主催: 日本繁殖生物学会
会議名: 第112回日本繁殖生物学会大会
回次: 112
開催地: 北海道大学
開催日: 2019/09/02 - 2019/09/05
【目的】体細胞クローン(SCNT)技術は,体細胞から個体を再生する唯一の生殖工学技術であるが,低出生率や胎盤形態異常など頻発する異常が問題となっている。これまでの様々な研究成果によりその低出生率は改善されつつあるが,SCNT胎盤に見られる胎盤過形成の原因は未だに不明である。本研究では,SCNT胎盤における過形成の原因を明らかにすることを目的として,胎盤特異的父性発現インプリント遺伝子を中心に解析を行った。【方法】胎盤特異的インプリント遺伝子の欠損マウスは,理研BRCより提供,またはCas9/CRISPRを利用して作製した。体外受精(IVF)胚とSCNT胚の11.5日胎盤を解析に用いた。miRNAはマイクロアレイにより発現解析を行った。【結果】SCNT胚で発現亢進が確認されている胎盤特異的インプリント遺伝子(Sfmbt2, Gab1, Slc38a4)について,発現補正をするために母性アレルを欠損させたマウス体細胞を用いてSCNTを行ったところ,胎盤過形成の改善は見られなかった。そこで,未知の要因を探索するために,IVFとSCNT由来の胎盤を用いて,miRNAの発現解析を行ったところ,ゲノム上の2つのmiRNAクラスター(Sfmbt2, MirgmiRNA)の発現が変動していることが明らかとなった。Sfmbt2miRNAもホスト遺伝子と同様,インプリント消失により発現量が亢進していると予想された。そこでSCNT胎盤における発現量を補正するために母性アレルを欠損させたSfmbt2miRNA KOの卵丘細胞を用いてSCNT個体を作製したところ,野生型と比較して過形成の緩和が確認された。胎盤構造を確認したところ,野生型SCNT胎盤では大きく増殖している海綿栄養芽層が減少している事が明らかとなった。【結論】クローン胎盤では,Sfmbt2miRNAがインプリント消失により父母両アレルから発現することで,ターゲットとなる遺伝子の発現が抑制され,海綿栄養芽層細胞の増殖が起こると考えられる。