主催: 日本繁殖生物学会
会議名: 第112回日本繁殖生物学会大会
回次: 112
開催地: 北海道大学
開催日: 2019/09/02 - 2019/09/05
【目的】精巣毒性は医薬品開発時の動物を用いた毒性試験あるいはヒトにおいて抗がん剤等の副作用として認められるが,有効なバイオマーカーが存在せず,臨床で非侵襲的に精巣毒性をモニターできるバイオマーカーの作出が求められている。非侵襲的な精巣毒性バイオマーカーの探索に資するため,本研究では実験的に精巣毒性を誘起したモデルマウスにおける精巣・精子のDNAメチル化ならびに精子small RNAについて解析・検討し,精巣毒性発現に伴う精子エピゲノム変化の捕捉を試みた。【材料・方法】8週齢雄C57BL/6Nマウスに精巣毒性誘発物質としてDoxorubicinを0.2 mg/kgならびに0.02 mg/kg,週2回・5週間腹腔内投与し,精細管の傷害を伴うが乏精子症には至らない軽度精巣毒性モデル,並びに組織病理学的精巣毒性所見を認めない潜在期精巣毒性モデルを作出した(対照群には生理食塩水を投与)。投与終了後13週齢において解剖し,精巣におけるDNAメチル化酵素の比較定量(Western blotting),精子DNAメチル化解析(MBD-seq),精子small RNA発現解析(RNA-seq)を行い,精巣毒性に伴うこれら精子エピゲノム因子への影響を検討した。【結果】作出した両モデルマウスの精巣において,de novoメチル化酵素として知られるDnmt3aならびにDnmt3bの低下が認められた。また,精子DNAメチル化については両モデルマウスにおいて投与用量依存的に,ゲノムワイドにDNAメチル化が低下することを見出した。さらに,これらモデルマウス精子のsmall RNAプロファイルについても精巣毒性に伴う変化が認められ,有意に発現量が変動したsmall RNAには炎症応答や臓器傷害に関連する特定のmiRNAも含まれていた。以上より,様々なエピゲノム因子が精巣毒性の顕在化に先立ち変動することが示され,精子エピゲノムが精巣毒性を高感度かつ非侵襲的に検出する早期バイオマーカーとして利用できる可能性を示した。