日本繁殖生物学会 講演要旨集
第112回日本繁殖生物学会大会
セッションID: AW1-5
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生殖工学
ES細胞は代謝シフトを介して全能性細胞へと変化する
*古田 明日香中村 肇伸
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抄録

【目的】ES細胞は,胚体外組織への分化能を失った多能性細胞であると考えられてきた。しかし,ES細胞には非常に低い割合で内在性レトロウイルスの一種であるMuERV-L(Murine endogenous retrovirus with leucine tRNA primer)を発現する細胞集団が存在し,分化全能性を示すことが報告されている。我々は,ES細胞をKSR(Knockout Serum Replacement)またはSSR(StemSure Serum Replacement)を含む培地を用いて,5日間培養することにより,効率よくMuERV-L陽性細胞を誘導できること,MuERV-L陽性細胞では2細胞期で一過的に発現する“2-cell genes”の発現が上昇し,解糖系に関与する酵素群の発現が低下すること,を見出した。本研究では,KSRまたはSSRに含まれるどの成分がMuERV-L陽性細胞の誘導に関与するか検討するとともに,エネルギー代謝経路の変化がMuERV-L陽性細胞の誘導に関与するかどうかを明らかにすることを目的とした。【方法】実験には,特定の成分を除いたSSRを作製してMuERV-L陽性細胞の誘導に用いた。また,MuERV-L陽性細胞を誘導する際に,2-Deoxy-d-glucose(0.3–1 mM)またはRotenone(3–10 nM)を用いて,解糖系または酸化的リン酸化を阻害した。【結果】特定の成分を含まないSSRを作成し,MuERV-Lの発現に及ぼす影響を検討したところ,アスコルビン酸はMuERV-L陽性細胞の誘導を促進し,インスリンはMuERV-L陽性細胞の誘導を抑制することが示された。また,酸化的リン酸化を阻害した場合にはMuERV-L陽性細胞の割合が顕著に低下することが明らかとなった。これらのことから,アスコルビン酸はMuERV-L陽性細胞の誘導を促進し,インスリンは抑制的に働くこと, ES細胞から全能性を有するMuERV-L陽性細胞への変換には代謝シフトが重要であること,が示唆された。

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© 2019 日本繁殖生物学会
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