背景】体を構成する細胞は加齢とともに細胞老化を起こし,炎症を誘導する様々な分泌因子(IL6やIL8)を高発現するSASP(Senescence-associated secretory phenotype)と呼ばれる現象が起きる。近年,卵子老化による妊孕性低下が問題となっているが,卵管における加齢性変化と機序は分かっていない。本研究では,卵管構成細胞の細胞老化と機序について検証した。【方法】黒毛和種の30–50ヶ月齢を若齢,120ヶ月齢以上を老齢とし,採取した卵管から卵管上皮細胞(OEC)を単離し解析を行った。実験1:若齢と老齢OECを用い,細胞老化度(Senescence-associated β-galactosidase〈SAβGal〉染色)を比較した。実験2:老化誘導の候補因子としたS100A8を若齢や老齢OECに添加し,IL8分泌やIL8やIL6 mRNA発現を測定した。また,p16やp21 mRNA発現,Collagen(COL)mRNA発現,COLタンパク発現に与える影響を検討した。実験3:炎症誘導経路を検討するため,受容体RAGE発現と活性酸素種(ROS)産生を調べた。また,RAGE,ROSやMAPK経路阻害剤をOECに添加した。【結果】実験1:若齢OECより老齢OECでSAβGal染色度が高く,細胞の継代数依存的にSAβGal染色度が強くなった。実験2:老齢OECで発現が高かったS100A8を添加すると,IL8分泌,IL8やIL6 mRNA発現が増加した。S100A8を添加するとp16やp21 mRNA発現が増加し,COL mRNA発現とCOLタンパク発現が減少した。実験3:OECにS100A8を添加すると,RAGE発現やROS産生が増加した。また,各阻害剤をOECに前処理すると,S100A8誘導性IL8分泌が軽減された。以上から,ウシOECは加齢に伴い細胞老化や加齢性炎症が起きることが明らかになった。また,S100A8はOECの炎症応答の促進と細胞機能を低下させることが分かった。

  • Ihshan AKTHAR, Susan SUAREZ, Vernadyn MORILLO, Mohamed EZZ, Motoki SAS ...
    セッションID: AW1-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    The uterus has a well-developed innate immune system that recognizes microbes and sperm. We have recently shown that sperm binding to bovine uterine epithelial cells (BUEC) induces acute inflammatory response. This raises the query of whether the uterus uses a common or similar mucosal immune response to sperm and microbes; however, immune cross-talk between sperm and endometrium is unclear. Our BUEC culture model showed that pro-inflammatory response induced by sperm binding involves TLRs signaling pathway via TLR2; however, immunological functions of the uterus in vivo involve interactions of tissues and mucus coating the endometrial surface could modulate responses. Thus, we developed an ex vivo explant model to investigate the sperm-uterine interaction in vivo. Uterine explants were co-incubated with 106/ml washed fresh sperm. JC-1 labeled sperm were used in fluorescence microscopy. Sperm glide over the surface epithelium until they encounter and enter uterine glands. SEM observations show that endogenous neutrophils appeared in uterine glands along with the clusters of sperm; they may initiate sperm clearance. Co-incubation for 2 h resulted in upregulation of TNFA and IL1B mRNA expression, but IL8 expression started to increase earlier at 0.5 h. TLR2 antagonist reduced the sperm numbers in the glands and inhibited the increase of TNFA and IL8 which suggest that the sperm-uterine inflammatory process is at least partly mediated by TLR2 signaling. Our observations suggest that uterine glands serve as a site where sperm interact with glandular epithelium to trigger the innate immune response to rapidly clear sperm from the uterus and thus prepare the endometrium for embryo implantation.

生殖工学
  • 中尾 聡宏, 竹尾 透, 渡邊 仁美, 近藤 玄, 中潟 直己
    セッションID: AW1-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】哺乳動物の精子は,雌生殖道内において受精能獲得の誘起および精子の選別が行われ,最終的に少数の精子が卵子へ到達し受精が成立する。そのため,精子の選別は受精過程において重要な現象であると考えられる。精子選別に関して研究を進めるには,細胞分離に汎用されるセルソーターの利用が有効であるが,マウス精子は物理的ダメージを受けやすく,従来のセルソーターでは運動能を維持したまま分取することが困難であった。そこで本研究では,細胞へのダメージが低いことが知られているマイクロ流路チップを用いたセルソーターを応用し,運動機能を維持したままマウス精子を選別できる最適条件の決定及び選別された精子の受精機能の評価を行った。【方法】卵子および精子は,C57BL/6J系統の雌雄成熟マウスより採取した。まず,散乱光により精子を回収し,精子運動性解析装置による運動能,体外受精による受精能,体外受精より得られた胚の発生能を評価した。続いて,本システムにより,受精可能精子(先体反応精子)の選別を行い,受精能を比較した。先体反応精子は,PNA Lectin-FITC(PNA)により標識し,蛍光強度により PNA-(low),(mid)及び(high)の3区に選別した。【結果】マウス精子選別の最適条件を設定した結果,運動能を有した精子が分取され,体外受精により受精能が確認された。体外受精により得られた胚は,体外培養により胚盤胞期胚および胚移植後,産子へと発生した。また,PNAにより標識した精子の運動能は,蛍光強度による変化は認められなかったが,体外受精における受精率は,PNA-(low)区と比較し,PNA-(mid)及び(high)区において上昇した。以上の結果より,マイクロ流路チップ・セルソーターを用いることで,運動能および受精能を維持したままマウス精子を選別することに成功した。本技術は,受精能獲得精子における新規受精マーカーの探索にも利用できるため,今後,受精の分子メカニズムの解明や新規体外受精の開発に応用できるものと思われる。

  • 遠藤 充, 山羽 悦郎, 藤本 貴史
    セッションID: AW1-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】魚類では異種間交雑や倍数性操作により核ゲノム構成を人為的に制御し,不妊個体が作出されてきた。一方,哺乳類ではミトコンドリアヘテロプラスミーの顕在化による雄性不妊が報告されている。魚類ではヘテロプラスミーと生殖特性の関係についての知見が少なく,細胞質に起因する妊性の変化を解明できれば,新たな不妊化技術となる可能性がある。本研究では,ヘテロプラスミーが配偶子形成に与える影響の調査に向け,ゼブラフィッシュ受精卵へキンギョミトコンドリアを移植し,人為的ヘテロプラスミー誘起を試みた。【方法】キンギョ未受精卵から単離したミトコンドリアをMitoTracker Green FMで蛍光染色した。このキンギョ由来ミトコンドリアを,人工授精により作出したゼブラフィッシュの1細胞期胚に顕微注入し,ミトコンドリア移植を行った。32個体の移植胚を個別培養し,生残率,奇形率を調べるとともに,蛍光顕微鏡によりキンギョ由来ミトコンドリアの動態を観察した。また,8細胞期から孵化期までの各胚発生段階におけるキンギョmtDNAの存否を,種判別プライマーを用いたPCRにより調査した。プライマーはゼブラフィッシュとキンギョのミトコンドリア遺伝子atp6に対して種特異的に増幅するように設計した。【結果】受精72時間後の孵化期における移植胚の生残率と奇形率は81.3%,11.1%であり,無処理胚(83.3%,5.7%)と比較して有意差はなかった。移植胚では,キンギョ由来ミトコンドリアを示す蛍光シグナルが胚発生の進行とともに胚体全体へ拡散した。また,移植胚のすべての胚発生段階でゼブラフィッシュとキンギョのmtDNAが検出された。以上のように,移植したキンギョmtDNAは胚発生を通して存在したため,本研究のミトコンドリア移植は,魚類のヘテロプラスミー研究の良いモデルであると考えられた。今後,ヘテロプラスミー個体での始原生殖細胞の分化や配偶子形成の解析により,ヘテロプラスミーが生殖特性へ与える影響を明らかにできると考えられる。

卵・受精
  • 宗像 祥久, 柴原 秀典, 植田 愛美, 川原 玲香, 白砂 孔明, 桑山 岳人, 岩田 尚孝
    セッションID: AW1-5
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】卵胞液(FF)は卵子と顆粒層細胞(GC)の共通の環境である。我々は卵子の発生能力とその個体のFFの卵子成熟・発生支持能力の間に高い関係性があることを見出している。FF中にはエクソソームなどの細胞外小胞(EV)が存在しており,近年FF中EV内のmiRNAが卵胞内の細胞に影響するという報告があるが詳細は未だ明らかになっていない。本研究では卵胞発育に関与するFF中EV由来のmiRNAの探索およびその影響について検討した。【方法】(実験1)食肉センター由来ブタ卵巣の卵胞(直径1–3 mm)からFFを採取し,EV除去FFと対照FFを作成した。対照FF又はEV除去FF10%添加培地で卵子卵丘細胞複合体(COCs)を培養し,成熟率と発生率を評価した。(実験2)小(直径1–3 mm)又は大(5–7 mm)卵胞のGCのRNA-seqデータを用いて発現変動遺伝子群のIPA解析から上流因子であるmiRNAを推定した。又,大小卵胞FFからEVを抽出しsmall RNA-seqから得られたmiRNAとの比較で候補miRNAを推定した。(実験3)良好(GC数が多く卵子が高発育)と不良(GC数が少なく卵子が低発育)個体の卵巣からGCとFFを回収し,実験2と同様に候補miRNAを推定した。(実験4)対照FFとEV除去FF添加培地でCOCsを培養し,その卵丘細胞をRNA-seqに供して発現が異なる遺伝子群から上流因子であるmiRNAを推定した。(実験5)実験2–4の候補miRNAから共通miRNAを選抜し,そのmiRNAをEV除去FF添加培地に添加し卵子の能力に及ぼす影響を検証した。【結果】(実験1)EV除去FFに添加により卵子の成熟率と発生率を低下させた。(実験2–5)それぞれの結果の比較からmiR-27b,miR-17,miR-145を候補miRNAとして推定した。成熟培養へのmiR-27b添加は発生率を有意に向上させた。一方miR-17とmiR-145については胚発生率への影響は観察されなかった。

  • 眞野 友裕, 宮木 杏菜, 伊川 正人, 中村 肇伸
    セッションID: AW1-6
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】精子と卵子は,受精後にリプログラミングを経て胚体外組織を含む全ての細胞に分化できる「全能性」と呼ばれる能力を再獲得する。本研究では,全能性獲得の分子基盤を明らかにするために,全能性細胞で特異的に発現する遺伝子の探索を行い,Zbed3(Zinc-finger BED Domain-containing 3)を同定した。本報告では,Zbed3の生体内での機能を明らかにすることを目的として研究を行った。【方法】着床前胚におけるZbed3のmRNAおよびタンパク質の発現はそれぞれqRT-PCRと蛍光免疫染色を用いて検討した。また,Zbed3ノックアウトマウスは,CRISPR/Cas9システムを用いて作製した。【結果】Zbed3の着床前胚における発現を検討した結果,Zbed3は受精卵から4細胞期胚の間で特異的に発現し,卵細胞膜皮質下に限局していた。Zbed3は,培養細胞を用いた研究から,Wnt/β-cateninシグナルを正に制御することが報告されているが,少なくとも初期胚では,Wnt/β-cateninシグナルの制御には関与しないことが示された。一方,Zbed3の特徴的な細胞内局在は,SCMC(subcortical maternal complex)と呼ばれる複合体の構成成分の局在と酷似していた。また,免疫沈降によりZbed3はSCMCの構成成分であるMater相互作用することが示唆された。これらのことから,Zbed3はSCMCの構成成分である可能性が考えられた。次に,生体内での機能を調べるために,Zbed3のノックアウトマウスを作製した。その結果,メスのZbed3ノックアウトマウスから得られた受精卵では胚盤胞期への発生率が著しく低下すること,また多くの受精卵から不均等な割球を持つ2細胞期が得られることが明らかとなった。以上から,Zbed3は初期発生に必須の母性効果遺伝子であり,均等な割球を持つ2細胞期胚への分裂に重要な役割を果たすことが示唆された。

  • 京極 博久, 北島 智也
    セッションID: AW2-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】細胞は染色体分配を行う際,主に微小管によって構成された,紡錘体とよばれる細胞内構造体により行われる。最近,細胞質サイズが紡錘体の安定性に影響を与えていることが明らかとなった。本研究では,紡錘体を主に構成する微小管に着目して,紡錘体の安定性を変化させる原因を,ライブイメージングと顕微操作技術を組み合わせて直接的に明らかにすることを目的とした。【方法】本研究ではマウス卵母細胞を実験に用いた。顕微操作により細胞質量を半分に減らした卵母細胞(Half)と細胞質量を2倍にした卵母細胞を作成した。これらの卵母細胞において,Photoactivation-GFPを用いて,高解像度ライブイメージングにより,微小管の安定性を観察した(実験1)。見られた微小管の安定性の変化が,紡錘体の安定性に関係しているかを調べる為,Half卵母細胞において,微小管形成阻害剤で処理し,染色体の整列に影響があるかを調べた(実験2)。さらに,微小管安定性の変化が,卵母細胞のどの要素によるものなのかを特定した(実験3)。最後に,微小管安定性の変化が,初期胚の発生過程でも同様にみられるのかを確認した(実験4)。【結果および考察】( 実験1)紡錘体微小管の安定性は,細胞質量を小さくすると安定し,大きくすると不安定になった。すなわち,微小管の安定性は紡錘体の安定性に関与していることが示唆された。(実験2)Half卵母細胞を微小管形成阻害剤で処理したところ,染色体の整列が遅延した。よって,紡錘体の安定性には微小管の安定性が関係していることが明らかとなった。(実験3)核膜崩壊後に細胞質量を半分にした卵母細胞の微小管の安定性はコントロールと同様であった。すなわち,微小管の安定性は核内物質の濃度で決まっていることが明らかとなった。(実験4)初期胚での微小管安定性を計測したところ,細胞分裂毎に安定性が高くなっていった。すなわち,胚発生過程の有糸分裂においても核/細胞質比によって微小管の安定性が変化していることが明らかとなった。

卵巣
  • 渡辺 連, 佐々木 将, 木村 直子
    セッションID: AW2-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】哺乳類雌の潜在的な卵巣機能は,胎生後期から出生前後に形成された原始卵胞の備蓄数に左右され,その後の生殖能や生殖寿命を支えている。我々は出生直後の新生仔マウスへの授乳制限が,卵巣内のオートファジーを活性化し,原始卵胞の形成を促進することを報告している。本研究では,「原始卵胞形成期で人為的にオートファジーを増強し,原始卵胞数を上方制御できれば,生殖能と生殖寿命を向上させられるのではないか」という仮説を立て,それらを検証した。【方法】原始卵胞数のピークである生後60時間までを形成期,その後を減少期とし,新生仔C57BL6/J雌マウスに,オートファジー特異的誘導ペプチドTat-beclin1 D11(D11区)あるいは生理食塩水(対照区)を腹腔内投与した。36 h~108 hで回収した卵巣を用いて,原始卵胞数と一次卵胞数を評価した。もう一方の卵巣でオートファジーに関与および卵胞発育に関与するタンパク質の発現動態を解析した。さらに2~13ヶ月齢までの卵巣重量,卵胞数および妊娠率,平均産仔数を評価した。【結果と考察】卵胞形成期D11区の原始卵胞数は,同時間の対照区に比べ1.2~1.5倍高くなり,一次卵胞数は低い傾向がみられた。卵胞減少期D11区は,原始卵胞数と一次卵胞数に対照区と差がみられなかったため,以降の実験では,卵胞形成期D11区のみを用いた。D11区では,オートファジーマーカーのLC3B-II/I比は,同時間の対照区に比べ有意に高くなった。卵胞発育を抑制するPTENの発現量も高い傾向がみられた。2ヶ月齢のD11区は,対照区に比べ原始卵胞数が約1.5倍高かった。D11区の産仔数は,同月齢の対照区に比べ2および6ヶ月齢で有意に高く,10ヶ月齢でも高い傾向がみられた。また,10ヶ月齢の妊娠率も高い傾向がみられた。以上から,マウスでは,原始卵胞形成期でのオートファジーの促進が原始卵胞プールを拡大し,雌個体の生涯の生殖能を向上させることが初めて示された。

一般口頭発表
卵・受精
  • 中村 啓哉, 中谷 友紀, 正木 香, 安野 航, 若井 淳, 松原 和衛
    セッションID: OR1-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】胚発生期の体内で起こる,始原生殖細胞(PGCs)の生殖隆起(GR)への移動は,細胞のアメーバ様運動とサイトカインを中心とした誘引シグナルの受容によって実現される。マウスPGCsの誘引シグナルは,ケモカインであるSDF-1/CXCL12とその受容体CXCR4が同定されており,誘引シグナルをガイドとして,PGCsはGRに方向性を持って移動する。しかし,誘引因子を受容するCXCR4は,PGCsがGRに定着すると同時に発現が低下し,PGCsは移動能力を失う。当研究室では,マウスやラットの同種血清を添加した培地でマウスGRを器官培養すると,PGCsがGRの組織外に移動することを報告しており,PGCsの単離や移動能力の解析に有用と考えられる。本研究では,同種血清添加によるPGCsの遊離現象を詳細に検討するために,添加血清の違いによるDDX4(生殖細胞特異的タンパク質)発現細胞の動態とCXCR4の発現解析を行った。【方法】12.5dpcマウス胚よりGRを採取し,PLLコートされたカバーグラス上にGRを静置した。GRは10%FCSあるいは10%マウス血清を添加したDMEMで,それぞれ4日間培養し,細胞のシート状態を比較した。組織の形態や細胞の遊離状態を観察し,培養から4日後の細胞のCXCR4とDDX4の発現を免疫組織化学的に解析した。【結果】FCS添加区において,培養3日目頃からGRの形態が崩壊し始め,カバーグラス上に線維芽細胞がシートしている様子が観察された。一方,マウス血清添加区のGRは形態を保っており,線維芽細胞の広がりはFCS添加区と比較して少なかった。また,培養4日目のマウス血清添加区ではFCS添加区と比較して,DDX4陽性細胞がGRの組織外に多数遊離しており,細胞遊走時に特徴的な仮足の伸長も観察された。しかし,両添加区でのCXCR4の発現に大きな差は見られなかった。以上の結果から,同種血清を添加したPGCsの単離方法が期待される。現在,遊離細胞の遊走現象の原因を検討中である。

  • 月岡 大, 青木 不学
    セッションID: OR1-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】初期胚の発生過程と始原生殖細胞の発達過程の2つの時期において,リプログラミングと呼ばれる大規模な遺伝子発現パターンの変化が起き,この変化が全能性の獲得と配偶子の形成に必要であると考えられている。しかし,このリプログラミングを制御する機構については未だ明らかになっていない。遺伝子発現を制御する機構の一つとしてクロマチン構造の変化を介したヒストン変異体の関与が知られている。リプログラミングが起きている1細胞期胚と胎生11.5日目の始原生殖細胞では,いずれもクロマチン構造は弛緩状態にあることが知られている。しかし,これらの細胞におけるヒストン変異体の局在は完全には明らかになっていないため,リプログラミングへのヒストン変異体の関与は未だ十分には解明されていない。【方法】初期胚と始原生殖細胞におけるクロマチン構造の緩みに関与するヒストン変異体(TH2A,H2A.X,H3.1/H3.2,H3.3)の局在パターンを免疫染色法により解析した。【結果】初期胚ではTH2AとH2A.Xは1細胞期で他の時期に比べ多く核局在し,H3.1/H3.2は1細胞期では検出されず,2細胞期以降に検出された。H3.3は,どの時期においても検出された。一方で,始原生殖細胞では,緩いクロマチン構造を形成する胎生11.5日目において,TH2Aだけが核局在量を増加させていた。これらの事から,緩いクロマチン構造の形成については,TH2Aは初期発生過程および始原生殖細胞の発達過程のいずれにおいても関与しているが,H2A.XとH3.1/H3.2は初期発生過程においてのみ関与していることが示唆された。以上より,2つのリプログラミングにおける大規模なクロマチン構造の変化はヒストン変異体の局在変化により制御されていること示唆されたが,その制御に関与するヒストン変異体の構成は異なっていた。この違いがそれぞれの時期のリプログラミングにおける全能性の獲得と配偶子形成の準備という異なる結果を引き起こすことに関与していると考えられる。

  • 山口 泰華, TAM Patrick Pl, 田中 聡
    セッションID: OR1-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    細胞質と核の間の物質輸送は,細胞機能の調節に重要な役割を果たしていると考えられるが,その機能については不明な点が多く残されている。Importinは,細胞質−核間の物質輸送を担う分子として知られており,αサブユニットとβサブユニットが複合体を形成してカーゴ分子の核内へのimport,或いは核内からのexportに働く。我々は,Importinβファミリーに属するが,複合体を形成せずに単独で物質輸送を行うImportin13(Ipo13)に着目して研究を進めている。Ipo13は,生殖細胞に発現しており,減数分裂のパキテン期特異的に発現が増強,その発現変化に伴う輸送活性の上昇が,生殖細胞の減数分裂の進行に重要な役割を担っていることを明らかにしている(Dev Biol, 2006)。Ipo13は,通常のlong formに加え,精子形成過程において精巣特異的なshort formも発現している。このshort formが,long formのIpo13の物質輸送活性を調節していることを明らかにしている(Biochimica et Biophysica Acta, 2017)。我々は,始原生殖細胞に発現する遺伝子の1つとしてIpo13を同定したことから,初期胚でのIpo13の機能を明らかにするため,Ipo13の遺伝子欠損マウスを作成した。Ipo13欠損胚は,着床後まもなく致死となり,始原生殖細胞が形成される胎齢7.5日の胚を得ることができなかった。そこで,着床期胚におけるIpo13の役割に着目し,Ipo13欠損胚盤胞のin vitro培養を行なった結果,内部細胞塊由来の細胞の増殖が著しく低下するため,致死となることが明らかとなった。現在,Ipo13欠損胚盤胞由来のES細胞の樹立を進めており,その細胞を用いた機能解析についても報告したい。

  • 矢持 隆之, 橋本 周, 日野 佳子, 山中 昌哉, 中岡 義晴, 森本 義晴
    セッションID: OR1-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】体内での卵母細胞の発育において,壁性顆粒膜細胞は分泌因子を介したシグナル伝達により卵母細胞の発育を促進することが知られている。しかしながら,初期胞状卵胞由来発育途上卵母細胞の体外発育において,壁性顆粒膜細胞が卵母細胞の発育にどのように影響するかは不明である。本研究では,発育途上卵母細胞の体外発育環境の改善を目的として,壁性顆粒膜細胞が卵母細胞の生存,発育,成熟能に及ぼす影響を調べた。【方法】春機発動前ブタの直径0.3–0.9 mmの卵胞より,壁性顆粒膜細胞-発育途上卵母細胞複合体(MGOCs),及びMGOCsから壁性顆粒膜細胞を除去した卵丘細胞-発育途上卵母細胞複合体(COCs)を得た。得られた450個のMGOCs及び454個のCOCsを14日間培養し,卵母細胞の生存,発育,成熟能を観察した。【結果】14日間培養後の生存率はMGOCs群(54.4%)がCOCs群(37.2%)より高かった。卵母細胞の退行率に差はなかった(MGOCs:44%,COCs:41.9%)。COCs群では培養8日目以降に卵丘細胞の退行による自発的な裸化が観察されたが,MGOCs群では裸化は抑制された(COCs: 20.9%,MGOCs:1.6%)。卵母細胞の発育において,COCs群では培養8日目まで,MGOCs群は培養10日目まで卵母細胞直径の増加が観察され,培養後の卵母細胞直径はMGOCs群(117.9 μm)が COCs群(112.4 μm)より大きかった。さらに,MII期への成熟率においてもMGOCs群(78.9%)がCOCs群(47.7%)より高かった。また,培養期間を通してGV期での減数分裂の停止が維持されているかを観察したところ,COCs群において20%の卵母細胞で自発的な減数分裂の再開が観察された。一方で,MGOCs群では全ての卵母細胞がGV期で停止していた。これらのことから,卵母細胞の体外発育において,壁性顆粒膜細胞は,卵母細胞の発育,減数分裂停止の維持,成熟能の獲得に重要であることが示された。

  • Md Hasanur ALAM, Jibak LEE, Takashi MIYANO
    セッションID: OR1-5
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    The role of oocytes on follicular antrum formation has not been elucidated yet. We examined the effect of oocyte-derived growth factors, growth differentiation factor 9 (GDF9) and bone morphogenetic protein 15 (BMP15), on antrum formation using cultured bovine oocyte-cumulus cell complexes (OCCs). OCCs containing growing oocyte (105–115 μm) were collected from early antral follicles (1.2–1.8 mm) and used to prepare oocytectomized complexes (OXCs) and cumulus cell complexes (CCs). The mRNAs of GDF9 and BMP15 were expressed only in oocytes, but not in cumulus cells. The complexes were cultured for 5 days with or without GDF9 and BMP15 either alone or in combination. OCCs maintained their complex integrity and developed antrum structure, while OXCs and CCs neither maintained the structure nor developed any antrum without growth factors. GDF9 or BMP15 alone increased integrity of these complexes and induced antrum structure in OXCs and CCs. Furthermore, combination of GDF9 and BMP15 was more effective on both phenomena in all types of complexes. Outgrowing cumulus cells from OXCs and CCs cultured without growth factors or with BMP15 alone showed extensive spread of differentiated fibroblast-like cells. Combination of GDF9 and BMP15 suppressed the appearance of fibroblast-like cells in OXCs and CCs during the culture. Instead, the cumulus cells showed rhomboid and pebble stone-like appearances which were similar to those in OCCs cultured without GDF9 and BMP15. These results suggest that the oocytes maintain complex integrity by preventing cumulus cell differentiation and participate in follicular antrum formation via GDF9 and BMP15.

  • 樋口 智香, 奥野 智美, 神谷 拓磨, 山本 真理, 越智 浩介, 宮本 圭, 松本 和也
    セッションID: OR1-6
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】受精卵では,母性由来mRNAとタンパク質の分解,また胚性ゲノムの活性化が起きることにより,発生の制御が母性から胚性へと移行する。特に,母性タンパク質の分解は,ユビキチン・プロテアソーム系(UPS)によって行われており,この時期のタンパク質分解が,胚性ゲノムの活性化に関与することが明らかとなっている(Shin SW et al., 2010)。しかしながら,その詳細な関与機構は明らかとなっていない。そこで,本研究では,UPSによる母性タンパク質分解が関与する胚性ゲノム活性化の分子機構を明らかにすることを目的に,受精卵におけるタンパク質の過剰発現法を用いて,受精後にUPSによる分解が必要な母性タンパク質の探索を行った。【方法】公共データベースを用いたバイオインフォマティクス解析により,“受精後UPSにより分解され,転写抑制に関与する母性候補タンパク質”を検索した。次に,蛍光タンパク質と融合したmRNAを合成し,受精直後のマウス受精卵に顕微注入した。その後,蛍光による発現確認,胚盤胞期胚までの胚発生の観察を行った。さらに,過剰発現胚を網羅的な遺伝子発現解析に供し,2細胞期時期の遺伝子発現を調べた。【結果及び考察】候補タンパク質の検索から,8つの母性候補タンパク質を同定した。続いて,各母性候補タンパク質の過剰発現が,その後の胚発生に及ぼす影響を検討した結果,2細胞期での発生停止を引き起こすタンパク質として,翻訳後修飾のSUMOを結合する機能をもつタンパク質を同定した。さらに,網羅的な遺伝子発現解析の結果から,同定タンパク質を過剰発現した胚では,胚性遺伝子の発現が上昇していないことが明らかとなった。以上の結果から,受精後のUPSによる同定タンパク質の分解が引き金となり,胚性ゲノム活性化が誘導される可能性が示された。現在,同定タンパク質がSUMO化の標的とする因子の同定と,同定因子が胚性ゲノムを活性化する制御機構について解明を進めている。

  • 篠田 昌孝, 岩田 未菜, 大橋 武史, 出田 篤司
    セッションID: OR1-7
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】タイムラプス観察装置による受精卵の連続観察撮影と,ディープラーニング技術による受精卵の認識解析,動き解析,形態解析,数値解析により,定量的,客観的な受精卵の発育段階や品質状態の解析や評価が可能になりつつある。今回,我々は,ディープラーニング技術を利用して,1細胞,2細胞,3細胞以上の初期の発育段階の自動解析と,桑実胚,初期胚盤胞,胚盤胞,拡張胚盤胞の後期の発育段階と,その品質状態の自動解析を,牛体外受精卵AI解析クラウドシステムを利用して行った。【方法】本システムは,タイムラプス観察装置,専用培養ディッシュ,AI解析クラウドソフトウエア,Webダッシュボードで構成される。牛体外受精卵は,専用個別培養ディッシュに最大168個が配置され,タイムラプス観察装置で,最大6ディッシュ(1008個),20分間隔,8日間の連続撮影を行った。撮影された受精卵画像は,クラウドストレージに自動転送され,AI解析ソフトウエアにより自動的に各受精卵画像のID番号管理,画像処理,ディープラーニング解析,解析結果のデータベース化が行われる。【結果】受精卵の発育段階,品質状態の形態解析は,牛体外受精卵画像に,発育段階,品質状態の所見(教師)データを胚培養士によりラベリングして,これを基に,教師データ付きディープラーニング解析アルゴリズムを開発した。この受精卵形態解析により,受精卵の初期(1細胞,2細胞,3細胞以上)の発育段階と,後期(桑実胚,初期胚盤胞,胚盤胞,拡張胚盤胞)の発育段階と品質状態を自動解析することが可能となった。これら受精卵の発育段階,品質状態の自動解析により,初期発育段階の卵割現象,例えば,第1,第2卵割時間や,リバースクリベージやダイレクトクリベージなどの異常卵割の有無,後期発育段階の出荷発育時期や出荷品質評価などが可能となる。特に,受精卵の卵割時間や,異常卵割は,その受精卵の移植後の妊娠率との相関が報告されており,今後,本解析システムにより牛受精卵の卵割現象と妊娠率との関係を明らかにしていく。

  • 出田 篤司, 岩田 未菜, 山下 司朗, 白澤 篤, 千代 豊, 篠田 昌孝
    セッションID: OR1-8
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】牛IVF胚は体内で製造された胚と比較して低い受胎率,高い流産率および産仔の虚弱・巨大化など多くの問題を散見する。これらの問題を解決するため,非侵襲的に胚の発育挙動が確認できるタイムラプス観察装置が注目されているが,リアルタイムに胚培養士が膨大な画像データを解析することは難しい。そこでAI解析クラウドシステム(以下,AI解析システム)を用いて受胎性が高いIVF胚の自動選抜法の確立を最終目的とし,本研究ではAI解析システムの学習状況の進捗を報告する。【方法】食肉センターで採取した牛卵巣から卵胞卵子を吸引採取し,本会の定法に従って体外成熟培養・体外受精をおこなった。卵丘細胞を剥離した1細胞期胚を専用個別培養dishで体外培養すると共にAI解析システムによる観察をおこない,胚培養士による発育段階コードと,品質状態コードの所見(教師)データをディープラーニングで学習させ,胚培養士との所見結果との一致正解率を検証した。さらに初期卵割期で発生するreverse cleavage(以下,RC)やdirect cleavage(以下,DC)または胞胚腔形成時に発生する細胞質の収縮と拡張の繰り返し(以下,収縮/拡張)の検出精度も検証した。【結果】発育段階・品質状態コードの正解率はそれぞれ73%,89%であった。また胚培養士が出荷可能と判断した胚盤胞のAI解析システム正解率が94%,胚培養士が出荷不可と判定した胚盤胞のAI解析システム正解率が65%であった。さらにRC,DCの検出精度はそれぞれ60%,70%であり,収縮/拡張は胚培養士と同等のレベルで検出できた。本研究において形態学的には良好な牛IVF胚に含まれる不良胚をAI解析システムで自動検知できる可能性が示唆された。今後は多項目に及ぶ胚発育挙動と移植後の受胎結果や産仔の正常性を紐付けすることで,本AI解析システムにおける高受胎性IVF胚の選抜精度を向上させたい。

生殖工学
  • 須賀原 千明, 椋木 歩, 中尾 聡宏, 竹尾 透, 中潟 直己
    セッションID: OR1-9
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】動物実験を効率的に実施するためには,必要な数の個体を必要な時期に作製できる生殖工学技術がきわめて有用である。これまで私たちは,若週齢雌マウスにインヒビン抗血清(IAS)とウマ絨毛性性腺刺激ホルモン(eCG)の併用投与(IASe)により,短期間で大量の卵子を排卵させる技術(超過剰排卵誘起法)を開発し,マウスの作製効率が3–5倍に向上させることに成功した。そこで,さらに短期間で大量の個体を作製することを目的として,本技術で得られた幼若雌由来排卵卵子とあらかじめ凍結しておいた精子間で体外受精を試み,その最適条件を検討した。【方法】精子はC57BL/6J系統成熟雄マウスから回収,常法に従って凍結保存を行った。卵子は同系統成熟および若週齢雌マウスに超過剰排卵処理(IASe)を行うことで排卵誘起を行った。体外受精は,IASe由来卵子と凍結融解精子間で行い,受精培地中精子濃度,媒精に供した卵子数および還元型グルタチオン濃度について検討した。さらに,体外受精により得られた二細胞期胚はKSOM/AA培地中における体外培養および胚移植による産子への発生能を評価した。【結果】1. 体外受精培地内卵子数は,100個以下では安定して高い受精率が得られたが,媒精に供する卵子数の増加に伴い,受精率の低下が認められた。2. 体外受精培地中のGSH濃度が1.0 mM以上において,受精率の向上が認められた。3. 体外受精により得られた二細胞期胚は,体外培養および胚移植により,それぞれ胚盤胞期胚および産子へ発生した。以上の結果より,超過剰排卵誘起法由来卵子と凍結精子を用いた体外受精では,媒精に供する体外受精培地内卵子数に制限があるものの,GSH処理を行うことで受精率の改善を図ることができ,効率的に産子作出が可能であることが示された。

  • 桐木平 小春, 吉本 英高, 中尾 聡宏, 椋木 歩, 竹尾 透, 中潟 直己
    セッションID: OR1-10
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】マウス精子の冷蔵輸送法は,研究施設間の研究資源の共有を容易にすることで,共同研究の円滑化に有用な技術として注目されている。一方で,マウスバンクでは,大量の遺伝子改変マウス系統を保存するために,精子の凍結保存が行われている。精子の冷蔵輸送技術と精子凍結保存技術を組み合わせることで,マウスバンクにおける効率的な研究資源の収集システムが構築できると考えられるが,冷蔵保存した精子はダメージを受けやすく凍結保存することが困難である。そこで本研究では,凍結保存可能な精子冷蔵輸送技術を開発するために,最近,私たちが精子に対する冷蔵保護効果を報告したdimethyl sulfoxide(DMSO)およびquercetinを用いて(2017, Yoshimoto et al.),マウス冷蔵精子の凍結保存および冷蔵-凍結精子を用いた体外受精を行った。【方法】卵子および精子は,C57BL/6J系統の雌雄成熟マウスより回収した。精巣上体尾部を採取し,DMSOおよびquercetinを含有した保存液中で冷蔵保存した。冷蔵後,回収した精巣上体尾部から精子を採取し,液体窒素中で凍結保存することで冷蔵-凍結精子を作製した。冷蔵-凍結精子は,運動性解析装置(IVOS)による運動能,体外受精による受精能,体外受精により得られた胚の産子への発生能を評価した。また,実際に旭川医科大学-熊本大学間で冷蔵輸送を実施し,冷蔵輸送精子からの精子凍結および個体作製を行った。【結果】DMSOおよびquercetinは,冷蔵-凍結精子の運動率および体外受精における受精率を増加させた。また,冷蔵-凍結精子から得られた二細胞期胚は,正常に産子へと発生した。さらに,本法を用いて旭川医科大学-熊本大学間で輸送された冷蔵精子より調整した凍結精子由来二細胞期胚の仮親への移植により正常な産子が得られた。以上,本研究により,DMSOおよびquercetinは,マウス冷蔵精子の凍結保存における運動能および受精能の維持に有用であることが示された。

  • 越後貫 成美, 長谷川 歩未, 廣瀬 美智子, 本多 新, 寛山 隆, 中村 幸夫, 小倉 淳郎
    セッションID: OR1-11
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】NOD/SCIDマウスは,重度免疫不全マウスとして広く医学生物学研究に用いられているが,発生工学技術への応用が難しいことが知られている。そこで我々はC57BL/6マウスの過剰排卵に効果的であったプロゲステロン投与による性周期の同期化と抗インヒビン血清-hCGの組合わせ(Hasegawa et al. Biol Reprod 2012および2016)による新規過排卵誘起法をNOD/SCIDマウスに応用した。さらに得られた卵子をIVF,レンチウイルスによるTG, CRISPR/Cas9システムによるゲノム編集,および顕微授精を試みた。【方法および結果】過排卵誘起は,通常のPMSG-hCG法でも得られたが異常卵が多く確認された。新規過排卵誘起法では排卵された卵子のうち,正常卵の占める割合が48%(31/65)から94%(61/65)に増加した。IVFでは,他のマウス系統より前核形成に時間が掛かることが認められたが,受精率86%,産仔率58%と正常な発生が確認された。レンチウイルスによるEGFP遺伝子導入マウスの作製,およびCRISPR/Cas9システムによる毛の成長に関わるSgkl遺伝子のノックアウトマウス作製には,遺伝子改変のためのウイルスおよびCRISPR/Cas9の注入時間を通常より遅延させて行った。前者では20/31匹に遺伝子導入が認められ,後者では9/28匹(1匹の両アレル同一欠損のホモ,1匹のアレル間で異なる欠損のホモ,および7匹のヘテロ)のノックアウトマウスが得られた。またNOD/SCIDマウス卵子の顕微注入後の生存率は,これまで試みた全ての系統中で最も低かった(18%)。そこでSrCl2処理で卵子を硬化させることにより,生存率が67%まで改善され,最終的に産仔も得られた。以上の結果より,NOD/SCIDマウスにおいても我々の開発した新規過排卵誘起法により正常卵子・受精卵数が増加し,それらを用いることで,さまざまな発生工学的手法の応用が容易になることが明らかになった。

  • 金田 秀貴, 今井 里実, 桑山 リオ, 桑山 正成
    セッションID: OR1-12
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】近年急増している晩婚化などによる高齢不妊の主因として卵子の老化が指摘されている。老化により卵子は染色体異常だけでなく,その受精能,発生能が低下することが知られており,その治療法として,卵核胞(GV)移植による細胞質置換を用いた卵細胞質の正常化,発生能の改善が試みられている。GV移植は極めて高度で安定的な手技の確立が必須であるが,特に脱核・移植後の卵子生存性に大きく影響するピペット形状の条件設定が重要である。本研究ではGV移植による卵細胞質置換に最適なピペットの先端形状,特に肉厚の至適条件について検討した。【方法】食肉処理場より入手したブタ卵巣内直径4~5 mmの卵胞から常法により卵丘細胞・卵子複合体を採取後,0.1% ヒアルロニダーゼ存在下でピペット操作により裸化処理を行って得た1,081個のGV期卵子を供試した。20%ブタ卵胞液を添加したM199培地を培養に用いた。サイトカラシンB(5ug/ml)を含む培地での10,000xg,5分間の遠心処理によりGVを可視化させ,ピエゾを用いてGV除去,移植を行った。ピペットの内径をブタGV外径にほぼ等しい30±0.15um ,先端角度は90±2°になるようにプーラーで作製後,フッ化水素溶液により肉厚が約2um(A群),1um(B群),0.5um(C群)に段階的に薄化した。肉厚・内径値は,金属顕微鏡を用いて測定した。各肉厚のピペットによりそれぞれGV置換を行い,置換直後の生存率,再構築率および24時間後の生存率を比較した。【結果】A,BおよびC群における置換直後の再構築率はそれぞれ,50.5,61.5および72.3%,24時間後の生存率はそれぞれ30.9,59.4および70.0%であった。ピペット先端肉厚がGV置換の成功率に大きな影響を及ぼしていることが示され,特に先端肉厚が最薄0.5um場合に最も優れた成績であった。本大会では各薄化ピペットの脱核および核移植時の影響を含めた詳細データに加え,第二減数分裂中期への成熟率と今後の展望について考察したい。

  • 清田 弥寿成, 築山 智之, 浅見 拓哉, 岩谷 千鶴, 土屋 英明, 中村 紳一郎, 依馬 正次
    セッションID: OR1-13
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】近年,非ヒト霊長類にも適用できる遺伝子組替え技術が開発されたことから,今後,多様なヒト病態モデルカニクイザルの作出が期待される。外来遺伝子を全身性に高発現するTgカニクイザルを作出するためには,プロモーターの選択が重要であるが,カニクイザルでは個体レベルで十分な検討が行われていない。そこで,他の動物種においてユビキタスプロモーターとして頻用されているCAG,EF1αプロモーターを用いてGFP Tgカニクイザルを作製し,組織におけるプロモーター活性を評価した。またカニクイザル個体を用いた実験系は高度な動物倫理が求められるため,プロモーター活性を評価するアッセイ系を構築することも目的とした。【方法】各種プロモーターを搭載したレンチウイルス粒子を囲卵腔に注入した。その後ICSIにて授精させ,GFP陽性胚盤胞を仮親に胚移植することでTg産仔を作出した。産仔は皮膚生検,採血を行いGFPの発現を蛍光免疫染色,FACS,RT-qPCRにより評価した。プロモーター活性を試験管内で評価できるアッセイ系を構築するために,カニクイザルES細胞のAAVS1遺伝子座に各種プロモーターをノックインし,GFP発現レベルを未分化なES細胞,胚葉体,神経細胞などの分化細胞間で比較した。【結果】CAGプロモーターで 3頭,EF1αプロモーターで3頭のGFP Tgカニクイザルの作製に成功した。CAG GFP-Tgでは1コピーのTg挿入でも蛍光が皮膚で観察されたのに対し,EF1α GFP-Tgでは4コピーの挿入でも蛍光が観察されない個体が見られた。ES細胞を用いた解析から,未分化なES細胞においてはEF1αプロモーターの活性が強いものの,胚葉体形成後は弱かった。一方,CAGプロモーターの活性は未分化なES細胞では弱いものの,分化とともに発現が増加することが分かった。以上の解析結果から,個体でのGFP発現パターンとES細胞分化系は概ね一致しており,ES細胞分化系を用いたアッセイ系で個体レベルの解析を代替えできる可能性が示された。

  • 岡本 一駿, 松成 ひとみ, 内倉 鮎子, 小見山 泰史, 徳山 雄紀, 戎谷 力也, 金子 実央, 高瀬 仁美, 平出 恭我, 中野 和明 ...
    セッションID: OR1-14
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】重篤な症状を伴う病態モデルブタの研究利用においては,系統の効率的な維持・増殖が課題となる。致死性のデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)症状を示すdystrophin遺伝子(DMD)ノックアウト(KO)雄ブタは,キメリズムによる救済技術(胚盤胞補完)により全身症状が改善され,繁殖可能な成体へと誘導し得る(Matsunari et al., 2018)。このキメラブタ由来の凍結精子の受精能を評価するとともに,後代産仔の繁殖によりDMD発症個体を獲得し得るか検証した。【方法】凍結精子の体外受精条件を検討し,作製した胚盤胞を借腹雌へ移植した。得られたDMD XKOX+雌(F1産仔)に対して人工授精を行い,F2産仔を得た。産仔の遺伝子型および表現型を解析した。【結果】PFM液(機能性ペプチド研究所)を基本培地とし,前進運動精子1.75×105 /mL,8時間の媒精条件で,高効率に胚盤胞が得られた。胚盤胞123個を借腹雌3頭に移植した結果,全頭妊娠し,DMD XKOX+雌10頭を含む計17頭のF1産仔を得た。DMD XKOX+雌の血清CK値は同腹野生型(WT)個体より高い傾向にあったが,成長の遅滞は見られなかった。2頭のDMD XKOX+雌にWT精子を人工授精した結果,計19頭のF2産仔(雄8頭,雌11頭)が得られた。DMD XKOY雄(5頭)の出生体重は1.46±0.07 kgであり,同腹DMD XKOX+雌(1.25±0.13 kg; n=7),WT個体(1.21±0.12 kg; n=7)と同等であった。1ヶ月齢のDMD XKOY雄の血清CK値(65,030〜129,540 U/L; n=3)は,同腹WT個体(330〜1,817 U/L; n=6)より有意に(p<0.05)高値であったが,現在まで他個体と同等の体重増加を示している。【考察】胚盤胞補完技術により救済されたキメラ雄由来の凍結精子を用いた体外受精はDMD XKOX+雌の効率的生産に有効であり,DMD発症モデルブタの作出基盤となりえる。

  • 武藤 智之, 梅山 一大, 内倉 鮎子, 岡本 一駿, 徳山 雄紀, 中野 和明, 松成 ひとみ, 渡邊 將人, 長屋 昌樹, 長嶋 比呂志
    セッションID: OR1-15
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】常染色体優性遺伝病であるマルファン症候群の発症機構の1つにハプロ不全があり,その発症有無及び重篤度の違いは正常アリルのfibrillin-1遺伝子(FBN1)発現量と関係していると考えられている。本研究では,我々が既に開発したヘテロFBN1変異ブタのFBN1発現量をRNA干渉によりノックダウン(KD)することで,表現型を制御可能か否かの検証を目的とした。【方法】FBN1を標的とするshRNAを恒常的に発現するベクター(shRNAベクター)を3種類作製した(sh3602,sh6999,sh7625)。それらをブタ線維芽細胞に導入し,リアルタイムPCRでFBN1mRNA発現抑制度を比較した。次にFBN1ヘテロ変異個体由来の精巣上体凍結精子を用いてICSI-mediated gene transfer法により,体外成熟卵にshRNAベクターを導入した。sh3602区では154個,sh7625区では164個の胚をそれぞれ1頭のレシピエントの卵管に移植した。【結果】3種のshRNAベクターはそれぞれ効果的なFBN1mRNA発現抑制を示した(対照区比7.7%,16.1%,14.0%)。KD効果の高いshRNAベクター(sh3602,sh7625)を導入した胚の胚盤胞形成率と細胞数は,それぞれ32.5%(25/77)及び52.6±7.2,36.7%(29/79)及び60.9±10.8であり,非導入区の成績34.2%(26/76)及び71.7±9.9と同等であった。shRNAベクター導入胚を移植した2頭のレシピエントの受胎が確認された。【考察】FBN1発現抑制を目的とするshRNAベクター導入後も,胚の体外・体内発生能は良好に保たれると考えられた。今後は誕生してくる個体の表現型解析を行う予定である。

  • 入澤 奏, 中野 和明, 徳山 雄紀, 長谷川 航希, 岡本 一駿, 武藤 智之, 中西 信夫, 大原 聡美, 松成 ひとみ, 渡邊 將人, ...
    セッションID: OR1-16
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】男性糖尿病患者における性機能障害,精子形成能障害が知られている。本研究では,変異型ヒト肝細胞核因子1α(HNF1α)遺伝子の導入により糖尿病(DM)を発症するブタ(Umeyama et al. 2017)の精液性状と受精能力を解析することを目的とした。【方法】離乳後から毎日,基礎インスリン製剤(レベミル)の投与によって血糖値を制御したDM雄ブタ2頭(以下 No.76,No.84)の増体,空腹時血糖値,精液性状の推移を調べた。精子運動性は精子運動解析装置(SMAS-Pig ver., DITECT)を用いて評価した。14–15ヶ月齢時に採取した精液を,発情を同期化したマイクロミニブタ(フジマイクラ)の子宮深部に外科的に注入し,受精能を調べた。【結果】1–15ヶ月齢の空腹時血糖値の期間平均値は,それぞれ270 mg/dl(31–568)及び340 mg/dl(29–537)であった。両者の体重増加は6ヶ月齢まで同等であったが,6ヶ月齢以降はNo.76に増体率の低下がみられた(0.308 vs. 0.314 kg/day)。精液採取期間中(11–15 ヶ月齢),No.76の血糖値は大幅に変動し(51–259 mg/dl),それに伴い精子運動性にも著しい変動(運動精子率,16.8–78.3%)がみられた。一方,常時高血糖(229–328 mg/dl)を示したNo.84の精子運動率は良好に保たれた(74.7–88.9%)。14–15ヶ月齢に採取したNo.84の射出精子をマイクロミニブタ雌4頭に人工授精した結果,4頭全てが受胎した。【考察】変異HNF1α導入DMブタは,糖尿病が生殖能(特に,精液性状)に及ぼす影響の研究モデルとして有用であることが示唆された。

精巣・精子
  • 妹尾 真奈美, 瀧尻 崇史, 吉田 進昭, 伊川 正人, 小沢 学
    セッションID: OR1-17
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【緒言】PTBP1は未成熟mRNAに結合し選択的スプライシングを制御する。既往の研究においてPtbp1が精巣で高発現すること,ならびに精巣では選択的スプライシングが高頻度で起きていることが報告されている。そこで我々は「Ptbp1が選択的スプライシングを介して恒常的精子形成を調整する」との仮説を立て,ノックアウト技術を用いて仮説の検証を行った。【結果】出生後の精原細胞においてCreを発現するNgn3CreマウスとPtbp1 floxマウスを交配させることで精細胞特異的なPtbp1欠損マウスを作成し(cKO),精子形成過程におけるPtbp1の機能解析を行った。性成熟後(2ヶ月齢)のcKOでは精細胞が枯渇した精細管が多数観察され,精巣重量は有意に減少していた。こうした精子形成異常が生じる時期と原因を明らかにするため,cKOの精巣を継時的に回収し免疫組織化学的に解析した。その結果,出生後5日齢の時点で精細胞を含まない精細管の割合が有意に増加しており,Ptbp1が出生直後の精原幹細胞の増殖または維持に重要な役割を果たす可能性が示唆された。そこでPtbp1を欠損した精原幹細胞の性質について詳細に解析するために,CAG-CreMERマウスとPtbp1 floxマウスを交配させ,得られた新生仔から定法に従って精原幹細胞の体外培養株(Germline Stem Cells, GS細胞)を樹立した。更に,培地への4-ヒドロキシタモキシフェン添加により後発的にPtbp1を欠損させ(Ptbp1KO GS細胞),GS細胞におけるPtbp1の機能的役割を検証した。その結果,Ptbp1KO GS細胞は著しい増殖不全を呈すること,および抗Cleaved Caspase3抗体で標識されるアポトーシスを起こした細胞の割合が有意に増加することが明らかになり,Ptbp1がGS細胞の生存性に重要であることが示唆された。以上の結果から,Ptbp1は精原幹細胞の維持を通して,精子形成に寄与することが明らかになった。

  • 小沢 学, 吉田 進昭, 伊川 正人
    セッションID: OR1-18
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】選択的スプライシングとはエクソンの取捨選択により一つの遺伝子座から異なるタンパク質を生み出す機構であり,生体の発生および組織のホメオスタシスに極めて重要な役割を果たしている。精巣は脳組織とならんで選択的スプライシングが多様であることが報告されているものの,精子形成における選択的スプライシングの役割はこれまでほとんど明らかにされていない。我々は選択的スプライシングを制御するRNA結合タンパク質であるPtbp1が精巣において高発現することを見出しており,免疫組織化学的な解析からPtbp1の発現は精原細胞とセルトリ細胞において特に高いことを明らかにしている。また,精原細胞におけるPtbp1が精原細胞の生存性および増殖性に関与することを報告している(妹尾ら,WCRB2017および本大会)。一方,セルトリ細胞におけるPtbp1の機能的役割についての報告はこれまで皆無である。そこで,セルトリ細胞特異的なPtbp1欠損マウスを作成し,セルトリ細胞におけるPtbp1の機能について検証した。【方法および結果】Ptbp1 floxマウスとセルトリ細胞特異的にCreを発現するAmhCreマウスとを交配させることで,セルトリ細胞特異的Ptbp1欠損ウス(Ptbp1 cKO)を作成し,精巣を組織学的に解析した。その結果,Ptbp1 cKOの精巣重量はcontrolと比較して生後5週の時点で有意に軽く,精細管内には精細胞が凝集した多核巨大細胞が多数観察された。また8週齢における精巣上体精子数はcontrolの1/50以下であった。さらに,免疫組織化学的な手法を用いて精巣組織を解析したところ,Ptbp1 cKOにおいて血液精巣関門を構成するジャンクション関連タンパク質の異常な発現動態が確認され,さらに基底膜の接着から外れ精細管内に浮遊するセルトリ細胞が有意に増加することが明らかになった。以上の結果より,Ptbp1はセルトリ細胞の接着性を制御することで正常な精子形成に寄与することが示唆された。

  • 増田 英晃, 広瀬 海里, 富岡 郁夫, 高島 誠司, 保科 和夫, 濱野 光市, 高木 優二
    セッションID: OR1-19
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】我々はブタ精原細胞に特異的なモノクローナル抗体PSS1を作出した(繁殖生物学会,2007年)。PSS1抗体は,ブタ特異的で精原細胞の細胞質および細胞膜を認識する(北信越畜産学会,2012年)。同抗体とFACSを用いて,幼若ブタ精巣より前精原細胞を単離できる(日畜学会,2013年)。また,同抗体と磁性ビーズ(FG-beads)を用いて,幼若および成熟ブタの精巣から高純度で前精原細胞および精原細胞を単離できることを報告した(日畜学会,2016年,2017年)。さらに,昨年のWCRD2017において,MUSE細胞の単離方法を参考にして,幼若ブタの精巣細胞をトリプシン液中で10時間攪拌インキュベーションすることにより95%以上の純度で前精原細胞を単離できることを,免染およびOct4,VASA,GFRα1,PLZF,UCHL-1など精原細胞や幹細胞マーカー遺伝子の発現量で確認し報告した。そこで本研究では,精原細胞から精母細胞,精子まで様々なステージの生殖細胞と様々な体細胞が含まれる成熟ブタ精巣で,幼若精巣と同様のトリプシン処理により精原細胞を単離できるかどうかの検討を行った。【方法】食肉センターにて成熟精巣を採取した。精巣を細切した後,パパイン酵素により精巣細胞を分散さて,赤血球溶解処理を行って細胞懸濁液を得た。精巣細胞を試験管に入れ0.25%トリプシン液中で1時間から24時間まで37℃で振盪しながら培養した。得られた細胞を観察し,PSS1抗体での免染やqRT-PCRにより精原細胞の純度を評価した。【結果】幼若精巣と異なり,10時間のインキュベーションでは体細胞の混入が認められた。しかしながら,インキュベーション時間を24時間まで延長することにより純度が上昇し,成熟ブタでも精原細胞を単離することが出来た。処理する細胞数やトリプシン濃度,振盪方法など種々条件を最適化する必要が認められた。

  • Yasuhiro FUJIWARA, Risako NISHINO, Sabrina PETRI, Mary Ann HANDEL, Tet ...
    セッションID: OR1-20
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    Although organisms belonging to different subspecies sometimes produce fertile offspring, a hallmark of the speciation process is reproductive isolation, with hybrid sterility (HS) due to failure in gametogenesis. In mammals, HS is usually exhibited by males, the heterogametic sex. The phenotypic manifestations of HS are complex, but most frequently manifested as abnormalities during meiotic prophase, or aberrations in post-meiotic spermiogenesis, all leading to defective or absent gametes. The aim of this study was to determine the HS phenotypes in intersubspecific F1 mice produced by matings between Mus musculus molossinus and diverse Mus musculus domesticus classical inbred laboratory mouse strains. Most of these crosses produced fertile F1 offspring. However, when female BALB/cJ (domesticus) mice were mated to male JF1/MsJ (molossinus) mice, the (BALBdomxJF1mol)F1 males were sterile, while the (JF1molxBALBdom)F1 males produced by the reciprocal cross were fertile; thus the sterility phenotype is asymmetric. The sterile (BALBdomxJF1mol)F1 males exhibited a high rate of meiotic metaphase arrest with misaligned chromosomes, likely related to a high frequency of XY dissociation. Intriguingly, in the sterile (BALBdomxJF1mol)F1 males we observed aberrant expression of the Spo11 gene, encoding a meiosis-specific endonuclease playing a critical role in recombination and thereby affecting chromosome pairing. Together, these observations of an asymmetrical HS phenotype in intersubspecific F1 mice, causing misregulation of Spo11 gene expression and subsequent meiotic segregation defects of the XY chromosomes, provide new directions for understanding mechanisms leading to speciation in mammals.

  • 藤ノ木 政勝
    セッションID: OR1-21
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】5HTは神経伝達物質であるが,卵丘細胞でも産生され卵成熟やステロイド合成,また精子超活性化や先体反応を惹起する事が知られている。演者は以前ハムスター精子において5HTがその濃度に応じて5HT2受容体と5HT4受容体を使い分け超活性化を促進する事を示した(Fujinoki 2011)。そこで今回,各受容体の下流でどの様なシグナルが関わるのか検討した。神経細胞では5HT2受容体の下流でPLC/IP3を介したCaシグナルが,5HT4受容体の下流ではtmAC/cAMPシグナルが関与する事が知られている。【結果】5HT2受容体の下流でPLCおよびIP3Rが関与していた。しかしPLCによりIP3だけでなくDAGも産生されPKCの活性化が起こる事も有り得るが,今回PKCの関与はなかった。次いでtmACの阻害剤であるddAdoを作用させた所,5HT2受容体を介した超活性化の促進を阻害しなかったが,5HT4受容体を介した超活性化の促進は有意に阻害した。一方,sACの阻害剤を作用させたところ,時間経過と共にそもそもの運動および超活性化が阻害された。5HTの作用については,5HT2受容体および5HT4受容体の双方を介した作用が共にsAC阻害剤で阻害された。最後に,PKAについて検討したところ,5HT2受容体および5HT4受容体の双方の下流でPKAが関与していた。【考察】今回得られた結果から,神経細胞と同様に5HT2受容体の下流ではPLC/IP3を介したCaシグナルが,5HT4受容体の下流ではtmACの活性化が起こっている事が示された。そして5HT2受容体と5HT4受容体の下流で共通してsACとPKAの活性化という超活性化の基本的な調節経路の活性化が起こり,超活性化の促進が起こると考えられた。

  • 兵庫 夏実, 村西 由紀, 秋山 潤子
    セッションID: OR1-22
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】現在,ブタは人工授精による繁殖管理が主流である。養豚の現場では,人工授精前に精子濃度や精子活性などを測定することによって,種雄豚の受精能力を予測している。精子活性の指標として,精子の運動性の評価は多くの養豚場で行われているが,精子の形態評価はほとんど行われていない。また,ブタの異常精子の特徴をまとめた資料はほとんど存在していないため,この判断は経験や感覚に大きく依存している。一方,ヒトの不妊治療病院の現場では,迅速かつ簡便に精子形態を観察する方法がすでに報告されている(中村ら,2014)。本研究では,このヒト精子の形態評価方法をブタ精子に応用し,新規の精子形態評価方法(簡易凍結無染色法)の確立を検討すること,また,ブタ精子の形態図鑑を作成することを目的とした。【方法】養豚場の種雄豚6頭から精液サンプルを入手し,精液検査(精液量,希釈倍率,生存率,異常形態率,未成熟精子)を行った。簡易凍結無染色法では,希釈精液をスライドガラス上に滴下しカバーガラスをのせ冷凍し,顕微鏡下(400倍)で観察した。200個の精子を2回以上カウントし,その平均から異常形態率を算出した。運動精子を観察する従来の観察方法と簡易凍結無染色法の2つの方法で評価し,異常形態精子の割合を比較した。また観察した異常精子の形態を画像として取得し形態図鑑を作成した。【結果】従来法と簡易凍結無染色法を用いたブタ精子の異常形態率は,簡易凍結無染色法で平均10.75%であり,従来法の10.22%と比べて有意な差は認められなかった(p=0.42)。精子の異常形態として頭部奇形,頸部から尾部における細胞質小滴,尾部奇形などが認められた。簡易凍結無染色法では精子が運動していないため,より形態を観察しやすく,また特別な設備を必要としないことから,効率を重視する現場での評価法として向いていると示唆された。

  • Quzi Sharmin AKTER, Reza RAJABI-TOUSTANI, Kenji SHIMIZU, Yasushi KUWAH ...
    セッションID: OR1-23
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    Polymyxin B (PMB) has been reported to beneficial for boar semen storage by neutralizing endotoxin while PMB has also been shown to directly affect signalling molecules in somatic cells. This study aimed to examine the direct effect of PMB on boar spermatozoa. Ejaculated boar spermatozoa stored with BTS extender at 17°C were washed, incubated with various concentrations of PMB (0–100 µM) for 20 min, examined subjectively for percentages of total and progressive motillity, vigour grade (0–4) and agglutination score (0–4) and stained by propidium iodide for viability. In separate experiments, spermatozoa were preincubated with PMB (0–0.5 µM) for 10 min, stimulated for acrosomal exocytosis with calcium and calcium ionophore A23187 and fixed with glutaraldehyde at 5, 10 and 15 min. Per cent total motility and viability were not significantly different between 0 and 50 µM PMB with gradual decline at higher concentrations while progressive motility was significantly reduced at 25 µM or higher concentrations of PMB. Vigour grade was decreased at 75 µM or higher concentrations but agglutination scores were not affected. Preincubation with PMB resulted in a dose-dependent increase in per cent acrosomal exocytosis by 0.01–0.05 µM PMB at 10 min and by 0.05–0.5 µM at 15 min. These results show that PMB has direct effect on boar sperm motility, viability and acrosomal exocytosis.

  • 片岡 幸, 張 浩林, 絹川 将史, 内山 京子, 渡辺 元, 永岡 謙太郎
    セッションID: OR1-24
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】L型アミノ酸オキシダーゼ(LAO1)は,様々な生物種で保存されているアミノ酸代謝酵素の一つであり,フェニルアラニンやチロシンなどのアミノ酸を分解する過程で,過酸化水素とアンモニアを発生させる。我々は,マウスにおいてLAO1は精子の先体部に発現し,LAO1欠損雄マウスを用いた繁殖において,産子数の低下がみられることを過去に報告してきた(第109回相模原大会)。近年,家畜における繁殖率の低下が問題となっていることから,本研究は雄ウシにおけるLAO1精子発現の確認と発現レベルを評価する解析方法を確立するとともに,受胎率の異なる凍結精液を用いた解析をおこない,精子LAO1発現と受胎率の関係について検討を行った。【方法】マウスにおけるLAO1発現レベルの評価は,LAO1抗体を用いた蛍光免疫後のLAO1陽性精子率の算出を目視で行ってきた。本研究では正常受胎ウシ19頭(人工授精受胎率40%以上),低受胎ウシ10頭(受胎率20%以下)の凍結精液を試験に供し,まず初めにマウスと同様に蛍光免疫後のLAO1陽性精子率の算出を目視で行った。また,より客観的な評価を実施するため,画像解析ソフトを用いた陽性率の算出およびフローサイトメーターを用いた解析も試みた。【結果】ウシ精子においても,マウスと同様にLAO1は先体部分に発現することが確認され,LAO1陽性精子率を目視で計測した結果,正常受胎ウシ約48%であったのに対し,低受胎ウシでは約10%であり,有意に低いことが示された。画像解析ソフトを用いた解析結果においても,正常受胎ウシでは陽性率約48%,低受胎ウシで約25%であり有意差が認められた。フローサイトメーターを用いた解析では,条件設定が困難であり,さらなる検討が必要であった。以上の結果から,牛精子において,LAO1抗体を用いた染色とLAO1陽性精子率を画像解析で算出することで,受胎率の高い精子を選別できる可能性が示された。今後,LAO1がどのように受胎率に関与するかのメカニズム解析を行いたいと考えている。

生殖工学
  • 的場 章悟, SHEN Li, 井上 貴美子, 小倉 淳郎, ZHANG Yi
    セッションID: OR1-25
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    体細胞核移植法によってこれまで様々な哺乳動物種でクローン個体が作られてきたが,その作出効率はどの動物種においても非常に低い。我々はこの低い効率の原因として,ドナー体細胞に存在するヒストンH3の9番目リジン残基トリメチル化(H3K9me3),および核移植後に起こるXist遺伝子の過剰な発現がクローン胚の発生を阻害する主な原因であることをこれまで報告してきた。今回我々は,これらの二つの阻害因子について,それぞれヒストン脱メチル化酵素であるKdm4dの強制発現,およびXistノックアウト体細胞をドナーとして使用することで同時に回避した結果,マウスクローンの作出効率を最高で23%にまで改善することに成功した。しかしながらこのようにして作出したクローン胚でも,胎盤の過形成や着床後の発生停止など,クローン特有の異常な表現型がまだ認められた。そこで,これらクローン特有の発生異常の原因を見つけるため,胚盤胞期胚を用いてDNAメチローム解析をした結果,クローン胚でDNAメチル化異常を示す領域を多数同定した。また,着床前期胚のアレル特異的なトランスクリプトームおよびChIPシークエンス解析をした結果,最近新たに同定された「ヒストンH3の27番目リジン残基トリメチル化(H3K27me3)によって制御されるインプリント遺伝子群」が,クローン胚ではインプリント情報を失って両アレルから発現していることが明らかになった。H3K27me3依存的なインプリント遺伝子の多くが胎盤形成や着床後発生に関与することから,クローン胚ではこれらのインプリント遺伝子が過剰に両アレルから発現してしまうことでクローン特有の異常な表現型が起きていることが強く示唆された。以上の結果は,体細胞クローンの作出効率を改善する方法を示すだけでなく,今後のクローン研究をすすめていくうえで基盤となる重要なエピゲノム情報を提供するものである。

  • 小林 久人, AMOUR Julie Brind’, ALBERT Julien Richard, 白根 健次郎, 坂下 陽彦, 神尾 明日 ...
    セッションID: OR1-26
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    哺乳類特有の遺伝子制御機構である“ゲノム刷り込み機構”において,刷り込み遺伝子の多くは卵子形成過程で確立するDNAメチル化により片アレル性発現の制御を受けている。ヒト・マウス卵子の全ゲノムDNAメチローム解析により,哺乳動物卵子では遺伝子転写ユニット全体が高度にメチル化される特徴的なメチル化パターンを有することが明らかにされた。またマウス卵子ではLTR型レトロトランスポゾンを介する転写ユニット(LTRキメラ型転写物)が数多く同定されている。LTRキメラ型転写物が卵子DNAメチロームの多様性に関与する可能性を検証するため,マウス,ラット,ヒトの卵子DNAメチローム,トランスクリプトームマップを比較解析した。卵子で発現するLTRキメラ型転写物の多くは系統特異的かつ活性型のLTR型レトロトランスポゾン(ERV1,MaLRなど)から転写が開始しており,それらの領域的多様性はCpGアイランド含む多くのメチル化領域の種間差と関与することが明らかとなった。特に齧歯類特異的反復配列MT(Mouse Transcript)キメラ型転写物はマウス,ラットのCpGアイランドメチル化確立に強く貢献していることが示唆された。また,雌核発生胚のDNAメチローム解析により,LTRキメラ型転写物に誘導された卵子由来メチル化の多くは,少なくとも胚盤胞期胚まで維持されることが示された。本発表では,種間ゲノム・エピゲノム・トランスクリプトーム比較によりレトロトランスポゾンが卵子DNAメチローム種間差に与える影響を検証しつつ,これらの種間差が種特異的ゲノム刷り込み機構獲得とどのように関与したかについて議論する。

  • 谷 哲弥
    セッションID: OR1-27
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】従来,胚盤胞の質の評価は個体への発生能以外にも内部細胞塊および胚盤葉上層の細胞数,またはアポトーシスを起こした細胞数などの計測が用いられている。近年,胚盤胞期をMAPK阻害剤で処理すると内部細胞塊の胚盤葉下層への分化が抑制され将来胎児になる未分化な胚盤葉上層細胞数の増殖が誘導されることで胚の質が向上すると考えられているが胚移植後の個体への発生能についての検討はされていない。そこで本研究では,胚盤胞のMAPK阻害剤処理による胚盤葉上層の細胞数の増加が個体への発生能に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。【方法】実験にはICR系の雌マウスから採取した受精卵とウシ体外受精卵を用いて,桑実胚前から胚盤胞期にかけてMAPK阻害剤であるPD0325901を1uM培養液に添加し,胚盤胞期での免疫染色と遺伝子発現解析により評価した。胚盤葉上層の細胞数は,NANOG陽性細胞を胚盤葉下層の細胞数はSOX2陽性細胞から胚盤葉上層の細胞数の差から算出した。一部,受配雌へ移植して受胎率および個体への発生能を検討した。【結果】MAPK阻害剤処理したマウスとウシの胚盤胞の胚盤葉上層の細胞数は,無処理区と比較して有意に増加し胚盤葉下層の細胞数は有意に低下した。遺伝子発現解析においても, 胚盤葉上層のマーカーであるNANOGやFGF4の発現は上昇し胚盤葉下層のマーカーであるGATA6やSOX17の発現は低下した。マウス胚盤胞の胚移植後の受胎率および出生率は,対照区と比較して有意に低下した。ウシ胚盤胞の受胎率においても,受胎率が有意に低下した。これらの結果から,マウスとウシの胚盤胞形成時におけるMAPK阻害により胚盤葉上層と下層の不均衡が生じた。また,これらの胚盤胞は,個体への発生能を低下させることが示された。このことから,胚盤胞期での胚盤葉上層細胞数の増殖誘導だけでは胚の質を向上させず,胚盤葉上層と下層の細胞数のバランスが重要であるることを示唆している。

  • 山村 頌太, 郡 七海, 秋沢 宏紀, 唄 花子, 高橋 昌志, 川原 学
    セッションID: OR1-28
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】哺乳動物胚は桑実期から胚盤胞期にかけて内部細胞塊(ICM)と栄養外胚葉(TE)へ分化する。この過程において接触阻害を担うシグナル伝達系Hippo経路が重要な役割を果たすことがマウス胚で知られている。Hippo経路のエフェクターである転写コアクチベーターYAPとTAZが転写因子TEAD4と協調することにより,TEマーカーであるCdx2の転写を制御する。ウシ胚でもHippo経路がICM/TE分化に関与するといわれているが,詳細はわかっていない。さらに,哺乳類初期胚におけるYAPの解析は多いものの,YAPのパラログであるTAZについての知見は乏しい。そこで本研究では,ウシ初期胚におけるTAZ発現の役割を調べることを目的とした。【方法】食肉検査場由来のウシ卵巣から卵丘細胞−卵母細胞複合体を吸引採取し,定法に従い体外成熟,体外受精および体外培養に供しウシ胚を作出した。定量PCR,免疫染色により,卵母細胞および初期胚におけるTAZ遺伝子およびタンパク質の発現動態を調べた。続いて,TAZを標的としたshRNA発現ベクターを1細胞期胚に顕微注入しTAZ発現抑制(KD)胚を作出した。また,定量PCRおよび免疫染色により胚盤胞期におけるTEAD4CDX2などのICM/TE分化関連遺伝子のmRNA発現,およびCDX2タンパク質のシグナル強度の変化を調べた。【結果】ウシ初期胚発生過程においてTAZ mRNA発現レベルは16細胞期で最も高く,TAZタンパク質発現は,16細胞期以降で核内での強いシグナルが観察された。TAZ KD胚の胚盤胞期までの発生率は,コントロールと比較し有意差は認められなかった。TEAD4およびCDX2発現レベルはコントロールと比較しTAZ KD胚で有意に低下し,CDX2タンパク質もシグナルの減衰が認められた。以上の結果から,ウシ初期胚発生におけるTAZ遺伝子およびタンパク質発現動態および,TAZ遺伝子発現抑制が分化関連遺伝子の発現に影響を及ぼすことが明らかとなった。

  • 江村 菜津子, 髙橋 一生, 齋藤 ゆり子, 澤井 健
    セッションID: OR1-29
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】マウス桑実期胚の外側細胞では核内のTead4-Yap1複合体により栄養膜細胞(TE)分化関連因子の発現が促進される。一方,内側細胞ではHippo pathwayによりLats2がYap1をリン酸化することでTead4-Yap1複合体が形成されず,TE分化が起こらない。ブタ胚では,TEAD4の機能がHippo pathwayによって制御されているかどうか不明である。本研究では,ブタ胚においてYAP1およびLATS2の発現動態を明らかにし,さらにこれら因子の発現抑制を行うことで,ブタ初期胚の発生におけるYAP1およびLATS2の役割について検討した。【方法】ブタ体外成熟卵子および体外受精胚の1-細胞期から胚盤胞(BC)期にかけてのYAP1およびLATS2 mRNA発現量を解析した。1-細胞期胚にYAP1発現抑制用siRNA(YAP1 siRNA)もしくは遺伝子発現抑制効果を有しないControl siRNAを注入した。さらに,siRNAを注入しないUninjected区を設け,胚発生率を調べた。遺伝子発現解析は16-細胞期胚を用いて,YAP1OCT-4およびSOX2について実施した。LATS2に関しても同様の実験を行った。【結果および考察】YAP1およびLATS2発現量は成熟卵子もしくは1-細胞期胚で高く,その後低下した。YAP1 siRNA注入区においてはBC期への,LATS2 siRNA注入区では桑実期以降への発生が阻害された。YAP1 siRNA注入区においては,OCT-4SOX2発現量が他の2区と比較して高い値を示した。LATS2 siRNA注入区では,OCT-4発現量がControl siRNA注入区と比較して低い値を示した。SOX2発現量においても,LATS2 siRNA注入区で他の2区と比較して低い値を示した。以上の結果からブタ初期胚の発生にYAP1およびLATS2が必須であること,さらにHippo pathwayが組織分化に関与する可能性が示された。

  • 三浦 健人, 的場 章悟, 越後貫 成美, 並木 貴文, 伊藤 潤哉, 柏崎 直巳, 小倉 淳郎
    セッションID: OR1-30
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】哺乳類の受精では,精子が持ち込むタンパク質 phospholipase C zeta(PLCζ)が卵を活性化させ,その後の胚発生を誘導する。PLCζ mRNAを顕微注入しても,卵の活性化を誘導することができる。本研究では,注入するPLCζ mRNA濃度と,注入卵の活性化および胚発生との関係を明らかにすることを目的とした。研究にあたり,auxin-inducible-degron(AID)配列を持ったタンパク質をオーキシン依存的に分解する技術(AID技術)をマウス卵に応用することを試みた。【方法】B6D2F1マウス未授精卵に,各濃度条件(100 pg–100 ng/μL)のヒトPLCζ(hPLCζ)mRNAを顕微注入し,活性化率(前核形成率)および発生率(2細胞および胚盤胞率)を培養下で調べた。また,hPLCζ-AID-EGFP mRNAを注入したマウス卵を,オーキシン存在下で培養し,GFP蛍光強度および円形精子細胞注入法(ROSI)での産子率を求めた。【結果】100 pg–10 μg/μLのhPLCζを注入した卵は,活性化率と発生率が共に低かった。100 μg–100 ng/μLのhPLCζを注入した卵は,高い活性化率を示した。100 μg/μLのhPLCζを注入した卵が高い発生率を示した一方で,10 ng–100 ng/μLで注入した卵の発生率は低かった。hPLCζ-AID-EGFPを注入したマウス卵で観察されたGFP蛍光は,オーキシン添加培養により減少した。高濃度のhPLCζを注入した卵で観察された低発生率は,オーキシン添加培養により改善された。hPLCζ-AID-EGFPを注入し,オーキシン存在下で培養した卵を用いてROSIを行った結果,従来の卵活性化法と同程度の産子率が得られた。本研究により,AID技術を用いてマウス卵内のタンパク質を分解できること,高濃度のhPLCζ mRNAから翻訳されるタンパク質を分解することで胚発生率が改善することが示された。

  • 塚本 智史, 相澤 竜太郎, 辰巳 嵩征
    セッションID: OR1-31
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】脂肪滴はトリアシルグリセロールやコレステロールエステルなどの中性脂肪を中心部に含み,その周囲をリン脂質の一重膜で取り囲んだ構造体である。近年の研究から脂肪滴は単に細胞内で脂肪を貯蔵するだけの構造体ではなく,様々な生理機能とも関連したなオルガネラとして認識されている。脂肪滴はほぼすべての組織や細胞に観察されるが,その量や大きさは様々である。ほ乳動物(マウス)の卵細胞質にも脂肪滴が蓄積することが古くから知られている。これまでに我々はオートファジーの選択的分解に関わる基質(p62タンパク質)を脂肪滴表面上に発現させることで,受精直後に活発に誘導されるオートファジーによって,標識された脂肪滴が選択的に分解されるシステム(Forcedリポファジー)を構築した。Forcedリポファジーを起こした受精卵は,脂肪含量が半減し着床するまでの胚発生率が低下することから,卵細胞質に蓄積される脂肪滴は胚発生に少なからず必要であると考えられる。しかし,卵細胞質の脂肪滴の生理機能の全貌を解明するためには,脂肪滴だけを単離して構成するタンパク質の特性を明らかにする必要があると考えた。そこで,本研究ではマウス未受精卵(MII期の卵母細胞)から脂肪滴だけを特異的に単離するための方法を開発した。【方法】過排卵処理したC57BL/6J雌マウスの卵管膨大部から採取したMII期の卵母細胞を,サイトカラシンBを含む培地を入れた遠心用チューブに数十個ずつ集めて,二段階(低速と高速を組み合わせた)遠心を行った。遠心後に回収した卵母細胞内の脂肪滴は,ピエゾ式マイクロインジェクターを用いて吸引することで単離した。【結果】二段階の遠心によって卵母細胞内の脂肪滴は,細胞膜近傍に塊となって集合することが明らかとなった。塊となった脂肪滴はピエゾ式マイクロインジェクターを用いて吸引して単離できることが分かった。現在,さらに条件検討することで,脂肪滴を塊のまま囲卵腔に放出させて容易に単離する方法を開発中である。

  • 金 翔宇, 兵庫 夏実, 木下 円, 林田 空, 北條 友貴, 茅野 光範, 村西 由紀
    セッションID: OR1-32
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】内毒素LPSは繁殖機能を低下させることが知られており,ウシやヒトの繁殖障害の原因として考えられている。マウスを用いた先行研究において,受精時にLPSを添加し体外受精(IVF)を行うと,桑実胚以降への発生率が低下したことが報告されている。しかし,LPSがどのような作用機序で胚発生率の低下を引き起こしているかについては解明されていない。そこで本研究では,卵丘細胞を分離した卵母細胞を用いてLPS存在下でIVFを行い,さらにマウス生体を用いて受精時にLPSを腹腔内投与し,その後の胚発生および胎仔形成への影響を調べた。【方法】in vitroにおける検討:3–6週齢のICR雌マウスに過排卵処理を行い,卵管より卵子卵丘細胞複合体(COCs)を採取したのち,ヒアルロニダーゼで裸化処置した。裸化卵子と活性化精子を用いてLPS(0, 1, 10 µg/ml)を添加した受精培地(TYH培地)にてIVFを行った。その後,発生培地(mW培地, LPS不使用)にて発生させ受精率および各発生段階(2 cell, 4 cell, 桑実胚, 胚盤胞)の発生率を算出した。in vivoにおける検討:8週齢以上のICRマウスを用い,自然交配後プラグを確認した日をdpc0.5とした。0, 10, 100, 200 µg/kg LPSを腹腔内投与し,dpc18.5に解剖を行い,死産および吸収の痕跡を確認した。また,胎盤重量,胎仔重量および頭臀長を測定した。【結果】in vitro:受精率においては3区間で有意な差は見られなかった。1 µg/ml LPS処理区では受精および発生率に変化はなかった。しかし10 µg/ml LPS処理区では対照区と比較し4 cell以降の発生率が有意に低下した(対照区:93.6 %, 84.9 %, 82.0 %, 10 µg/ml LPS処理区:83.0 %, 71.0 %, 62.0 %, P<0.05)。in vivoにおける影響は,現在実験にて確認中である。

臨床・応用技術
  • 難波 陽介, 古家後 雅典, 坂本 与志弥, 内山 京子
    セッションID: OR2-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】本研究は,ウシ精子運動性が中温度域(15~20℃)で維持する輸送法を見出すことを目的とした。【方法】5頭のホルスタイン種種雄牛から採取した原精液を用いた。<実験1>トリス‐クエン酸糖液(TC液)またはホスファターゼ阻害剤カクテル加TC液(PIC液)を用いて精液を希釈し,18℃で24時間保存した。<実験2>0,0.1,1または10 mMのイミダゾール(Imi),フッ化ナトリウム(NaF)またはモリブデン酸ナトリウム(Mol)加TC液を用いて精液を希釈し,18℃で24時間保存した。<実験3>10 mMのImi加TC液で精液を希釈し,魔法瓶で15~20℃に保温しながら宅配便により輸送した。実験1~3で保存または輸送した精液はTC液で2回洗浄し,常法に従って凍結した。保存後または輸送後,凍結融解後および融解後のインキュベーション中の精子運動性を経時的に測定した。【結果および考察】<実験1>PIC液群はTC液群より,運動精子率が24時間保存後に高く,凍結融解後のインキュベーション中に高く推移した。<実験2>PIC液に含まれる3種類のホスファターゼ阻害剤について,それぞれ精子運動性に及ぼす効果を検討した。Imi添加では,測定中に運動精子率が濃度依存的に高く保たれ,10 mMで最も高かった。NaF添加では,10 mMで24時間保存後顕著に低下したが,インキュベーション中に向上し,いずれの濃度よりも高く推移した。Mol添加では,10 mMで24時間保存後に最も高かったが,凍結融解後およびインキュベーション中はいずれの濃度でもほとんど差がなかった。<実験3>実験2で精子運動性が高く保たれた10 mMのImi添加TC液を用いて精液を輸送した。輸送後およびインキュベーション中の運動精子率は無添加より高く推移した。以上より,イミダゾールは中温度域における輸送でウシ精子運動性を保つために有効な添加剤であることが示唆された。本研究は,日本中央競馬会畜産振興事業の助成を受けて行った。

  • 真方 文絵, 浦川 真実, 松田 二子, 大野 喜雄
    セッションID: OR2-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】ウシ性選別精液の普及により生産者の希望する性別の産子を効率的に作出することが可能となったが,通常精液と比較して精子活力が低く,品質の高い受精卵の生産効率が低いといった問題がある。そこで本研究では,ウシ性選別精液を用いた体外受精後の胚発生能および胚発育動態について検証した。【方法】食肉処理場由来ホルスタイン種経産牛の卵巣から卵丘細胞−卵母細胞複合体を採取し,体外成熟培養を行った。成熟卵母細胞は3頭のホルスタイン種雄牛のX精液と通常精液を使用して体外受精に供し,得られた胚をそれぞれX胚および非性選別胚とした。X胚と非性選別胚における受精率,胚盤胞期胚への発生率,染色体の正常性,および凍結融解後の生存性を検証した。また,受精卵の一部は個別培養ディッシュを用いて培養を行い,タイムラプス観察装置を用いて20分おきに10日間撮影を行うことで胚の発育動態を記録した。【結果】正常受精率と異常受精率のいずれにおいてもX胚と非性選別胚との間で違いは認められなかった。卵割率に差は認められなかったが,X胚において形態学的に良好な胚盤胞への発生率および孵化率が低下した。X胚では正常な染色体像である二倍体の割合が低く,二倍体と多倍体モザイクであるMixploidの割合が高かった。凍結融解後の生存率に違いは認められなかったが,孵化率が有意に低下した。タイムラプスを用いた胚発育動態の解析において,X胚では異常卵割の発生頻度が高く,発育速度の低下が認められた。また,孵化までの収縮回数が増加した。【考察】X胚では受精は正常に行われるものの,発生した胚の品質が低く,染色体異常が多いことから着床能力が低いことが予想された。タイムラプス観察によって発生初期の異常卵割を摘発・除外することで,体外受精により作出したX胚の受胎性を向上させることが期待される。

  • 山口 昇一郎, 林 武司, 浅岡 壮平, 上田 修二, 馬場 武志
    セッションID: OR2-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】牛性選別精液は通常精液と比べて封入精子数が少ないため,特に経産牛での受胎率が低く,受胎率向上が求められている。我々は豚において,10 mMカフェイン(Caf)を添加したモデナ液を用いて人工授精(AI)を行うと,AI後の子宮内の多形核白血球(PMN)数の増加が抑制され,受胎率の向上や慣行法の1/4の注入精子数でも通常と同程度の受胎率が得られることを報告している。そこで,深部注入器を用いた牛性選別精液AI体系における精液押出し液(通常は空気注入)について検討するため,培地へのCaf添加による精子への運動性およびAI後の子宮内PMN数への影響について調査した。【方法】試験1:培地はHepes添加BO液,モデナ液および市販のCaf添加済み体外受精用培地(IVF100)を検討した。BO液およびモデナ液には10 mM Cafを添加した。性選別精液は融解後,それぞれの培地で6時間培養し,顕微鏡下でその運動性を評価した。対照区は,無希釈でそのまま培養したものとした。試験2:AI後の子宮内PMN数を調査するため,発情期の未経産牛を用いて性選別精液のAIを行い,AI5時間後子宮灌流を行った。AIは深部注入器を用いて行い,子宮角深部に挿入した後,精液と試験1で決定した押出し液を子宮内に注入した。試験区は,Caf無添加区および添加区とした。対照区は,AI未実施とした。【結果】試験1:培養1時間目までは運動性に差が認められなかったが,培養2~3時間目においてBO液区およびIVF100区において有意な運動性の低下が認められた。モデナ液区は対照区と差は認められなかった。試験2:無添加区はAI未実施区に比べAI後の有意なPMN数の増加が認められたが,添加区は有意な増加は認められなかった。以上のことから,深部注入器を用いたAI体系において,10 mM Caf添加モデナ液を用いて性選別精液のAIを行うと精子の運動性を低下させずにAIにともなう子宮内PMN数の有意な増加を抑制できることが明らかとなった。

  • 石山 大, 内田 誠, 清水 秀茂, 松田 二子
    セッションID: OR2-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    経産牛の発情では腟粘液に膿や尿などの異常が少数に認められ,受胎に悪影響を及ぼすと指摘されている。今回,膿や尿などの異常への接触を回避する人工授精(AI)方法により受胎率が上昇すると考え,腟鏡を利用したより衛生的なAI方法と通常のAI方法の成績を比較検討した。【材料および方法】2016年4月から2018年4月の間に管内49酪農場のホルスタイン種経産牛445頭(延べ618回)の発情時に,腟内粘液を腟鏡と用手法で評価した。流出粘液の色や膿の程度は1–5の範囲でスコア化した(vaginal discharge score, VDS)。粘液に尿が確認された場合を尿腟とし,腟鏡検査にて判断した貯留量によって尿腟を軽度,中度,重度に分類した。ボディーコンディションスコア(BCS)は1–5の範囲で評価した。温湿度指数が73以上のものを暑熱ストレス有りとした。本研究では2種のAI方法をランダムに実施した。腟鏡利用AI法では,腟鏡下で外子宮口へ精液注入器を挿入し,腟鏡を引き抜いた後に直腸腟法へ移行しプラスチックシースカバーを子宮頚管内で破った。AI方法が受胎に及ぼす影響をフィッシャーの直接確立検定とロジスティック回帰分析により検討した。【結果】通常AIの受胎率は33.0%であったのに対し,腟鏡利用AIでは40.9%であり有意に高かった。受胎を目的変数としたロジスティック回帰分析の最終モデルには,AI方法の他に尿腟,BCS,暑熱ストレスが説明変数として選択された。このモデルにおける腟鏡利用AIと通常AIを比較したオッズ比は1.34(P = 0.09)だった。VDS = 2(薄濁り粘液)のものにおいて,腟鏡利用AIの受胎率が通常AIと比べて有意に高かった。【考察】腟鏡利用AIが受胎に好影響を及ぼしていた主な要因は,精液注入器に薄濁り粘液が接触するのを回避したことだと考えられた。腟鏡利用AIにおける衛生的範囲は外陰部から子宮頚管までの間に限られることから,発情時の薄濁り粘液は腟炎または子宮頚管炎を示唆している可能性がある。

  • 竹之内 直樹, 法上 拓生, 阪谷 美樹, 伊賀 浩輔
    セッションID: OR2-5
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】ウシの生涯生産性向上のためには,繁殖期の空胎期間短縮に加え分娩後の繁殖機能の回復促進が重要である。肉用牛の分娩間隔短縮が家畜改良増殖目標に掲げられている一方で,黒毛和種では妊娠期間が延長していることが知られており,分娩間隔短縮はより重要となっている。本研究では,分娩後の生殖器所見と初回排卵時期との関連性を調べ,次いで,分娩間隔の短縮を目的として,初回排卵が遅延する個体を摘発する診断基準を明らかにすることを目的とした。【方法】3ヶ月自然哺乳下の黒毛和種分娩牛18頭を供試した。分娩後約3ヶ月の期間,10日間隔で直腸検査および超音波画像診断装置により生殖器の変化を追跡した。試験牛群は初回排卵時期により,早期区(40日以内,n=5),正常区(60日以内,n=7)ならびに遅延区(60日以降,n=6)に区分した。得られた生殖器所見について,各区で比較検討した。【結果】初回排卵前の時期について,8 mm以上の主席卵胞個数の推移を調べた結果,遅延区で特徴的な所見が観察された。すなわち,全ての観察時に主席卵胞数が3個以上の出現率は,早期区,正常区および遅延区でそれぞれ23.1, 7.1ならびに68.3%であり,遅延区で高かった。次いで,初回排卵後の黄体は,遅延区で超音波ドプラ強度は低かったが,他2区ではドプラは比較的明瞭であり,ドプラは初回排卵後の黄体確認に有効であった。なお,子宮修復はいずれの区でも同等であった。これらの結果に基づき,診断日を分娩後30または40日目と設定し,遅延個体については初回排卵前の主席卵胞個数が3個以上を摘発基準,さらに早期排卵個体については黄体ドプラの存在を診断基準とした。これらの基準による試算では,遅延個体の診断率は分娩後30または40日目でそれぞれ83.3, 100%であった。以上のことから,超音波画像による主席卵胞個数および黄体ドプラの確認は回復遅延個体の摘発に有効であることが示唆された。なお,本研究は農林水産省委託プロジェクト研究による成果である。

性周期・妊娠
  • 舟島 なつみ, 柳沼 日佳里, 野口 龍生, 谷川 奈央, 鬼沢 優里, 濱野 晴三, 宮村 元晴, 細江 実佐, 作本 亮介, 古澤 軌, ...
    セッションID: OR2-6
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】近年,3回以上人工授精(AI)しても受胎しないリピートブリーダー牛(RBC)の存在が問題視されている。RBCを妊娠させるため,AI7日後に胚を移植する「追い移植」を行うことで約半数のウシが妊娠に至るが,その機序は不明である。また,追い移植では子宮内に胚が2つ存在し,双子による分娩事故につながる可能性が問題となる。そこで本研究では,双子妊娠を回避するための単為発生(PA)胚を用いた追い移植(AI+PA)を展開するため,PA胚のインターフェロンタウ(IFNT)産生能力および移植後の基礎的検討を行った。【材料と方法】交雑種卵子を材料とし,体外受精(IVF)およびPA処理により作出したIVFおよびPA胚のIFNT mRNAを測定した。また,それぞれの培養液を脾臓細胞に添加し,ISG15 mRNA発現量を測定した。さらにISG15発現制御領域にルシフェラーゼ遺伝子を連結したコンストラクトを導入したMDBK細胞でバイオアッセイを行った。AI+PAが受胎率に与える影響を検討するため,黒毛和種雌にPA胚移植およびAI+PAを行った。また,対照にAI区を設けた。発情後14および21日目に採血を行い,妊娠判定後,末梢血白血球内のISG15 mRNAの測定を行った。【結果】PA胚のIFNT mRNA発現量はIVF胚より有意に高く,凍結融解後も同様の結果であった。IVF・PA胚の培養液やIFNTを脾臓免疫細胞やMDBK細胞に添加した結果,全ての区でISG15 mRNA発現量やルシフェラーゼ発光量が増加した。受胎率はPA胚移植区で0%,AI+PA区で53.3%だった(対照区60%)。追い移植妊娠群における末梢血白血球内のISG15 mRNAと血中プロジェステロン濃度はAI妊娠群に比べて有意に高かった。AI+PA区で双子妊娠や難産,流産,産子の発育異常などは見られなかった。以上から,PA胚はIFNT産生能力を有し,PA胚を移植しても妊娠には至らず,かつAI由来胚の妊娠に影響を及ぼす可能性は認められなかった。

  • 硲野 健, 羽田 真悟, 松井 基純
    セッションID: OR2-7
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【背景】近年,ウシの排卵後に形成される黄体と第一卵胞波主席卵胞が同一卵巣内に存在する場合(共存),別々の卵巣内に存在する場合(非共存)と比較して,人工授精受胎率が低下することが報告された。受精後の早期胚は,約4日間卵管内で発育する。卵管内の胚発育環境は卵巣内構造物である卵胞および黄体が産生するエストラジオール(E₂)とプロジェステロン(P₄)によって制御されており,卵胞期には卵胞側卵管のE₂濃度が,黄体期には黄体側卵管のP₄濃度がそれぞれ増加することから,卵管局所のホルモン濃度は卵巣内構造物による局所制御を受けることが知られている。【目的】本研究では,第一卵胞波における共存の主席卵胞が卵管機能に及ぼす影響を明らかにするために,卵管局所のE₂およびP₄濃度とその受容体,これらのホルモンによって制御される因子の発現に与える影響を調べた。【方法】と畜場において,黄体と卵胞の形態および生殖器の外貌から排卵後4日目と推定されるホルスタイン種牛の生殖器から卵管組織を採取した。共存と非共存の各群について,黄体側の卵管組織中E₂およびP₄濃度,E₂受容体(ESR1&2),P₄受容体(PGR)およびE₂依存的に発現調整されるOVGP1 のmRNA発現を測定し,これらの関係を調べた。【結果】卵管組織中E₂とP₄濃度は,共存と非共存の間で差は見られなかった。また,卵管上皮細胞のESR1&2,PGR mRNA発現およびOVGP1 mRNA発現についても共存と非共存で差は認められなかった。【考察】共存と非共存の黄体側の卵管において,主席卵胞の有無は,卵管組織中のE₂とP₄濃度,卵管上皮細胞におけるE₂およびP₄受容体の発現に影響しないことに加え,E₂受容体を介してE₂依存的に発現が調節されるOVGP1 mRNA発現にも影響しないことから,共存の第一卵胞波主席卵胞は,卵管局所のホルモン環境とそれらによって調節される因子の発現に関与しないことが明らかとなった。

  • 外山 晴香, 村瀬 晴崇, 佐藤 文夫, 河田 祐樹, 井上 亮, 渡辺 元, 永岡 謙太郎
    セッションID: OR2-8
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】哺乳類にとって,消化管内に生息する腸内細菌叢は生体の恒常性維持に重要であり,腸内細菌叢を正常に保つことは疾病のリスクを下げると考えられている。ウマは巨大な盲腸を有する後腸発酵動物として知られ,ウマにおいても腸内環境を整えることの重要性はすでに指摘されている。一方,我々は腸内細菌叢と生殖機能との関係について注目し,実験動物を用いた研究を行っているが,ウマについては何もわかっていない。そこで本研究では,雌ウマについて発情周期中の腸内細菌叢の動態を解析するとともに,血中性ホルモンと相関する腸内細菌の存在を明らかにすることを目的とした。【方法】正常な発情周期を示す健康なサラブレッド種雌ウマ5頭から,1ヶ月間,1日ごとに血液と糞便の採取を行った。その間,超音波検査により排卵日の確認を行った。血中のエストロジェン(E₂)とプロジェステロン(P₄)濃度はRIA法により測定を行い,糞便中の腸内細菌叢についてはDNA抽出後,次世代シークエンサーによるメタゲノム解析を行った。【結果】メタゲノム解析の結果から,雌ウマ5頭の腸内細菌叢において,門レベルおよび科レベルで個体間に大きな差は認められなかった。排卵日を基準として,5頭の血中E₂とP₄濃度の平均値を求めたところ,卵胞の発育に伴うE₂濃度の上昇と排卵後の黄体形成に伴うP₄濃度の上昇が確認された。これらE₂およびP₄濃度変化と相関する腸内細菌を門レベルおよび科レベルで解析を行った結果,科レベルにおいて,E₂と正の相関を示すクラミジア目に属するパラクラミジア科とカンジダ目に属するTM7-1,P₄と正の相関を示す乳酸菌目に属するストレプトコッカス科が示された。興味深いことに,ストレプトコッカス科と同じ乳酸菌目に属するラクトバチルス科はP₄と負の相関を示した。以上の結果から,雌ウマにおいて,発情周期中の血中E₂とP₄が腸内細菌叢構成の変化に影響を及ぼすと考えられ,特にE₂は病原性細菌と,P₄は乳酸菌生育に関与する可能性が示唆された。

  • 竹内 栄作, 関 美沙都, 福井 えみ子, 松本 浩道
    セッションID: OR2-9
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】本研究室において,着床遅延胚および着床誘起胚における内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)の発現動態を解析した結果,着床能力獲得過程において,eNOSのリン酸化が関与することが示唆されている。内皮細胞や血管芽細胞において,Akt経路がeNOSのリン酸化に作用することが報告されている。また,PI3K/Akt経路はマウス胚盤胞における細胞接着因子の発現に関与することが報告されている。このことから,Aktを介したeNOSのリン酸化により着床能力が獲得される経路の存在が考えられる。よって本研究では,マウス胚盤胞の着床能力獲得過程においてAktがeNOSのリン酸化に作用しているか検討した。【方法】ICR雌マウスを用いて,妊娠4日目に卵巣摘出を行い,妊娠5~7日目にプロゲステロンを投与して着床遅延モデルを作出した。プロゲステロン投与23時間後に着床遅延胚を,エストラジオール-17βの投与23時間後に着床誘起胚をそれぞれ回収した。固定後,着床遅延胚および着床誘起胚におけるリン酸化型Akt(p-Akt),リン酸化型eNOS(p-eNOS)の発現動態を多重免疫蛍光染色により解析した。また,Akt阻害剤MK-2206処理をした着床誘起胚におけるp-eNOSの発現動態を同様に解析した。【結果】着床遅延胚,着床誘起胚においてp-Aktおよびp-eNOS発現は栄養外胚葉の細胞質で共局在していた。さらに着床遅延胚と着床誘起胚を比較して,p-Aktおよびp-eNOS発現は着床誘起胚において高く,同一胚におけるそれらの発現量は正の相関を示した。また着床誘起胚においてAkt阻害剤MK-2206処理をしたところ,対照区と比較してp-eNOS発現はMK-2206処理区において減少した。本研究の結果から,着床誘起胚においてeNOSのリン酸化にAktが作用していることが示された。このことから,Aktによるリン酸化を介してeNOSが活性化されることで,マウス胚盤胞の着床能力が獲得されることが示唆された。

  • 井上 貴美子, 廣瀬 美智子, 長谷川 歩未, 持田 慶司, 小倉 淳郎
    セッションID: OR2-10
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/21
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】胎盤特異的に発現が観察されるSfmbt2遺伝子は,齧歯類特異的な父性発現刷り込み遺伝子である。既報により,父性アレルの欠損が胎盤低形成を原因とした胎生致死を引き起こす事が知られているが,その胎盤発生における機能については分かっていない。本研究では,Sfmbt2遺伝子の機能を明らかにする目的でSfmbt2遺伝子の欠失個体を作製し,その表現型を解析したので報告する。【方法】Sfmbt2遺伝子の第3と第10エクソンをターゲットとしたgRNAを合成し,(B6D2F1xB6)F1の受精卵にCas9タンパク,またはmRNAと共に注入を行った。2細胞期にて偽妊娠雌の卵管内に胚移植を行い,得られた個体について遺伝子型を決定した。【結果と考察】細胞質内注入を行った251個の2細胞期胚を移植し,83匹の産仔を得た。うち,3匹の産仔において目的の欠失が観察され,雌マウス1匹について野生型雄と交配を行ったところ,欠失遺伝子の次世代への伝達が確認された。次に,欠失を有する雄個体と野生型雌との交配により得られた次世代の遺伝子型を確認したところ,父親由来の欠失は次世代に伝達し,かつ既報に見られるような胎生致死は観察されなかった。さらに胎盤形態においても低形成などの異常は見られなかった。多型解析による発現解析により,野生型では正常な父性発現を示すが,父性アレル欠失マウスでは母性アレルからの発現が代替的に上昇しており,これによりレスキューされていることが明らかとなった。一方で,ヘテロ同士の交配においては,両アレルが欠失したノックアウト個体は胎仔期も含めて全く得られなかった。さらに遡って着床前の桑実期・胚盤胞期胚の遺伝子型を解析したところ,桑実期胚では23%,胚盤胞期胚では14%の胚がノックアウトであった。従って,Sfmbt2遺伝子は,着床期以降の胚の発生に必須の遺伝子であり,欠損によって,重篤な致死性を示すことが明らかとなった。

feedback
Top