東南アジアのサンゴ礁は危機的な状況にあるが,そのかく乱要因の第一に「漁業」があげられている。代表的な破壊的漁業である爆弾漁やシアン化合物漁以外にも,サンゴ礁魚類の養殖,篭漁,活魚流通,サンゴ養殖も生態系への悪影響が指摘されている。だが,サンゴ礁生態系のかく乱と回復のメカニズムが定量的に把握されていない状況で,生態系を保全する側の視点から,漁業や養殖を批判的に見る傾向が強すぎるのではないだろうか。そこで,サンゴ礁生態系に悪影響があると言われている,これらの漁業および養殖の概況を,漁業を維持する側の視点から,インドネシア,フィリピン,香港,沖縄で調べた。その結果,本来両立するべきサンゴ礁生態系とサンゴ礁漁業が対立するケースが多々みられた。だが,定性的には,篭漁の影響はそれ程大きくなく,魚類養殖・活魚流通も,生態系への十分な配慮の下に振興するべきだと判断した。爆弾漁,シアン化合物漁はやはり破壊的であり,かつ,伝統的な漁業を駆逐してしまう恐れがあるので,厳しく取り締まっていく必要があると考える。この際,4カ月間の集中的な取締で爆弾漁を一掃した沖縄の経験は参考となるだろう。また,沖縄では,白化,オニヒトデ,赤土汚染など,漁業以外の生態系かく乱要因の影響が漁業の影響よりも大きいと判断された。東南アジアでも,これらのかく乱要因への対策を強化していく必要がある。今後,漁業・養殖のサンゴ礁生態系への影響を定量的に調べ,生態系保全と漁業・養殖のバランスをとっていくことが重要だと考える。