主催: 日本繁殖生物学会
会議名: 第114回日本繁殖生物学会大会
回次: 114
開催地: Web開催(京都大学)
開催日: 2021/09/21 - 2021/09/24
【目的】がん治療における卵巣機能の低下による不妊を避けるため,治療開始前に卵巣組織を凍結保存し,治療後の患者卵巣に再移植する妊孕性温存療法が行われている。しかし,妊孕性温存療法には,卵巣組織の再移植時に腫瘍細胞を再移植してしまう恐れがある。そのため,患者由来の卵巣組織を培養し,卵巣組織内の原始卵胞を体外で受精可能な段階まで発育させる体外発育培養技術の開発が求められている。アミノ酸代謝解析は,胚や卵子のアミノ酸の要求量の評価に有用であり,発生能の予測にも用いることが可能である。本研究は,ヒトと同様に単排卵動物である牛をモデルとし,体外発育培養において,多数の原始卵胞が二次卵胞に発育する場合と,二次卵胞への発育がみられない場合におけるアミノ酸代謝を比較し,卵胞発育能の指標となるアミノ酸とその代謝物を探索した。【方法】食肉検査場用由来の牛卵巣を1 mm程度に薄切し,短冊状に卵巣皮質を切り出し,4 × 2 × 1 mm程度の薄切片にした。それらの卵巣組織を6日間培養し,培養前後の卵巣組織を組織学的に解析した。培養前後の各発育ステージの卵胞数を計数し,二次卵胞数の上位3検体(7–11個)をMany群,下位3検体をFew群(0–1個)として,それらの卵巣組織薄切片の使用済み培養液中の遊離アミノ酸とその代謝物の濃度を,高速アミノ酸分析計を用いて測定した。【結果】検出された33種のアミノ酸とその代謝物のうち,13種のアミノ酸の濃度は増加し(P < 0.05),ホスホエタノールアミンとα-アミノアジピン酸(α-AAA)の濃度は減少した(P < 0.05)。また,α-AAAの濃度はFew群がMany群よりも高く,メチオニン,リシン,アルギニンの濃度はMany群の方がFew群よりも高かった(P < 0.05)。【考察】α-AAAは,リシンの代謝中間体であるが,リシンの濃度はMany群で高く,α-AAAは逆にFew群で高かった。したがって,培養下においてリシンの代謝が活発な場合,原始卵胞の二次卵胞への分化は抑制される可能性が示唆された。