主催: 日本繁殖生物学会
会議名: 第113回日本繁殖生物学会大会
回次: 113
開催地: 東北大学
開催日: 2020/09/23 - 2020/09/25
【目的】受精卵移植技術は,受精卵が体外環境に曝されることによって品質が低下するという課題がある。本研究室では,医療分野でも活用されている近赤外光照射技術を用いて,受精卵のふ化率や移植時の受胎率が有意に向上することを明らかにしている(Yokoo and Mori, 2017)。しかし,その作用機序の詳細は明らかにできていない。そこで本研究では,受精卵に対する近赤外光の作用機序の解明に向け,近赤外光を照射したマウス胚のミトコンドリア機能を調査した。【方法】ICR系統の雌マウスに過剰排卵処理を施して交配にかけた後,交配が確認されたマウスから卵管を摘出し,顕微鏡下で卵管灌流を行って2細胞期胚を回収・培養した(37℃,5% CO2,95%空気)。培養3日目に発生した胚盤胞を用いて,ミトコンドリア膜電位,細胞内活性酸素種(ROS)レベル,ATP含量を調査した。ミトコンドリア膜電位および細胞内ROSレベルは,蛍光プローブによって染色した受精卵を倒立型デジタル顕微鏡で撮影し,撮影した画像を画像処理ソフトで解析した。ATP含量は,ルシフェリン・ルシフェラーゼ反応を応用した方法によって測定した。近赤外光照射は,LTU-904(Ga-As,904 nm; RianCorp社)を使用し,マウス胚が入ったディッシュの底から垂直に1分間照射した。【結果・考察】経時的なミトコンドリア膜電位の変化を調査した結果,照射前から照射30分後までに有意な変化は見られなかった。細胞内ROSレベルの調査では,照射3分後,5分後に有意に上昇し(P<0.05),それ以降は対照区と同等まで低下する結果が得られ,近赤外光を照射することで細胞内ROSレベルが一時的に上昇することが明らかになった。この細胞内ROSレベルの結果を基に,照射5分後のATP含量も調査したが,対照区と照射区で差は見られなかった。以上のことから,近赤外光を照射すると細胞内ROSレベルの一時期な上昇がシグナルとなり,受精卵のふ化率や移植時の受胎率に影響を与えている可能性が示唆された。