主催: 日本繁殖生物学会
会議名: 第112回日本繁殖生物学会大会
回次: 112
開催地: 北海道大学
開催日: 2019/09/02 - 2019/09/05
【目的】ハタネズミ属は複胃を有する草食性のげっ歯類であり,全77種類のうち5種が絶滅危惧種に分類されている。このうち,ホンドハタネズミは日本固有種であり,日本の一部地域で絶滅危惧種あるいは準絶滅危惧種に指定されており,種の保全が求められている。ハタネズミは同属間で染色体数が異なることから種分化研究,大臼歯が常生歯であるため大臼歯再生実験などの実験モデルとしても着目されている。このため,ハタネズミ属の維持は有意義であり,各種実験を進めていくためには効率的な動物供給法の確立も必要であると考えられる。過去我々は,ホンドハタネズミの新鮮あるいは凍結-融解精子を用い,非外科的人工授精によって産仔を作出している。この実験では注入精液量が一子宮角あたり20 μlであったが,注入液漏出がみられた。より信頼性の高い技術に改善すべく,本研究では最適な精液注入量を検討した。【材料と方法】実験1では,妊馬血清性性腺刺激ホルモン(PMSG)投与の有無および一子宮角あたり5,10,15あるいは20 μlを注入した時の漏出量を調べるため,雌ホンドハタネズミに麻酔薬投与後,各容量のH-HTFを子宮角内へ注入し,漏出液量を計測した。実験2では, PMSG 15 IU投与48時間後に精管結紮雄と同居させた。次に実験1で決定した注入量(5あるいは10 μl)の実証のため,交尾9時間後,ホンドハタネズミ精巣上体尾部由来新鮮精子を偽妊娠雌に注入した(2×106個/子宮角)。【結果】PMSG有無および各容量注入時の漏出量について,有意差は認められなかったが,PMSG投与は漏出量を低下させる傾向があり,PMSG投与により子宮内への最大注入量が上昇することが示された。また,PMSG投与-5 μl注入区では漏出がみられなかったため,ホンドハタネズミにおける最適精液注入量は5 μlであることが示された。最後に5あるいは10 μlの注入量を用いて人工授精したところ,5 μl区で平均3.3匹,10 μl区で平均2匹の産仔を得た。