抄録
【目的】異種間移植は大型哺乳動物の原始卵胞内の卵子(原始卵胞卵子)に胚発生能を付与する手法として期待されているが,未だに胚盤胞への到達例はない。そこで本研究では,ブタ卵巣を移植したマウスに性腺刺激ホルモンを投与し卵胞発育を促進することによって,原始卵胞卵子に胚発生能を付与できるか否かを検討した。【方法】原始卵胞から構成される生後20日齢のブタ卵巣皮質を細切し,20個前後の細切片を卵巣摘出ヌードマウスの腎皮膜下に移植した(Kaneko et al. BOR 2003)。膣開口後60日前後に,マウスに妊馬絨毛性性腺刺激ホルモン(eCG)の腹空内投与,またはブタFSHを充填した浸透圧ポンプ(Alzet)の皮下留置を行った。移植卵巣および末梢血を,eCG投与2日(eCG-2)または3日後(eCG-3),FSH投与7日間(FSH-7)または14日間後(FSH-14)に採取した。さらにLHサージの発現を抑制する目的で,FSH処理開始7日後に抗エストラジオール血清を投与し,処理開始14日後に移植卵巣を採取した(FSH-14AS)。【結果】ホルモン処理群,特にFSH-14AS群では胞状卵胞の発育が顕著であったが,FSH-14群では胞状卵胞の多くが血腫となった。マウスの血中総インヒビン濃度はホルモン処理によって上昇し,特にFSH-14AS群で高値を示した。直径115µm以上の卵子のマウス1匹あたりの採取数は,eCG-3群(68±11,n=14),FSH-7群(60±11,n=12)およびFSH-14AS群(49±9,n=8)において,性腺刺激ホルモンを投与しなかった対照群(18±5,n=9)に比較して明らかな増加を示した。体外成熟後,上記3処理群(eCG-3; 13±3,FSH-7; 21±4およびFSH-14AS; 16±5)では対照群(4±1)に比較して多数の卵子が成熟した。さらに100個前後の成熟卵子を体外受精し7日間の体外培養の結果,eCG-3,FSH-7およびFSH-14AS群においてそれぞれ1卵子ずつ胚盤胞への発生が観察された。以上の結果から,マウスに適切なホルモン処理を施すことによって,移植したブタ原始卵胞卵子に胚発生能を付与できる可能性が示された(科研費No.17380170)。